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05. キャラクター・クリエイト(後)

 



「『聖翼種(テミュス)』は背中に一対の翼が生えた種族です。この翼は初期状態だと飾りも同然で、全く飛んだりは出来ないのですが。レベルが成長して専用のスキルを修得することで、短時間だけなら空を飛ぶことが可能になります」

「おお、飛べるのは楽しそうですね……」


 短時間だけという制約があっても、それは雫にとって魅力的に感じられた。

 没入型(ダイブ・イン)VRヘッドセットが描き出す仮想世界(メタバース)が、本当に現実のそれと較べて何ら遜色のないものであるだけに。その世界で『空を飛ぶ』体験ができたなら、間違いなく爽快だろうと思えたからだ。


「部族の『白耀(はくよう)族』には『呪いを完全に無効化する』という特性があります。魔物の中にはプレイヤーキャラクターに呪いを掛けて、行動を阻害してくるものがいるのですが、その脅威を大幅に減らすことができますね。

 また、本来であれば装備した時点で何かしらのマイナス効果を受ける『呪われた装備品』を、ノーペナルティで装備できます。呪われた装備品は他のプレイヤーにとっては使いにくいでしょうから、安価で手に入れやすいかもしれませんね」

「ふむふむ……」

「但し良い面ばかりではありません。『白耀(はくよう)族』は聖翼種(テミュス)の中で唯一、頭上に白く光る『天使の輪(ヘイロー)』を持つ部族です。翼があって輪っかもあるので、見た目は完全に天使のそれですね。

 この『天使の輪』が光って目立つせいで、白耀族のキャラクターは人や魔物から姿を隠して行動する『隠密系スキル』が修得できないという欠点があります。特に夜間や洞窟内などの暗い場所では、その存在が周囲に露見しやすいです」

「な、なるほど……」


 頭の上で、常にシーリングライトが点灯しているような状態だろうか。

 ある意味ライト要らずで便利そうにも思えるけれど。確かにそんなものが頭上に浮いていれば、隠れてこそこそ行動するなんてできる筈も無い。


「見ての通り『聖翼種(テミュス)』の『白耀(はくよう)族』は、雫様に必要な3種類の能力値をバランス良く高めてくれる組み合わせになるのですが。―――いかがでしょう?」

「それにします」

「し、雫様は決定に迷いがありませんね……」


 即答する雫に対し、却ってユトラのほうが僅かに気後れした様子をみせる。

 雫はゲーム初心者であることを正しく自覚している。だから相手の薦めが納得できるものである限り、それを受け容れるのに躊躇はなかった。




+----+

(※キャラクター名未設定)

  白耀(はくよう)族の聖翼種(テミュス)/能力倍率合計【100%】


   〔操具師〕- Lv.0 【50%】

  〔錬金術師〕- Lv.0 【50%】


  HP: 19 / 19

  MP: 32 / 32


  [筋力]  5  (5)

  [強靱]  7  (7)

  [敏捷] 22 (22)


  [知恵] 26 (26)

  [魅力]  6  (6)

  [加護] 28 (28)


+----+




 雫の視界内に表示されていたウィンドウが全て閉じられ、代わりに新しく1つのウィンドウが表示される。

 そこには雫が決めた『戦闘職』と『生産職』、『種族』と『部族』の4つが記載されており、また最終的に算出された各能力の数値も記載されていた。


「今更ですが……『HP』と『MP』について説明は必要でしょうか?」

「あ、それは大丈夫です。『HP』が生命力で、『MP』が魔力ですよね?」

「はい。その認識で概ね合っております」


 普段ゲームを殆ど遊ばない雫でも、流石にこのぐらいは知っている。


「『HP』が0以下になると、『死亡』して一切動けなくなります。

 死亡しても3分後に『最後に訪れた都市』で自動的に復活できますが、その際はペナルティとして[筋力]と[強靱]が一時的に半分まで減少します。この能力値減少は時間経過で徐々に回復していき、2時間が経つと本来の値まで回復します。

 『HP』の最大値は[強靱]の2倍に[筋力]を加えた数値になります。なので死亡ペナルティで[筋力]と[強靱]が半減すると『HP』の最大値も一緒に半減してしまいます。続けて死亡しやすい状態になりますので、ペナルティ中は無理に魔物と戦おうとせず、安全な都市内などで過ごすのが良いと思います」

「なるほど……。判りました、そうします」

「『MP』は魔力(マジックパワー)と言うより精神力(メンタルパワー)に近い数値で、魔術や魔法とは全く関係が無いスキルを使う際にもよく消費します。

 減少したMPを回復するには『飲食物を摂る』ことが有効です。歩きながら軽いものを食べるだけでも幾らかは回復できますし、休憩して充分な食事を摂れば沢山回復することもできます。

 また『HP』や『MP』は〔薬師〕が作成した薬品を服用したり、雫様の職業である〔錬金術師〕が作成した霊薬(ポーション)の服用でも回復できます。ちなみに『MP』の最大値は[知恵]と[魅力]の合計になります」


