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40. 天使ちゃん社畜に認定される

 


     *



「ああ、そっか。昨晩もここでログアウトしたんだっけ……」


 ゲームにログインしたシズの現在位置は、錬金術師ギルドの正面。

 もはやログイン地点として定位置になりつつある気もするけれど。昨晩も深夜遅くまで霊薬を調合していたから、これは仕方ないことだと言えた。




+----+

◇ポイント制自由討伐 /デイリークエスト〔戦闘〕


 討伐ポイントが『70』に達するまで魔物を討伐する。

 (※討伐時に魔物のレベルと同量のポイントが加算される)

 このクエストは翌日になると消滅する。


 △報酬:戦闘経験値250、スキルポイント50、ランダム報酬


+----+




 昨日の戦闘側のデイリークエストは『レベル3以上の魔物を20体討伐』という内容だったのだけれど。日付が変わったことで消滅し、新たなクエストと差し替えられていた。

 内容的にはだいぶ簡単になっているので、今日は大丈夫だろう。その気になればピティの乱獲で簡単に達成できそうだしね。


 ちなみに今日の分のデイリークエスト〔生産〕が存在しないのは、昨晩に日付が変わった後まで生産していたから。

 つまり本日分の生産クエストは既に達成済というわけだ。


「……お?」


 ふと、視界の隅に常に表示しているログウィンドウへ視線を向けると。

 何かの通知が出ていて、幾つかのマークがピカピカと点滅していた。




+----+

▲『インベントリ』に5色の短冊が配られました。

 7月8日の夜明けまでに世界中の大都市広場に設置されている

 笹竹に短冊を飾ると、その色に応じたボーナスが得られます。

 詳しくは短冊のアイテム詳細を確認下さい。


▲ユーリがパーティを脱退しました。


▲ユーリがあなたとの関係に『恋人』を選択しています。

 こちらからも同じ設定を行うと、正式に『恋人』関係になります。


▲ユーリからメールが届いています。

+----+




 七夕の短冊が『インベントリ』に配布されることについては、事前に公式サイトの情報をチェック済なので、既に把握しているけれど。

 その後に記載されている―――『恋人』というのは初耳だ。

 いや、フレンドとの関係が3段階から選べるようになった、という記述には覚えがあるから。もしかしたら『恋人』は、それ関係のものだろうか。


 早速シズは意識することでフレンドの一覧を表示させてみる。

 現在のフレンドとして登録されている人数は、全部で233名。

 シズは『配信』を行っている最中に、視聴者へ自由にフレンド登録して構わない旨をよく伝えているので、この人数は毎日のように増えている。


「ああ、やっぱり……」


 フレンド欄から設定できる3段階の『関係』について、詳しい説明が閲覧できるようになっていたので、そちらを確認してみたところ。

 案の定と言うべきか、どうやらシズが予想していた通りらしい。


 フレンドと最初から設定されている関係は『友達』で、これは3段階から選べる中で最も低いものになる。

 この段階でも、相手がいまゲームにログインしているのかどうかが判るし、またログイン中なら相手が居る大まかなエリア名についても表示される。

 相手の情報も少しだけ閲覧することができ、戦闘職と生産職に何を選択しているのかや、現在のレベルが幾つなのかを知ることが可能だ。


 この関係を1段階上げると『親しい友達』になる。

 相手のステータスや所有している異能、修得しているスキルなどをいつでも全て閲覧できるようになり、より詳しく知ることが可能となるようだ。

 また『セクハラ行為』として規制されるラインが大きく緩和され、身体接触を伴うコミュニケーションがとても容易になる。

 相手の顔に触れるとか、胸や股間に触れるとか。あるいは抱き付いたり舐めたり噛み付いたりするといった、明らかに問題がある身体接触行為を除き、概ね全てが許容されることになるようだ。


 更に1段階上げると、最も高い関係の『恋人』となる。

 なんと恋人の関係になると『セクハラ行為』というもの自体が、全く認められなくなる。つまり、原則として相手に何をしても問題にならないらしい。


 ……と、ここだけ聞くと、まるで卑猥な行為がやりたい放題のように思えるかも知れないけれど。このゲームに限らず、大抵のオンラインゲームではプレイヤーが操作するキャラクターの身体に、性器などが備わっていない。

