48. 採取担当と戦闘担当
以前ユーリと2人で探索したときと同じように、シズ達一行は河川に沿って森の中の西へと移動しながら、魔物の狩猟と採取を行う。
この世界に於ける自然物の再生速度はとても速い。そのお陰でヒールベリーやカムンハーブを、今回の探索でも効率よく入手することができている。
ヒールベリーはそれ単品で霊薬が作れるからシズにとって重要な素材だし、カムンハーブは〔薬師〕のユーリには色々と便利に使える薬草だ。
だから、シズとユーリにとっては美味しい道中なんだけれど……。
一方で〔縫製職人〕のプラムと〔鍛冶職人〕イズミにとっては、あまりメリットが多く無いことが、正直少し心苦しかった。
「そんなことは気になさらないで下さいまし。わたくしとイズミさんの目的はまずレベルを上げることですから、今はまだ採取を重視してもおりませんし」
「プラムの言う通りです。魔物が沢山出て来てますし、不満は一切ありません」
「そう? それならいいんだけど」
心配のあまりシズがそのことを問いかけると。2人はそんなことは全く思っていなかったみたいで、即座に否定してみせた。
実際イズミの言う通り、今日は魔物ともかなりのペースで遭遇しており、そのたびに討伐を繰り返していた。
都市北側の森で遭遇する魔物は水蛇とゴブリン、そしてピティとグーグーの4種類だけに限られる。
水蛇とゴブリンはレベルが『2』で、グーグーはレベルが『1』の魔物だから。自分と同格以下のレベルを持つ魔物だけと戦えることで、イズミとプラムの2人にとっては経験値とスキルポイントを効率よく稼げているようだ。
ちなみに遭遇する魔物は全てイズミと、あとはプラムが生成した2体のスケルトン達が討伐してくれている。
というかイズミがあまりに強すぎて、水蛇もゴブリンもグーグーも、まるで相手になっていないというのが現状だった。
シズとユーリ、プラムの3人が戦闘に参加しようと思っても。何が出来るでもない内に、あっさりイズミが全てを殲滅してしまうのだ。
また戦闘では、スケルトン達の働きも見逃せない。
どうやらスケルトン達には学習能力があるらしく、彼らは何戦かの経験を積んだあたりから、明らかにイズミと連携して戦うようになっていた。
具体的にはイズミの刀が届く距離に魔物が侵入してくる、その直前に矢を射かけることで、魔物に隙を作って彼女が戦いやすいように調整していた。
(……やっぱり、このスケルトンには中身が入ってるんじゃないのかなあ)
あまりに賢く戦うスケルトンの姿に、シズの疑念は膨らんでいくばかりだ。
いやまあ―――たぶんAIが凄く優秀とか、そういうことなんだろうけれど。
「ゴブリンは人と同じような体つきをしているから、楽でいいですね」
「……それの何が楽なの?」
「人間と急所が同じなので」
そう答えて、ふふふ、と薄く笑ってみせるイズミ。
実際にイズミは、たった1度の斬撃や刺突でゴブリンの命を奪ってみせることが多々あるから。なんとも説得力があり―――同時に、少し怖い言葉でもあった。
「あとは鉱石素材をドロップしてくれるのも嬉しいですね。〔鍛冶職人〕としては今のうちに少しでも貯めておきたいですから」
「あ、私の『インベントリ』に結構あるから、良かったら貰ってくれないかな? これまでにゴブリンから手に入れた分が、まるまる貯まってるんだよね」
「……いいんですか? 鉱石素材って、売れば結構すると思いますが」
「いいよいいよ。有効利用してくれるなら、それが一番かな」
「ありがとうございます、シズ姉様」
ぺこりと頭を下げて、律儀にお礼を言う少女。
シズの『インベントリ』には銅鉱石と鉄鉱石が、全部で100個ぐらい貯まっている。
有り触れた鉱石だけれど、鍛冶の練習には役立つだろう。
「私が持っている分も全部どうぞ」
「わ、ありがとうユーリ」
鉱石素材は半分ずつ分けていたから、シズが貯めていたのと同じだけユーリも所持している。
鉱石素材は1個1個が結構大きいし、全部で200個もあれば充分な量なんじゃないかな。
「せめてお礼代わりに、魔物は全てお任せ下さい!」
「ん、頼りにしてるね」
有難く遭遇する魔物はイズミに任せて、シズはユーリとプラムの2人と一緒に、素材の採取作業に専念させて貰った。
5分に一度ぐらいのペースで魔物が襲って来ているようだけれど。今のところはイズミとスケルトンだけで、何の問題もなく対処できているみたいだ。
採取しているだけで経験値やアイテムがどんどん手に入ってしまうのは、有難い反面ちょっと申し訳無くもあるけれどね。
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▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:20/スキルポイント:1
獲得アイテム:銅鉱石
《特性吸収》により錬金特性〔筋力増強Ⅰ〕を吸収しました。
▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:20/スキルポイント:0
獲得アイテム:銅鉱石
《特性吸収》により錬金特性〔筋力増強Ⅰ〕を吸収しました。
▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:5/スキルポイント:0
獲得アイテム:グーグーの卵×2、製薬レシピメモ
《特性吸収》により錬金特性〔移動速度向上Ⅰ〕を吸収しました。
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「お」
「……? どうなさいましたか、シズお姉さま」
「ユーリ。良いものが手に入ったから、あげるね」
シズは『インベントリ』の中から手に入れたばかりの『製薬レシピメモ』を取り出し、ユーリへと差し出す。
本日のアップデート内容に書かれていた、生産レシピを修得できるアイテムというのがこれだろう。
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製薬レシピメモ/品質[100]
【カテゴリ】:レシピメモ
【使用条件】:〈製薬〉スキルランクが『1』以上
【使用効果】:未知の製薬レシピを新規修得
誰が書き付けたものか判らない、不思議なメモの切れ端。
製薬の素養がある者が研究すると未知のレシピを新規修得できる。
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「これが例の……。頂いてよろしいんですか?」
「もちろん。だってユーリのことだから、錬金関係のメモを自分が手に入れたら、どうせ私に譲ってくれるんでしょう?」
「それは当然です」
「うん。だから私も当然かな」
そう告げて、シズは微笑む。
特に何も約束していなくても、シズ達にとっては『当然』のことだ。
「うふふ。ありがとうございます、シズお姉さま。……では早速」
ユーリが受け取った紙片のメモを、目の前に持ち上げてみせる。
すると紙片が金色の光を帯びて。それから―――塵になって空気中に消滅した。
「えっと―――無事にレシピを修得できたみたいです。『デボールコーム』という名前の、最大HPを1時間増加させる飲み薬のレシピですね」
「結構便利そうじゃない?」
「そうですね。特にシズお姉さまが使うと強力な気がします」
そう告げて、にこりと微笑んでみせるユーリ。
食べ物や飲み物と同じように、薬もまたシズが使用すると〈効能伝播〉スキルによって効果がパーティ全員に共有化され、また〈服薬術〉スキルにより本来よりも効果量が増すことになる。
『最大HP増加』の恩恵をパーティ全体が教授できるわけだから―――ユーリの言う通り、なかなか強力なアイテムになりそうだ。
「……ちなみに、材料は何?」
「『カムンハーブ』と『水蛇の皮』の2つです」
「わお」
都合の良いことに両方とも、ちょうど今シズ達が居る場所で手に入る素材だ。
この2つしか素材が要らないなら、量産は難しくないだろう。
「今日の夜に10個ぐらい調薬しておいて、明日は都市南部の森へ行ってみるのも面白いかもしれませんね」
「あ、それは良いかも」
かなりのハイペースで魔物を狩っているから、おそらく今日中にイズミとプラムのレベルは『3』を超えて『4』まで成長するだろう。
森都アクラス南部の森に出現するゴブリン・スカウトやゴブリン・ファイターはレベルが『4』の魔物だから、明日にはちょうど良い相手になってそうだ。
ユーリと2人だけでは苦戦必至だったし、敗北も経験した相手だけれど。
剣豪とさえ思える実力者のイズミが居て、プラムが生成した2体のスケルトン達も同行してくれるなら、もう全然負ける気がしない。
「ゴブリンが沢山居るところなら、私としては異存ありません」
「レベル上げになるなら、もちろん大歓迎ですわ」
2人に明日の予定として提案してみると、即座に了承が貰えた。
都市南方の森に棲息するゴブリンも鉱石系の素材をよくドロップするから、実際イズミにとっては非常に都合が良い狩場になりそうだ。
「南方の森は、お姉さま達もまだあまり探索できていませんでしたよね」
「うん、そうだね」
プラムの言葉に、シズは頷きながら答える。
南方の森はまだユーリと2人での探索しかしていないけれど、プラムやイズミは『配信』を視聴していたらしいから、知っていてもおかしくはない。
「では、南方の森になら〔縫製職人〕に必要な繊維素材があるかもしれませんね。わたくしとしても是非、そちらを探索してみたいですわ」
「じゃあ、そういうことで。でもあっちの森はレベルが『4』の魔物がよく出るから、今日はこの場所でレベル上げを頑張ろうね」
「はい」
「承知致しましたわ、お姉さま」
それから暫く採取しながら探索を続けるうちに、予定通りイズミとプラムのレベルは『4』へ成長した。
シズの浮遊能力を活用して渓流の上を渡り、対岸側を探索しながら復路を辿っているうちに。イズミとプラムのレベルは更に上がって『5』となり、シズとユーリもレベルが1つ上がって『6』になった。
これなら明日は都市南側の森へ行っても、何の問題も無いだろう。
やられっぱなしは悔しいし―――今度こそ、ゴブリン達を狩猟して回りたい。
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