54. 夜明け前から霊薬を(後)
ベリーポーションは1回の調合に『10分』掛かるのが基本となるのだけれど、この時間は[敏捷]と[知恵]の能力値に応じて短縮することができる。
現在のシズは[敏捷]が『49』で、[知恵]が『48』。
どちらの能力値も以前より大きく成長していることもあり、現在では1回あたりの調合時間を『4分8秒』まで縮めることができていた。
(……どういう計算式なんだろう?)
その辺のことはあまり判らないけれど。所用時間が半分未満にまで短縮できるというのは、とても大きいことだ。
しかも1回の調合で18本纏めて生産できるものだから。生産効率がとても凄いことになっている。
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▽『ベリーポーション』18個の霊薬調合が完了しました。
生産経験値:810/スキルポイント:0
▽『ベリーポーション』18個の霊薬調合が完了しました。
生産経験値:810/スキルポイント:0
▽『ベリーポーション』18個の霊薬調合が完了しました。
生産経験値:810/スキルポイント:0
★〔錬金術師〕のレベルが『7』にアップしました!
任意の能力値の『成長力』を1ポイント増加できます。
レベルアップボーナスとして〔スキルポイント:100〕を獲得。
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ベリーポーションの生産で得られる経験値は、1本あたり『45』点。
18本纏めて作れるので、毎回『810』点の経験値が入ってくる。
この生産サイクルが4分ちょっとごとに繰り返されるわけだから―――経験値の入り方も凄まじいものがあった。
のんびりと生産を繰り返していると。やがてシズの身体がまばゆく光って輝き、ファンファーレ調の効果音が大きく鳴り響く。
この効率で生産していれば、そりゃレベルも上がるだろうなと思う。
《おめでとー!》
《おめでとうございます!》
《流石ですわ、お姉さま!》
《天使ちゃんはレベルが1上がった! 社畜度が3アップ!》
「ありがとねー、みんな。あと最後の人はちょっと待ちなさい」
結局デイリークエストの達成どうこうを考えるより、レベルアップでスキルポイントを貰ってしまう方が、色々と手っ取り早いのかもしれない。
シズは得られたスキルポイントを使って、早速〈○初級霊薬調合Ⅸ〉のスキルランクを更に1つ成長させてみる。
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★〈○初級霊薬調合〉スキルをマスターしました!
スキルの効果に一部変化が加わりました。
★新たに〈☆アルカ鍍金〉、〈☆特性注入術〉、〈○中級霊薬調合〉、
〈○変性加工〉のスキルが修得可能になりました。
◎希少実績『霊薬の先駆者』を獲得しました!
報酬として異能《調合の妙》を獲得しました。
○実績『脱・調合初心者』を獲得しました!
報酬として〔スキルポイント:100〕を獲得しました。
○実績『初めてのスキルマスター』を獲得しました!
報酬として〔スキルポイント:100〕を獲得しました。
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「わ、なんか色々来た」
〈○初級霊薬調合Ⅸ〉を〈○初級霊薬調合Ⅹ〉にランクアップしただけで。ログウィンドウに沢山の文章が一度に現れ、シズはとても驚かされる。
こう言う時は―――とりあえず順番に、ひとつひとつ確認していこう。
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〈○初級霊薬調合Ⅹ〉
錬金術を用いてスキルランクに応じた初級霊薬を生産できる。
初級霊薬を『20個』まで同時に生産できる。
霊薬の生産成功率が『10%』向上する。
生産した霊薬の品質値が『10』増加する。
霊薬の生産ラインを同時に1つ多く稼働させることができる。
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「おお……?」
〈初級霊薬調合〉スキルの詳細を確認してみると、確かにスキルの効果に変更が加わっていて。末尾の行に『霊薬の生産ラインを同時に1つ多く稼働させることができる』という一文が追加されていた。
生産ラインを1つ多く、という言葉の意味するところが、いまいちシズには理解できなかったのだけれど―――。
《たぶん霊薬の調合を2つ並行して行えるってことだと思うよ》
《今なら生産を行う水球を、同時に2つ出せるんじゃない?》
「あ、なるほど」
視聴者が寄せてくれたコメントを聞いて、ようやく理解する。
試しにやってみると、本当に水球を同時に2つ浮かべることができた。
それぞれの水球にヒールベリーを10個ずつ投入する。
魔力を注入し、2つの水球に〔敏捷増強Ⅰ〕の錬金特性も注入して。通常の手順通りに霊薬の生産を進めていくと―――。
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▽『ベリーポーション』20個の霊薬調合が完了しました。
生産経験値:900/スキルポイント:0
▼『逸品ベリーポーション』20個の霊薬調合が完了しました!