 性別を問わず、股間には一切の凹凸が無いのだ。

 何なら胸部に乳首さえ無いので、簡素な人形に近い形状とも言える。


 だから『恋人』関係だからといって、ゲーム内でセックスが出来るかというと、それは絶対に不可能で。無制限でも一定の倫理は守られるというわけだ。

 まあ、胸部に触ること自体は可能だし、ディープキスだって可能なわけだから。背徳的な行為が一切出来ないかというと、案外そうでもない気はするけどね。


 ユーリは既にシズとの関係を『恋人』に設定してくれているようだけれど、片側からの操作だけでは正式に『恋人』とはならない。

 シズの側からもユーリを『恋人』に設定して、初めて関係は成立する。




+----+

【送信者名】ユーリ

  【件名】パーティの脱退とフレンドについて

- - -


 新しくゲームを初めるお友達のチュートリアルなどの

 お手伝いをしますので、パーティは一度抜けてしまいますね。

 本日の昼食後にでも、またご一緒できましたらと存じます。


 それとフレンドで『恋人』の関係が選択できるようになりましたね!

 シズお姉さまでしたら、私のことを誰よりも早く

 『恋人』に設定して下さると信じてます♡


+----+




「おぅ……」


 続いてユーリから来ていたメールを確認してみたところ、パーティを抜けた理由を説明すると共に『恋人』についてもしっかり言及されていた。


 わざわざ『信じてます』とまで言われては、スルーするわけにもいかない。

 というわけでシズの側からも、早速ユーリとの関係を『恋人』に設定してみた。




+----+

▲フレンドのユーリと『恋人』の関係になりました。


○実績『初めての恋人』を獲得しました!

 報酬として〔スキルポイント:20〕を獲得しました。

+----+




 恋人関係が成立すると同時に、ユーリについてのより詳しい情報が、シズの側から確認できるようになった。

 どうやらユーリは現在『イズミ』と『プラム』というプレイヤーと一緒に、森都アクラスの天擁(プレイア)神殿に居るようだ。


 この『イズミ』と『プラム』という2人が、ユーリの現実(リアル)の友達なんだろう。

 いま天擁(プレイア)神殿に居るということは、これから初心者の2人がそれぞれ生産職のギルドへと向かい、最初の講習を受けるあたりだろうか。


(……ん? プラム?)


 シズはその名前が、ちょっとだけ引っかかった。

 『リリシア・サロン』で会っている人達の中に、そういう名前の女の子が居たような覚えがあったからだ。

 普段シズやユーリが居るテーブルとは、離れたテーブルに座っていることが多い女の子なので、それほど面識は無いんだけれど。

 確か……外見もちょうどユーリと同じぐらいに見える、やや幼めの女の子だったような気がする。


 もしかしたら、その子と同一人物なんだろうか。

 あるいは全くの別人なんだろうか。『プラム』という名前自体はわりと有り触れてそうだから、ただ名前が同じだけという偶然も普通に有り得そうではある。

 まあ、昼食後に引き合わせてくれるみたいだし、その時にはっきりするだろう。


「……おっと、とりあえず『配信』をオンにしなきゃ」


 今更そのことに気づき、慌ててシズは『配信』を開始する。

 視聴者数がすぐに増えて、1分と掛からずに100人を超えた。

 休日とはいえ午前中なので、夜の時より視聴者数の増え方はやや穏やかだ。


《もう天使ちゃんが錬金術師ギルドの前にスタンバっておられる……》

《ご覧下さい、これがワーカーホリックの姿です》

《今日も水球にヒールベリーを突っ込む仕事がはじまるお……》


「い、いや、違うから。昨日ここでログアウトして、そのままだっただけだよ?」


《それはそれでどうなの……》

《おお、もう……》

《会社前のネカフェで寝て、そこから出勤するみたいなもんか》

《なんだ、ただの社畜じゃん》

《天使ちゃんも俺らと同じなんやな……》


「社畜呼ばわり⁉」


 妖精が読み上げる憐憫とも揶揄(やゆ)ともつかないコメントに、シズは狼狽する。

 まさか16歳にして社畜に認定されることになるとは、思わなかったよ……。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] オンゲの生産職なんてそんなものさ……なんでゲームでも働いてるんだ?って気づいてはいけないジョブや……
[良い点] 更新乙い [一言] 慢性的なPot不足だから、終わりの見えないデスマ絶賛進行中です
[一言] 日をまたいでポーションを作る時点で、立派な社畜でした。
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