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56. スケさん達に何を持たせるか

 



「―――お姉さま!」

「待たせちゃってごめんね。私のほうが遅いとは思わなかったよ」


 武具店の正面で待っていたプラムと落ち合い、シズはそう声を掛ける。

 距離で言えば、昨晩の宿泊先である高級宿よりも、錬金術師ギルドのほうが武具店からはずっと近い。

 だからゆっくり歩いても、こちらが先に着くと思っていたんだけれど。まさか、既にプラムを待たせてしまっているとは思わなかった。


「気になさらないでくださいまし。気が()いたわたくしが、足早に来てしまっただけですので」


 そう答えて、柔らかく微笑むプラム。

 いかにも『お嬢様』らしい言葉遣いや仕草を好むプラムだけれど。彼女には少しも高飛車なところがなく、その性格はとても優しくて穏やかだ。


 プラムが大変に人柄の()い少女であることは、『リリシア・サロン』で数回話しただけでも、シズには判っていた。

 残念ながら彼女はシズと別のテーブルに着いていることが多かったから、今まではサロンであまり話す機会がなかったわけだけれど―――。


 今はこうして、ゲームの中で幾らでも彼女と交流を持つことが出来る。

 そのことがシズには堪らなく嬉しく思えた。


「あら、お姉さま。今は『配信』をしておられないのですか?」

「あっ……。そうだね、すっかり忘れてた」


 シズの周囲に『妖精』の姿がないのに気付いたのか、プラムがそう問いかける。

 そういえば食事を摂るために一旦ログアウトしてから以降は、『配信』の再開をしていなかったことに、シズも今更ながら気付かされる。


「ありがとね、プラム。それじゃ再開を―――」

「あ、お待ちになって下さいませ、お姉さま」

「……お?」


 意志操作ですぐに『配信』を再開しようとしたシズの左腕に、プラムが抱き付いてきて引き留める。

 ささやかながらも柔らかな感触が、シズの腕に確かに感じられた。


「も、もしかして、何か『配信』されたらマズかったりしたかな?」

「いえ、そういう訳ではありませんが。折角お姉さまと2人きりのようですから、今はもう少しその気分を味わいたいな……と」

「ああ……」


 『配信』を開始すれば、不特定多数の人から見られるだけでなく、視聴者からの遠慮のないコメントも大量に飛んでくるようになる。

 そうなれば『2人きり』の雰囲気なんて、即座に消し飛ぶだろうから。プラムが嫌がる気持ちも、判らなくは無かった。


「……ん、了解。じゃあ『配信』は暫くしないでおくね」

「あら、よろしいのですか?」

「私にもプラムと2人きりの時間を、楽しみたい気持ちはあるから」


 シズはそう告げて、プラムの頬にそっと触れる。

 僅かに赤らんだ彼女の頬には、その色味に釣り合うだけの温かさがあった。


「とはいえデート先が武具店というのは、ちょっと味気ないけどね」

「ふふ。それは言わないで下さいまし」


 しかも来訪の目的は『骨戦士(スケルトン)のための近接武器を見繕うため』だったりする。

 これではデートらしい雰囲気も何も、あったものではない。


「せめて手ぐらいは繋ごっか」

「はい、お姉さま。是非お願いしま―――うひょあ⁉」

うひょあ(・・・・)って」


 プラムの口から飛び出た声があまりに面白かったものだから、堪えきれずシズはその場でくつくつと笑い声を漏らしてしまう。

 ちなみに今プラムが上げた声は、繋いだプラムの右手の指の間にシズがするっと自身の指を絡めたことで出たものだ。

 いわゆる『恋人つなぎ』をしたのだ、と言えば判りやすいだろうか。


 笑っておいて何だけれど―――思わずプラムが声を漏らしてしまったその気持ちは、シズにもよく理解できるものだった。

 シズもまたユーリから全く同じことをされた際に、変な声を上げてしまったことがあるからだ。

 指と指の間は、普段刺激を受ける機会が全く無い場所だから。唐突に刺激されてしまうと、結構なくすぐったさがあるのだ。


「お店の中に入ろっか」

「はい、お姉さま」


 プラムと一緒に、シズは店の中を探索する。

 店内の様子を軽く見て回り、近接武具が陳列されたコーナーの前で足を止めた。


「スケルトン達に持たせる武具を、どれにするか決めたいんだよね?」

「そうですね。あとは、安ければ武器を幾つか買い足そうかと」

「もしかしてスケルトンを更に増やすつもりだったり?」

「はい。というか実は、現時点でも『4体』までなら生成できるのです」


 プラムは昨日、都市北方の森の中でどんどんレベルを上げた際に、スケルトンを召喚するスキルのランクを『4』まで上げていたらしい。

 スケルトンはスキルランクと同じ数まで生成できるそうなので、チケットで交換できる武器の2つ以外に、自腹でもう2つ武器を用意できそうなら、今日は一度に4体のスケルトンを引き連れて行動したいそうだ。


