55. プラムからの呼び出し
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7時半頃に一旦ゲームからログアウトして、2度目の朝食を摂った。
流石に午前2時半頃に朝食を摂ったきりで、正午まで粘るというのも辛いから。間に1回、軽めの食事を入れておこうと思ったのだ。
冷凍庫から1枚単位でラップ保存してあるスライスハムを取り出し、包丁で細かくカットする。
食パンの片面にケチャップを塗って、チーズとカットしたハムを散らしてから、オーブントースターに入れて加熱。
小さめの鍋に水を入れて火に掛け、沸騰した後に粉末のコンソメを入れて溶く。
冷凍庫からカットタマネギを取り出して適当に入れ、乾燥春雨も投入。
あとは春雨が適度に柔らかくなるまで、少しだけ煮込む。
最後に冷蔵庫のサラダストックから、1食分を皿に移して。
程なく焼き上がったトーストには、乾燥バジルと黒コショウを散らした。
というわけで、本日の2度目の朝食はピザトーストと春雨スープ、あとはいつものサラダの組み合わせ。
このぐらいお腹に入れておけば、昼までは余裕で持つだろう。
ピザトーストはケチャップとチーズさえ常備しておけば、あとは食パンを買ってくるだけでいつでも作れるから、朝食には便利なメニューだ。
スーパーではちゃんとした『ピザソース』も売ってたりするけれど。それなりのお値段がすることが多いので、あまり雫は買ったことがない。
ピザトーストぐらいならケチャップで作るほうが安上がりだし、それでも問題無く美味しく出来上がるのでお勧めだ。
ひとり暮らしの場合、チーズは冷凍庫で保存しておくほうが良い。消費ペースが遅いから冷蔵保存だと食べきる前にどんどん風味が失われてしまうし、最悪カビが生えることもあるからね。
なお、ピザトーストはピーマンなどの野菜を乗せて作ろうとすると、意外に難易度が高くなるので注意が必要だ。
野菜に熱を通すためにはトースト時間を長めにする必要があるけれど、そうすると今度は食パンのほうが焦げてしまったりするからだ。
美味しく作ろうと思うなら、野菜はフライパンで軽く炒めるほうが良い。
でも、そこまでするのは手間だし、洗い物も増えてしまう。
なのでシズは、ピザトーストはベーコンやハムを具材に乗せるぐらいに留めて、野菜は最初からサラダを別に用意して摂る方が賢いと思っている。
ご飯を食べた後に、汗を掻かない程度に軽めのストレッチ。
食事とゲームだけの生活だと、すぐに身体が鈍っちゃうだろうからね。
程良く身体が温まったところでVRヘッドセットを装着して、シズは再び『プレアリス・オンライン』の世界へとログインした。
*
ログインした位置は、錬金術師ギルドの建物の目の前。
……うん。最近は自分でも、もうここが定位置という気がしてきた。
『おはようございます、お姉さま』
ログインして数秒も経たないうちに、頭の中に直接響く声があった。
パーティチャットだ。それが誰の声なのか、もちろんシズにはすぐに判る。
『おはよう、プラム。今日はもうログインしてるんだね』
『はい、折角の日曜日ですから。起きた時にお姉さまがベッドに居て下さいましたなら、きっともっと嬉しかったのですが―――』
『ごめん、私は朝の2時ぐらいに起きたから、流石にそれは許して』
あの宿は良い部屋だったけれど……。流石に他の誰かがログインしてくるまで、部屋の中でひとりきり時間を潰しながら待つというのは寂しすぎる。
『あ、朝の2時、でいらっしゃいますか。お姉さまは随分と早起きですのね』
『昨日はログアウトしたあと、すぐに寝ちゃったからね……』
『あら、そうでしたの』
くすり、とプラムが小さく笑う声がパーティチャットで聞こえてくる。
顔は見えないけれど……彼女が今どんな表情をしているか、容易に想像できた。
『昨晩はわたくしやユーリさん、イズミさんの夢を見て下さいましたか?』
『ごめん、私普段から滅多に夢を見ないほうだからなあ……』
『あら、それは残念。ところでお姉さまは、今お暇でいらっしゃいます?』
『ログインしたばかりだから、もちろん暇だね』
たぶん何も言われなければ、2分後には『工房』に入ってただろうけれど。
『それは良かったです。よろしければ武具店に付き合って下さいませんか?』
『武具店? いいけど、武器か防具を買うの?』
『いえ、スケさん用の武器を変えようと思いまして』
『スケさん……?』
ご老公の供回りでもしてそうな名前には、心当たりが無かったんだけれど。
どうやらプラムは、生成した『スケルトン』のことを言っているらしい。
『本日向かう場所には、強い魔物が出現すると伺っておりますから。スケさん達に近接武器を持たせて、前衛を務めさせるほうが良いと思いまして。
お姉さまはこれまでに何種類かの武器を実際に使用しておられるでしょうから、是非とも武器選択の相談に乗って頂きたいのです』
『そういうことなら、喜んで。私の助言が役に立つかは怪しいけどね』
プラムは今までスケルトン達に長弓を装備させていたけから、確かにそのままの装備で前衛を務めさせるのは難しいだろう。
『武器チケット』で引き換えた初期武器は、後から他のものへ交換して貰うことができる。だからプラムは弓を返却して、近接武器に変えるつもりらしい。
現地の武具店で落ち合うことになったので、錬金術師ギルドの建物からゆっくり離れながら、シズは視界の半分に自身のステータス画面を表示させる。