 おそらくHPやMPを回復する霊薬には、高い需要が見込めることだろう。

 ゲーム開始後は早めに作成方法を会得して、生産に取り掛かりたいところだ。


「能力値の数値の後ろにある、括弧(カッコ)付きの数値は何ですか?」

「括弧内の数値は『その能力値の成長力』を示します。レベルが成長すると、この成長力に応じた分だけ各能力の数値が増加します。

 基本的にはゲーム開始時点の能力値が、そのまま『成長力』の高さになります。ゲームが開始した後は『戦闘職』や『生産職』、それから(のち)に手に入る『特殊職』のレベルが成長するたび、好きな能力値の成長力を1点増やせます」

「私はHPが少ないみたいですから、その短所を補いたければ[強靱]の成長力を増やしていけば良いわけですね」

「そうなります。但しレベルアップ毎に1点ずつしか増やせませんので、基本的には短所を補うよりも長所を伸ばす方がお勧めです。

 HPの最大値を底上げする武具や装飾品などもありますから、HPの低さが気になる場合は装備品で補う方が良いでしょう。レベルアップで得た成長力は一度振り分けると、二度と振り直しが出来ませんから」

「なるほど……」


 短所を補うために成長力を[強靱]などに振り分けてしまうと、あとで装備品で簡単に補えるようになった場合に、後悔することになるかもしれない。

 それよりは長所を伸ばす方が、振り分けた分を確実に活かすことができるから、後悔を恐れる必要が無いというわけだ。


「雫様の戦闘職と生産職―――〔操具師〕と〔錬金術師〕は最初『レベル0』からスタートします。またレベルの後ろに書かれている【50%】という数値は、それぞれのレベルが能力値にどれだけ影響しているかの倍率を示します。

 初期状態だと合計で【100%】。〔操具師〕と〔錬金術師〕が共に『レベル1』に成長した場合は、それぞれ【55%】ずつに増えて合計で【110%】になります。これはつまり、全ての能力値が『1.1倍』に増えるのと同じことです」

「では能力値を効率良く増やすためには、戦闘職と生産職の両方を成長させていく必要があるわけですね」

「はい。ご理解が早くて助かります」


 雫が問いかけた言葉に、ユトラはそう言いながら満足げに微笑んでみせた。


「何かここまでで不明な点やご質問などは御座いますか?」

「今は特に無いですけれど……。ゲームを始めた後に質問したいことが出来た場合には、どうすれば良いでしょうか?」

「ゲーム内の各都市には必ず『天擁(プレイア)神殿』と呼ばれる、プレイヤーのための施設が存在します。そこにはGMと呼ばれる、ゲーム会社のスタッフが常駐しておりますので、その者に何なりと問い合わせて下さい」

「あ、そういうのがあるんですね。とっても助かります」


 今は特に何も思いつかなくても、きっとゲームを楽しんでいる内に判らないことは増えていくばかりだろう。

 そういうのを質問できる場所がゲーム内にあるというのは、初心者の雫にとって非常に嬉しいことだった。


「キャラクター作成に際して、雫様に決めて頂くことがあと2つあります。『キャラクターの名前』と『外見』についてなのですが―――」

「あ、名前は『シズ』でお願いします」


 雫はネット上では常に『シズ』と名乗ることにしている。

 なのでオンラインゲームでも変わらず、最初からこの名前にするつもりだった。


「承知致しました、では名前は『シズ』様に決定致しますね。

 キャラクターの外見については、現在はプレイヤーの雫様ご本人の姿をそのまま再現した分身(アバター)になっておりますが、現実と全く同じ姿のままでプレイ頂くと無用なトラブルを招きかねず、これは非推奨とさせて頂いております。ある程度はご本人と判らない姿へ変えて頂くのが望ましいですね。

 但し『プレアリス・オンライン』では身体を動かした際の感覚の齟齬(そご)を最小限に抑えるため、現実の肉体と『身長』と『性別』の2つは変更ができません。また、肉体操作の齟齬が小さく収まるよう、体形の変更も最小限にお願いしております」

「……えっと。じゃあ、どういう部分なら変えても大丈夫ですか?」

「一番変えやすいのは肌や髪の色ですね。髪の毛の量や髪型も変更可能です」


 パチンとユトラが指を鳴らすと、雫のすぐ目の前に巨大な姿見が現れた。

 鏡に映っているのは、現実と同様の雫の姿なのだけれど―――背中からは小さな白い翼が生えており、頭上には光る『天使の輪』が浮いている。

 天使スタイルの姿をした自分は、正直……見ていてとても違和感があった。


 ……というか天使風の見た目だと、まず黒髪が似合っていない。

 肌も日本人らしい色味より、もう少し白い方が天使らしい印象になりそうだ。


「試しに髪を真っ白に変えられますか? あと肌も少しだけ白くして下さい」

「はい、少々お待ち下さい」


 ユトラが指先で何かを操作する仕草をしてみせると、鏡に映っている雫の髪色が一瞬の内に真っ白へと変わり、肌の色味も同様に変化する。

 ……うん。これなら翼や天使の輪とセットでも、違和感がないかな。


「これにします」


 完全に『天使』の姿のそれなので、あんまり自分の分身(アバター)には見えないけれど。

 とはいえ、そもそも雫はあまり自分のキャラクターの見た目に拘りが無い。


 髪色と肌の色を変えただけでも、翼と天使の輪があることも相俟って、もう現実の雫のそれとは見た目の印象が全く重ならない。

 この姿でゲームをプレイしても、何の問題も無いだろう。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] 能力値特化してないと、高ランク品作成にステ不足とかあるからね、仕方ないね
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