43. プラムとイズミ
VRゲームの日間1位になってる……!?
ありがとうございます! でも一体何があったんですか!(畏怖)
*
「シズお姉さま!」
「こんにちは、ユーリちゃ―――げふっ」
メールで指定された、待ち合わせ場所の天擁神殿前に向かうと。
すぐにシズの姿を認めて全速力で駆け寄ってきたユーリに、その勢いのまま飛びつかれて。今回も為すすべなく、シズの身体は地面へと押し倒された。
なんだかつい先日も、全く同じことがあった気がするのだけれど……。やっぱりシズの[筋力]の低さでは、ユーリの勢いを受け止められないようだ。
「うーん。できれば抱き付く時には、金属鎧は着て欲しくないですね」
「なんで私は一方的に押し倒された上に、文句まで言われてるの……?」
馬乗りになっているユーリに対し、シズは苦笑しながらそう答える。
とりあえず天擁神殿の辺りは、都市の中央広場から程近い場所なこともあって、人の往来が多いのでやめて頂きたい。
流石にこんな場所で―――しかも9歳の女の子から押し倒されている姿を衆目に見られるというのは、些か気恥ずかしいものがあるのだ。
「おお……。こんなユーリは初めて見たかも」
「じ、情熱的ですわね、ユーリさん」
「うふふ、私はシズお姉さまへの愛に生きる女ですから♡」
「愛は嬉しいけど、とりあえず私の身体から降りてくれないかな……。それから、お友達のことを紹介してくれると嬉しいんだけれど……」
ユーリに少しだけ遅れて、駆け寄ってきた少女が2人。
おそらく、この子達がユーリの言っていた『お友達』なんだろう。
とりあえず周囲の都市住人達から向けられている、奇異の視線が気になるから。
身を起こしたシズ達は足早に天擁神殿の中へと避難した。
+----+
※ここは『プレイヤー専用区画』です。
外部NPCを連れて中へ入れませんので、ご注意下さい。
+----+
神殿内は名前の通り『天擁』用の領域だから、こうして中に入ってしまえばもう、外にいる『星白』の人達から見られることはない。
「ユーリちゃん、ホント恥ずかしいから自重してね……」
「これは仕方がないことなんです!」
「ええ……?」
出会い頭にキレの良いタックルを入れて、押し倒すことの一体何が『仕方ない』んだろう……。
シズが困惑した表情をありありと浮かべていると。そんなシズとユーリを見て、ユーリの友達と思わしき少女のひとりがくすりと笑ってみせた。
「ふふ……。お2人の関係は、とても面白いですわね」
ゴスロリっぽい服装を身に纏った、金色の髪がとても綺麗な少女だ。
その印象的な格好は当然のことながら、彼女の体形や顔の作りなどにも、シズは明確に見覚えがあった。
何しろゲーム内でも『リリシア・サロン』と全く同じ姿なんだから当然だ。
「こんにちは。こうして話すのは久しぶりだね、プラムちゃん」
「……⁉ わ、わたくしのことを、ご存じですの⁉」
シズが名前を呼ぶと、その少女―――プラムは上体を仰け反らせながら、大いに驚きを露わにしてみせた。
やっぱり彼女は、シズの知る相手に相違ないようだ。
「そりゃ、もちろん知ってるよ。言葉を交わした機会こそ少ないけれど、サロンで顔を合わせる程度のことなら、それなりにあるじゃない」
「そ、それはそうですが……。まさかわたくしの名前を覚えて下さっているとは、思いもよりませんでしたわ」
「名前以外もちゃんと覚えてるよ? 確か半年前ぐらいに話した時には、雨の日に街中をのんびり歩いて、他の人が広げている傘の中から可愛い絵柄を探すのが好きだって言ってたよね。それから4ヶ月前に話した時には、近所のコンビニで買える駄菓子にハマってるとも言ってたっけ」
「―――! よ、よくそこまで覚えていらっしゃるものですわね⁉」
「そりゃ、私は女の子が好きだもん。可愛い子のことなら何でも覚えてるよ」
そう言いながらシズが笑ってみせると。プラムはとても恥ずかしそうな表情をしながら、一瞬の内に顔中を真っ赤に染めあげてみせた。
