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【コミカライズ配信中】プレアリス・オンライン ~天使ちゃんは毎日配信中です!~  作者: 旅籠文楽
2章 -

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35. 今日は南へ

 


     [2]



「シズお姉さまー!」

「こんばんは、ユーリちゃ―――ぐふっ」


 19時半ぐらいにログインしてきたユーリとパーティチャットで連絡を取って、待ち合わせ場所の天擁(プレイア)神殿前に立っていると。

 シズの姿を認めて駆け寄ってきたユーリに、その勢いの儘に抱き付かれて。

 全然支えきれなかったシズは、その場で押し倒されてしまった。


 思いっきり地面に頭から倒れてしまったけれど、ダメージはゼロ。

 『プレアリス・オンライン』では同じパーティの仲間を攻撃しても、ダメージが発生しない仕様になっているからだ。


「うふふ。……お姉さまでしたら、私の力でも押し倒せますね♡」

「えっ」


 嬉しそうに微笑みながら告げたユーリの言葉に、シズはちょっと引く。

 シズの[筋力]は非常に低いので、確かに抵抗できる気はしないけれど。


《キマシタワー!》

《百合道とは、押し倒すことと見つけたり―――》

《これは捕食者(プレデター)の目ですよ》

《お姉さま! 天井のシミを数えている内に終わらせますわ!》

《ユーシズこそ正義だって、はっきりわかんだね》

《やはりユーシズか……。いつ配信えっちする? 私も視聴する》


「みんな好き勝手言ってるなあ……」


 妖精が読み上げるコメントの数々に、思わずシズは苦笑する。

 ていうか『配信えっち』て。えっちするなら配信なんか絶対やんないよ。


「ああ……♡ シズお姉さま、お会いしたかったです♡」


 そんなコメントを気にも留めず、シズの胸に顔を(うず)めてくるユーリ。

 流石に公共の場所でいつまでも押し倒されているのは恥ずかしいから。ちょっと目が血走ってるユーリを宥めて、2人一緒に立ち上がった。


「昨日も会ったばかりじゃない」

「それでも、今日も会いたくなるのが恋人というものですわ?」


 そう告げて、シズの腕に深く絡みついてくるユーリ。

 言うまでもなく、可愛い女の子が身体を密着させてくるの自体は、シズにとって嬉しいことでしかないわけだけれど。


 とはいえ―――よくこのゲームに実装されている『セクハラ防止機能』が発動しないものだな、と少々訝しくも思った。

 雑談の際に視聴者から聞いた話によると、男性のプレイヤーが女性NPCの髪に触れるだけでも、即座に警告が表示されるらしいんだけれど……。

 今しがたユーリは思いっきりシズの胸元に顔を埋めて、なんなら両手でも触ってきていたぐらいなのに……。なぜそれには警告が出ないのだろう。


 あれかな? 警告を出すほど胸は無いだろってことかな?

 ……もしゲームシステムからそう思われてるなら、泣くぞ?


「ああ―――。あの機能は同性同士ですと、そう簡単には発動しないのです」


 ゲームの機能についてシズよりも詳しそうなユーリに、『セクハラ防止機能』について訊ねると。ユーリはすぐにそう教えてくれた。


「そうなの?」

「はい。異性同士ですとかなり厳しくて、せいぜい相手の手や肩ぐらいにしか触れられないぐらいの、強めの制限が掛かるらしいですけれど。

 同性同士の場合ですと、胸やお尻に意図的に触ろうとするとか、あるいはキスをしようとしない限り『セクハラ行為』扱いにはならないみたいですね」

「……今さっき、思いっきり私の胸に顔を当てて無かった?」

「あれは偶発的な事故ですから、セーフです♡」

「ええー……?」


 思いっきり故意犯に見えたんですが?


「うふふ。同性同士ですから、お姉さまにはハグし放題です♡」


 そう言って、身体の側面側から再びシズの身体に抱き付いてくるユーリ。

 抱き付かれると、当然シズの腕がユーリの胸部に当たるわけだけれど。やっぱりこちらにも警告が表示される様子はない。

 これも『偶発的』だからセーフ、という判定なんだろうか?