2度目の朝食のためにログアウトする前に、〔錬金術師〕のレベルがまた1つ成長して『8』になっていた。
約4分おきに40個もの霊薬が作れてしまうので、生産経験値がどんどん入ってくるものだから、気づけばレベルも上がっていのだ。
現在のスキルポイントはもう『258』まで貯まっている。レベルアップに加えて、デイリークエストの達成でもスキルポイントの報酬が手に入ったからだ。
最近は〔錬金術師〕側のスキルばかりを上げていた気がするから、今回貯まっている分のスキルポイントは〔操具師〕側のスキルに使うのが良いかもしれない。
ちなみにデイリークエストの『新しい挑戦』は、『アンチドート』という霊薬を調合することで達成した。
これは視聴者からギフトで贈られた『調合レシピメモ』を使用して、新たに修得したレシピを用いて調合した霊薬だ。
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アンチドート/品質[68]
【カテゴリ】:霊薬
【注入特性】:〔生命回復Ⅰ〕〔敏捷増強Ⅰ〕
【霊薬効果】:毒を13回復、HP+20、[敏捷]+5(10分)
蛇の牙を主材料に調合した霊薬。
薬品よりも素速く体内の毒を弱めたり、消し去ることができる。
服用後は『120秒』間、霊薬が服用できない状態になる。
- 錬金術師〔シズ〕が調合した。
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名前の通り、飲用することで『毒』状態から回復させる効果がある霊薬で、調合材料には【蛇】の牙を1個使用する。
【蛇】というのは、蛇系の魔物であれば何でも良いらしい。なのでシズは手持ちの『水蛇の牙』を用いて、すぐに調合を行うことができた。
(そういえば、今日はユーリが最大HPを増加させる薬を作って来てくれる、って話だったよね)
そのことを思い出したシズは〈服薬術〉スキルのランクを『2』へ成長させる。
〈服薬術〉スキルは霊薬の効果だけでなく『薬品』の効果も引き上げてくれる。このスキルを伸ばしておけば、ユーリが作る薬の効果もより高まるはずだ。
他には昨日の採取中にアイテムの所持枠がかなり圧迫されていたから、持てる量を増やすために〈☆操具収納〉のスキルも新たに習得した。
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〈○服薬術Ⅱ〉
【霊薬】と【薬品】カテゴリのアイテムを服用した際に
最終的に発揮される効果量を『10』増加する。
また再服用までの冷却時間を『20秒』短縮する。
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〈☆操具収納Ⅰ〉
装備品・道具・薬品・飲食物が『5』枠まで収納可能になる。
このスキルで収納しているアイテムは状態が保存される。
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〈服薬術〉はスキルランクを伸ばすと、霊薬や薬品の効果量が増幅されるだけでなく、霊薬を服用できる間隔もより短くなるらしい。
スキルランク毎に10秒短縮されるということは―――最大ランクの『10』まで上げると、服用間隔が100秒も短縮されるんだろうか。
霊薬は基本的に『120秒毎にしか服用できない』という制限があるけれど、これが『20秒毎』になると、使用感がかなり変わりそうに思える。
こちらもまた、優先的に成長させておきたいスキルかもしれない。
〈操具収納〉は〔操具師〕が主に活用するアイテムなら、大体何でも収納することができるスキルだ。
但し『素材』系のアイテムは収納できないので、このスキルは〈素材収納〉のスキルと並行して伸ばすのが良いだろう。
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シズ
白耀族の聖翼種/能力倍率合計【170%】
〔操具師〕- Lv.6 【80%】
〔錬金術師〕- Lv.8 【90%】
HP: 45 / 30
MP: 62 / 62
[筋力] 8 (5)
[強靱] 11 (7)
[敏捷] 52+3 (31)
[知恵] 52 (31)
[魅力] 10 (6)
[加護] 51 (30)
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◆異能
《操具術》《特性吸収》《落下制御》《呪詛無効》《天使の輪》
《天翔る翼》《調合の妙》
◇スキル - 58 pts.
〈☆操具収納Ⅰ〉〈☆効能伝播Ⅰ〉〈○服薬術Ⅱ〉〈○食養術Ⅱ〉
〈☆アルカ鍍金Ⅰ〉〈☆特性注入術Ⅰ〉〈☆錬金素材感知Ⅰ〉
〈○初級霊薬調合Ⅹ〉〈○植物採取Ⅰ〉〈○素材収納Ⅰ〉
〈○生産品収納Ⅰ〉【○伐採Ⅰ】
〈☆聖翼種の浮遊能力Ⅴ〉
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―――というわけで、現在のステータスやスキルはこんな感じ。
生産のやり過ぎで生産職の〔錬金術師〕のレベルが先行して上がっているから。今日は以前に苦戦したゴブリン達を狩猟して経験値を稼ぎ、〔操具師〕のレベルも『8』まで上げたいところだ。
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お読み下さりありがとうございました。