「うーん、でも結構良いお値段がしますわね……」


 近接武器のコーナーに陳列されている武器は、比較的安価なショートソードでも大体2000gita以上の値札が付いている。

 2本分となると、ゲームを昨日始めたばかりのプラムにとっては、ちょっと用意するのが厳しい金額だろう。


 シズからすれば2本買っても、今朝支払った宿代の3分の1程度でしかない。

 なので代わりにお金を出すのは、もちろんシズも吝かでないけれど。

 いや、それよりも―――シズにとってはもう『武器』はあまり必要じゃないわけだし。現物をプレゼントするほうが、プラムとしても受け取りやすいだろうか。


「プラム。今日戦う予定の魔物は、それなりに強い相手だから。私は後衛として、仲間の回復とかに専念しようと思ってるんだ」

「あ、はい。良いと思いますが」

「だから実は私にはもう、武器ってあんまり必要無いんだよね」


 そう告げてシズは、自身の『インベントリ』から両手用の槍と大弓を取り出す。

 もう前衛として戦う気がない以上、槍はどう考えても不要品。弓も構えていると咄嗟の時に霊薬や食べ物を口にしづらくなりそうだから、もう使う気は無い。


「良かったらこれも何かの近接武器と交換して、スケルトンに持たせない?」

「お姉さま……よろしいのですか?」

「うん。スケルトンがより戦力になってくれれば、私も助かるし」


 スケルトンはプラムから渡された弓をすぐに使いこなしていたぐらいだから、その戦闘能力は意外にあなどれない。

 素人のシズが下手に武器を持つよりも、スケルトンに持たせるほうが間違いなく戦力になるだろう。


「それと、近接武器は片手用のものを持たせて、もう片方の手に盾を持たせるのも良いんじゃないかな」

「盾、ですか? それはまた、どうしてでしょう?」

「理由は2つあって、1つは盾が思ったより安かったことかな」


 近接武器のコーナーまで移動してきた途中に、盾のコーナーがあったからさっと商品に目を通したんだけれど。一番安い『ウッドシールド』なら、値段はたったの500gitaしかしなかった。

 文字通り木材だけでできた盾なので、森林資源が豊富で木材が安いこの国だと、とても安価になるわけだ。


 あるいは、それより1つ高い『レザーシールド』でも800gitaで買える。

 どちらの盾を買うにしても、ゴブリンが持つ金属武器などを受け止めれば摩耗するだろうから、消耗品なことは間違いないけれど。

 初期費用が安いなら、選択肢としては充分アリだと思うのだ。


「あともう1つの理由としては―――うちのパーティには、圧倒的な『攻撃力』の持ち主がいるから。スケルトンの攻撃力は低くても良いんじゃないかなって」

「ああ、なるほど……」


 9歳という年齢を思わず忘れそうなほど、極めて刀の扱いに長けているイズミが居てくれる以上、パーティの殲滅力は充分に足りていると言って良い。

 だとするならスケルトンの役目は、イズミが何の気兼ねもなく魔物と1対1で戦えるように、他の魔物を押さえつけておくことだと思う。


 そういう意味では、盾を持たせて防御力を底上げしたスケルトン4体で固める、という構成も大いにアリだと思うのだ。

 前衛がイズミを含めて5人もいれば、魔物の数が多くても対処が可能だろうし、後衛の安全も十分に確立できる。

 それならシズは遠慮無くアイテムの使用に専念できるし、ユーリだって攻撃用の精霊魔法を乱射しやすくなる筈だ。


「そうですね……。お姉さまの仰る通りだと思います。スケさん達には片手武器と盾を持たせる方向で行こうと思いますわ」

「良かったら盾は私がプレゼントしようか?」

「いえ、ここは自分のお金で出しますわ。お姉さまのお気持ちは嬉しいのですが、支配下にあるスケさん達の装備品は、可能な限りわたくしが用意するのが主としての務めだと思いますので」

「ん、了解」


 そういうことであれば、無理にお金を出そうとするのも良くはないだろう。

 プラムの意志を尊重して、シズはすぐに引き下がることにした。


 近接武器の選択は少し迷ったけれど、最終的には片手用の鎚矛(メイス)を持たせることになった。

 刀剣武器や槍と違って雑に扱ってもあまり武器が傷まないし、盾と併せて魔物の攻撃を受け止める役にも立つという判断からだ。





 

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