感情が顔に出やすい体質なんだろうか。そんな部分もシズにとっては、なんとも可愛らしく、愛すべきところであるように見えた。
「……ゆ、ユーリさんから誘惑するように言われていましたのに。わたくしのほうが誘惑されてしまうなんて、不覚……!」
「………………ユーリちゃん。プラムちゃんに一体何をさせてるの」
「うふふ♡ 些細なことですわ、シズお姉さま♡」
静かにひとりごちたプラムの言葉が、シズの耳まではっきり聞こえて。
そのことについて突っ込んでも、ユーリは楽しげに微笑んでみせるだけだった。
「さて、シズお姉さま。もう1人のお友達のほうも紹介させて下さいね。こちらはプラムちゃんと違い、間違いなくシズお姉さまとは初対面の筈ですので。
―――彼女はイズミちゃんと言いまして、私の大切な親友のひとりです。是非とも今日からは、シズお姉さまと仲良くなって頂きたいと思っております」
ユーリがそう言いながら紹介してくれたのは、彼女と同じぐらいの身長を持つ、ボブカットの黒髪がとても良く似合う女の子だった。
どこか和装っぽい印象の服を身に付けていて、腰に大小2本の刀を佩いている。
格好から察するに、おそらくは『武士』のような戦闘職を選んでいそうだ。
「ご、ご紹介に与りました、イズミです! よろしくお願いします、シズ様!」
「様って」
まさか初対面で、9歳ぐらいの少女から『様』付けで呼ばれるとは思ってもいなかったものだから。無意識のうちにシズは苦笑してしまう。
とはいえ、相手が敬意をもって接してきてくれるの自体は、嬉しいことだ。
「こちらこそ、よろしくね? 私はシズって言います。流石に様付けで呼ばれるとちょっと変な感じがするから、できれば呼び捨てにしてくれないかな?」
「そんな……! おそれ多くて、絶対に無理です!」
「そ、そう?」
はっきり拒絶されてしまうと、シズとしても強くは言えない。
年齢差は結構あるけれど、できれば呼び捨てにし合うことで仲良くなって、少しずつでも気が置けない関係になれたらと思ったんだけれど……。
「えっと……。ユーリは『シズお姉さま』って呼んでるんだっけ?」
「はい、そうですね」
「じゃあ私も似たような呼び方にしたほうが良いのかな」
「どのような呼び方をなさっても、シズお姉さまは喜ばれると思いますわ」
いかにも仲良しらしい距離感で、言葉を交わし合うイズミとユーリ。
その2人の会話を聞いて(ユーリのことは呼び捨てにしてるんだなあ)と、シズは少し羨ましく思った。
「えっと……どうかイズミさんのことを悪く思わないで下さいませね。彼女の家はとても厳格なことで知られていますから、目上の方へ失礼な振る舞いをしてはならないと、親御さんから厳に戒められているのだと思います」
「あ、なるほど。そうなんだね」
脇から小さな声で事情を説明してくれたプラムの言葉に、シズは得心する。
そういう事情があるなら、年上のシズを呼び捨てにするのを、イズミがはっきり拒否する気持ちも理解できた。
「……あの。もしよろしければ『シズ姉様』とお呼びしても良いでしょうか?」
やがて、おずおずとそう問いかけて来たイズミに対して。
一切迷うことなく、シズは満面の笑みで応える。
「もちろん! 私は『イズミちゃん』って呼ぶけど、いいかな?」
「あ、いえ。私のことは単に『イズミ』と呼んで下さい」
「……そ、そう?」
「はい。呼び捨てがいいです」
シズのことを呼び捨てにすることを強く拒み、その一方ではシズから呼び捨てにされることを強く望んでくる。
そんなイズミはどうやら、少し頑ななところがある女の子らしい。
とはいえ―――無論そういう部分も、シズの目には可愛らしく映るんだけどね。
-
お読み下さりありがとうございました。
『小さい女の子+黒髪+おかっぱ+日本刀』の組み合わせが昔から大好きでして、拙作にはとてもよく登場します。
また私は『小さい女の子+巨大武器』も大好きです。特に大鎌。




