04. キャラクター・クリエイト(中)
「じゃあ次は『戦闘職』を決めるんですよね?」
「そうなりますが。先に能力値の説明をさせて頂きたいと思います」
そう前置きしてから、ユトラはRPGを遊んだことがない雫にも判りやすいように噛み砕きながら、能力値について説明してくれた。
『プレアリス・オンライン』には全部で6種類の能力値があるそうだ。
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[筋力]:特に腕っぷしの強さを示す
[強靱]:身体の丈夫さや打たれ強さを示す
[敏捷]:動きの機敏さや技巧の精緻さを示す
[知恵]:知識量や思考能力の高さを示す
[魅力]:他者と絆を繋ぐ能力の高さを示す
[加護]:超常的な力により保護されている度合いを示す
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前者の3つが身体能力値で、後者の3つは精神能力値になる。
個人的には[魅力]が精神能力値なことに、ちょっと違和感を覚える。
外見の良さではなく、カリスマ的なものを示す能力値なんだろうか。
ゲーム開始時の能力値の高さは、キャラクターの『種族』と『部族』、それから選択した『戦闘職』と『生産職』に応じて決まるらしい。
またゲーム開始時の能力値の高さは、レベルが上がった際の各能力値の成長率に大きく影響するので、非常に重要だそうだ。
つまり最初の時点で[筋力]が高めのキャラクターを作っておけば、それ以降もレベルが成長するたびに[筋力]の数値が多めに増えやすくなるらしい。
当然、これは逆も言える。初期状態で[知恵]が低いキャラクターになっているようなら、レベルが成長しても[知恵]は増えづらくなる。
何か他の手段で対策を講じない限り、短所はずっと短所のままというわけだ。
一応レベルが成長する度に、任意の能力値の成長率を少しずつ増やすことができるらしいけれど。
基本的にはキャラクター作成の時点で、自分にとって理想的な能力値バランスにしておくことが望ましいそうだ。
「雫様が選択なさいました〔錬金術師〕は[敏捷]と[知恵]の能力値が高いほど生産の成功率が高くなり、また[加護]の能力値が高いほど『逸品』と呼ばれる、優れた生産品が得られやすくなります。
なのでこの3種類の能力値が重要となるわけですね。逆に[筋力]と[強靱]、それから[魅力]の3つは、低くてもあまり問題が無い能力値になります」
「ふむふむ……」
「なお能力値の関係で〔錬金術師〕とセットで選びやすい『戦闘職』というのは、自然と限られてしまうことになります。
例えば魔物と真っ正面から戦う〔戦士〕は、[筋力]や[強靱]が重要な能力になりますから〔錬金術師〕と一緒に選ぶには不向きです。もちろん職業相性の悪さを承知の上で、敢えて選択するのも悪くは無いのですが……」
そこまで告げてから、ユトラは言葉を濁したけれど。彼女が何を言わんとしているのかは、雫にもすぐに理解できた。
彼女は暗に、能力値面での組み合わせ相性が良くない職業を選ぶのは、初心者の雫には難しいから避けた方が良い―――と。そのように言っているのだ。
「私は自分がやりたい戦闘のスタイルとかは、特に持ち合わせていないですから。純粋に能力値面で相性の良い『戦闘職』をお勧めして貰えると助かります」
「承知しました。では必要な能力値が同系統の『戦闘職』となりますと―――」
ユトラが両手の指先で何かを操作するような仕草をしてみせると、雫の視界内に表示されていた『戦闘職』の一覧から、ほぼ全ての候補がグレーアウトした。
変わらず明瞭な色合いで表示されている『戦闘職』は、たったの2つだけ。
「お勧めの『戦闘職』は〔盗賊〕と〔操具師〕の2つですね。共に〔錬金術師〕に必要となる3種類の能力値を、漏れなく活かすことができる職業になります」
「……えっ。〔盗賊〕って、犯罪者ですか?」
素朴な疑問から、雫がそう口にすると。
ユトラはたっぷり数秒ほどの間、目を丸くしてみせて。
それから―――くつくつと、いかにも我慢出来ないといった具合に声を漏らしながら、雫の目の前で笑ってみせた。
「……大変失礼致しました、あまりゲームをされない方だとそう思われますよね。
オンラインRPGではプレイヤーが選べる職業の中に〔盗賊〕が含まれていることは珍しくないのですが、これは別に犯罪者という意味では無いのです」
「あ、そうなんですね」
「はい。〔盗賊〕は鍵を開けたり罠を解除したりといった、やや特殊な技能を持つ職業を指すもので、本当に『賊』として活動しているわけではありません。
ちなみに『プレアリス・オンライン』では、隠された罠を見つけるには[知恵]が役立ちますし、鍵や罠の解除には[敏捷]が高い方が有利です。また盗賊は敵に毒などの状態異常を与えるのも得意で、これは成功率に[加護]が影響します」
「じゃあ〔錬金術師〕と必要な能力値が全く同じなんですね」
「はい。但し、武器攻撃の威力を高めるには[筋力]もあったほうが良いですし、魔物からの攻撃に耐えられる肉体が欲しい場合には[強靱]も高いほうが望ましくはありますが」
「なるほど……」
[筋力]や[強靱]の能力値は〔錬金術師〕には無用のものだ。だからそれらの能力値を伸ばすのは、少し勿体なさそうに思う。
雫が〔盗賊〕を選択する場合には、戦闘で貢献することを目指すより、サポートを主体とするスタイルを目指す方が望ましいんだろう。