生産経験値:2700/スキルポイント:20
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問題無くそれぞれの水球から霊薬を20個ずつ、合計40個の『ベリーポーション』を一度に作ることができた。
しかも片方の水球で作った分は『逸品』に仕上がっている。
おそらく生産ラインを2本同時に稼働させても生産の成功率が落ちたり、逸品を作り出せる確率が減ったりはしないんだろう。
「ベリーポーションだけに関して言えば、今後は生産よりも、材料や特性の確保のほうに時間が必要になりそうかも……」
1度に40個も作れるなら、調合時間はあまり気にならなくなるなりそうだ。
それよりも今後は、調合効率が上がった分だけ材料の消費速度が上がるだろうから、材料のヒールベリーを安定確保することのほうが難しくなりそうだ。
―――とりあえず、他の内容も確認していこう。
ログウィンドウには新たに〈アルカ鍍金〉と〈特性注入術〉、〈中級霊薬調合〉と〈変性加工〉という、4つのスキルが修得可能になったと書かれている。
おそらくこれらのスキルは、修得に〈初級霊薬調合〉のスキルマスターが前提条件となっているものなんだろう。
『初級』の霊薬調合をマスターしないと『中級』の修得ができないというのは、なんとなく合点がいくものもあるしね。
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〈☆アルカ鍍金〉
錬金特性を消費して装備品に一時的な特殊効果を付与する。
装備品毎に錬金特性を1つだけ付与することができる。
付与した特殊効果は『24時間』経過後に自動的に効果を失う。
鍍金の成功率が『1%』向上する。
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〈☆特性注入術〉
ひとつの霊薬に注入できる錬金特性数が1つ増える。
錬金特性の消費数を『5%』減らすことができる。
[加護]が高いと消費数を更に少なくできる場合がある。
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〈○中級霊薬調合〉
錬金術を用いてスキルランクに応じた中級霊薬を生産できる。
中級霊薬を『2個』まで同時に生産できる。
霊薬の生産成功率が『1%』向上する。
生産した霊薬の品質値が『1』増加する。
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〈○変性加工〉
錬金術を用いてアイテムを別のアイテムへ変化させる。
アイテム変化を『2個』まで同時に行うことができる。
アイテム変化の成功率が『1%』向上する。
変化後のアイテムの品質値が『1』増加する。
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「うわー……」
《どしたん、シズっち》
《何かあったの?》
「や、なんていうか……。新しく覚えられるスキルが、どれも凄そうで」
まず〈アルカ鍍金〉だけれど、これは錬金特性を消費することで、装備品に特殊な効果を付与できるスキルらしい。
鍍金と言うぐらいだから、装備品の表面に特性を塗布する―――みたいな感じの生産技術なんだろうか。
錬金特性は魔物を狩猟していれば自然に貯まるものだから。特性の他に材料を必要としないなら、かなり気軽に行うことができそうだ。
一応『24時間』が経つと自動的に効果を失うらしいけれど―――。
錬金特性の消費だけで24時間も装備を強化できるのは、かなり便利ではないだろうか。
特にシズのように毎日同じ相手と行動を共にする場合は、パーティ全体の底上げを図ることもできそうだから、有用性が高そうに思える。
〈特性注入術〉は、霊薬調合時に注入できる特性が1つ増えるスキル。
現在はベリーポーションを作る際に〔敏捷増強Ⅰ〕の錬金特性を注入することが多いんだけれど。ここに〔筋力増強Ⅰ〕などの他の特性も、更に1つ追加することが可能になるわけだ。
今よりもっと多彩な効果の霊薬が作れるようになるから、こちらもまた魅力的なスキルだと言えるだろう。
また〈特性注入術〉には錬金特性の消費を減らす効果も附随している。
スキルランク1だと『5%』減らすことができるらしいから、ベリーポーションを20個纏めて作る場合だと、錬金特性の注入を行っても『19個』の消費で済むようになるわけだ。
この時点だと大した効果ではないけれど、きっとスキルランクを伸ばすに従って特性消費の削減割合も上がっていくだろうから。この効果目的だけでも、真っ先に取得して良いスキルのように思う。
〈中級霊薬調合〉と〈変性加工〉に関しては、単純にどちらも新しい系統の生産スキルと認識しておけば大丈夫そうだ。
こちらはまだレシピを1つも持っていないから、スキルの修得は後回しでも良いかもしれない。
いや―――もしかするとスキルを修得した時点で、幾つかのレシピが手に入ったりするかもしれないから。ランク『1』だけ修得してみるのも手だろうか。
(んー……。とりあえずは、前者2つのスキルが優先度高いかな)
そう判断したスキルは、ちょうど『実績』の報酬として手に入った『200』点のスキルポイントを消費して、〈アルカ鍍金〉と〈特性注入術〉の2つのスキルを新規に修得する。
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○実績『鍍金技術の習得』を獲得しました!
報酬として〔スキルポイント:20〕を獲得しました。
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すると、また実績が新たに1つ手に入った。
使い途は幾らでもあるから、スキルポイントが貰える分には大歓迎だ。
(そういえばさっき、『実績』の報酬で異能も貰えてたっけ)
確か《調合の妙》というものだったと思う。
とりあえずその異能についても、ちゃんと確認しておいたほうが良いだろう。
―――そう思い、シズは新たに手に入れた異能の詳細を視界内に表示させる。
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《調合の妙》
数多の霊薬を調合し、かつ高い調合成功率を誇る者が得る異能。
霊薬調合時に材料消費量を20%減らすことができる。
[加護]が高いと消費量を更に少なくできる場合がある。
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「……なんだか、どんどん大量生産に向いた感じになってきてるなあ」
実用的な効果の異能なのは間違いない。間違いないのだけれど―――。
なんだか目に見えない誰かから、霊薬の生産マシーンになるように仕向けられているような気がして。
嬉しさを覚えると同時に、シズは少しだけ複雑な気持ちになったのだった。
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お読み下さりありがとうございました。