「もう片方の〔操具師〕というのは、どんな職業なんですか?」
「『アイテムを上手く使う』ことに特化した職業です。どんな武器や防具でも扱うことが可能で、しかも武具の性能を本来より強化することが出来ます。
また霊薬を始めとした消費アイテムの効果を、通常よりも強化して使用することができますので、生産職の〔錬金術師〕とは相性が良いかもしれませんね」
「あ、じゃあそっちにします」
「……よろしいのですか?」
「はい。自作の霊薬を上手く使える職業というのは、ちょっと面白そうなので」
生産アイテムを自己消費しやすければ、売れ残りの処分などもやり易いだろう。
それに『どんな武器や防具でも扱うことが出来る』というのも気に入った。
どんな武器でも扱えるのなら、ゲーム内で実際に色々な武器を使ってみて、その使用感を確認することができそうだからだ。
ゲーム初心者の雫には『実際に試せる』ことに、魅力を感じるものがあった。
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〔操具師〕 - 戦闘職
アイテムを上手く扱う技術を追求する職業。
条件を無視して、あらゆる装備品を使いこなせる。
★重要能力値:[敏捷]、[知恵]、[加護]
△能力成長修正
[敏捷]+2、[知恵]+4、[加護]+4
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〔錬金術師〕 - 生産職
主に霊薬の調合を得意とする職業。
錬金具の生産や、付与錬金を行うこともできる。
討伐した魔物から『錬金特性』を得ることができる。
★重要能力値:[敏捷]、[知恵]、[加護]
△能力成長修正
[敏捷]+2、[知恵]+6、[加護]+2
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雫の視界に2つのウィンドウが表示される。
そこには取得することに決めた『戦闘職』と『生産職』に関する情報が、判りやすく記載されていた。
重要能力値が完全に一致していて、これなら初心者の雫にもやりやすそうだ。
「各職業の情報の詳細は『プレアリス・オンライン』のWebサイトに記載されておりますので、ゲーム開始前に〔操具師〕と〔錬金術師〕の項目だけでも目を通しておくことをお勧め致します」
「判りました。ちゃんと確認しておきます」
『戦闘職』の種類は非常に多いようなので、全ての職の情報を把握するのは難しそうだけれど。自分の職業に関する情報ぐらいは知っておくべきだろう。
わざわざゲームメーカーのほうで情報を纏めてくれているのは、初心者としてはとても有難かった。
「では職業はこの2つで決定ですね。『プレアリス・オンライン』のプレイヤーはこの2つとは別に『特殊職』と呼ばれる3つ目の職業も持つことになるのですが、こちらはゲームをプレイしている途中で手に入るものですので、キャラクター作成時に決める必要はありません。
では次に『種族』と『部族』を決めてしまいましょう。―――改めて確認させて頂きますが、雫様はキャラクターの見た目には拘らないのですよね?」
「そうですね、特に気にしないです。……極端に醜かったりするのは嫌ですが」
楽しくゲームを遊ぶのに支障が出るほど、見るに堪えない容姿のキャラクターとかだと、ちょっと困ってしまいそうだ。
ファンタジー小説によく登場するゴブリンとかオークみたいな外見だと、流石にゲームへの熱意も減っちゃいそうだしね。
「『種族』と『部族』の2つはキャラクターの能力値や外見に影響しますが、流石にそれほど酷いものはございません。
それでは―――私からはこちらの『種族』と『部族』を、雫様にオススメさせて頂きます」
ユトラがそう告げると、雫の視界に追加で2つのウィンドウが表示される。
片方は『聖翼種』という種族について説明するもので、もう片方は聖翼種でのみ選択可能な部族『白耀族』について説明するものだった。
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『聖翼種』 - 種族
背中に翼を有する人族。ただし飛ぶことは出来ない。
神や精霊の恩寵を受けやすく、非常に高い[加護]を持つ。
○スキルを修得すれば短時間だけ飛べるようになる
▲能力値成長
[筋力] 5 [強靱] 7 [敏捷] 12
[知恵] 10 [魅力] 6 [加護] 20
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『白耀族』 - 部族
聖翼種の部族の1つ。頭上で光る『天使の輪』が特徴。
技巧と才知に長けており、高い[敏捷]と[知恵]を有する。
○『呪い』を完全に無効化する
×『隠密系スキル』を修得できない
△能力成長修正
[敏捷]+6、[知恵]+6、[加護]+2
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ユトラがこの種族と部族を推薦してくれた理由は、すぐに判った。
どうやら雫が選択した〔操具師〕と〔錬金術師〕の職業に重要となる能力値を、しっかり高めてくれる組み合わせらしい。
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お読み下さりありがとうございました。