 なんだかガバガバ判定な気もするけれど、これで良いのか開発メーカー。

 いやまあ、ユーリの胸はシズ以上に無いわけだけどさ。


「……シズお姉さま? 建物に入らないのですか?」

「あ、ごめんね。ちょっとぼうっとしてた。行こっか?」

「はい♡」


 ユーリと手を繋ぎ、互いの指まで絡ませ合う。

 恋人繋ぎぐらいなら、もう慣れてきてあまり恥ずかしさも感じない。


 一緒に天擁(プレイア)神殿の中に入り、掲示板のクエストにざっと目を通す。

 貼り出されているクエストの内容は、一見すると常に同じように見えるけれど、実際には日ごとに小さな変化がある。

 例えば、いまシズの視線の先にある『ゴブリンの駆除』クエストがそうだ。




+----+

◇ゴブリンの駆除 /天擁神殿クエスト


 受注単位:[個人]または[パーティ]

 受注制限:戦闘職のレベルが『13』以下


 ファトランド王国領で『ゴブリン』系の魔物を40体討伐する。


 △報酬:戦闘経験値400、スキルポイント20、聖水×6


+----+




 このクエストは昨日見た時には、受注制限が『レベル12以下』だった。

 また報酬の経験値は『350』点だったし、貰える聖水も『5個』だった筈だ。

 どうやら引き受ける人があまりいないクエストは、受注制限が徐々に拡大され、達成時に受け取れる報酬も少しずつ増えていくらしい。


「ユーリちゃん、これやらない?」

「はい、良いと思います」


 シズが問いかけると、ユーリがすぐに同意してくれた。

 レベルが結構上がってしまったせいで、水蛇やグーグーのようなヒールベリーの採取ポイント付近に棲息する魔物の討伐クエストだと、そろそろ受注できなくなってしまいそうなのだ。

 なので明日からの週末では少し森の奥のまで足を伸ばし、今後のシズとユーリのレベルでも都合の良い討伐対象を、幾つか開拓しておきたい。


 天擁(プレイア)神殿を出たあとは、続けて掃討者ギルドの建物へも向かう。

 魔物を討伐するクエストは、こちらの施設でも受注できるからだ。

 もし同じ魔物を討伐するクエストを両者の施設で受注できれば、クエストの達成後に二重で報酬を受け取ることができる。

 もちろん両者の施設に、必ずしも同一対象の討伐クエストがあるとは限らないから、そう都合よくはいかないことも多いけれど。一応訪問して、張り出されているクエストを確認しておくのは大事なことだ。


 天擁(プレイア)神殿と同じく、掃討者ギルドの建物も森都アクラスの中央広場近くにあるので、移動には数分しか掛からない。

 掃討者ギルドの建物は、かなり大きな酒場(タバーン)風の建物だ。

 実際、この施設の中ではお酒を飲むことが可能らしく、夜の今は多くのテーブルに酒を楽しむ人達の姿が見られた。

 ちょっと建物全体が酒臭いのが難点だけれど、陽気な人達で溢れている賑やかな空間は、決して居心地の悪い場所ではない。


星白(エンピース)の人達は、身の危険が伴うことを避けるって聞くけれど……)


 掃討者ギルドの中にいる人は、その殆ど全てが星白(エンピース)だ。

 魔物の狩猟というのは、身の危険が伴う仕事の最たるものだと思うんだけれど。彼らにとって、これは忌避するものでは無いのだろうか?


 そんなことを頭の中で思いながら、1階ホールの隅にある階段を上がり、シズ達は建物の2階へと移動する。

 クエストが貼り出されている掲示板や、その達成報告を行うための窓口などが、2階には設置されているのだ。

 他には共に魔物の狩猟を行うパーティメンバーを募集する掲示板なども、2階に設置されているらしいけれど。まだこちらはチェックしたことがない。

 今のところはユーリと一緒に行動するだけで、特に不足も無いからだ。


「シズお姉さま。この2つのクエストが、よろしいのではないでしょうか」

「どれどれ……?」


 そう告げながら、掲示板に沢山貼り出されている用紙の中でも、下段に2枚続きで並んでいるものをユーリが指し示してみせる。

 その用紙をまじまじと見つめると、クエスト内容の詳細が記述されたウィンドウがシズの視界内に表示された。




+----+

◇ゴブリン・スカウトの討伐 /掃討者ギルドクエスト


 受領単位:[個人]または[パーティ]


 森都アクラス南部の森で『ゴブリン・スカウト』を20体討伐する。

 このクエストは完了後に掃討者ギルドで報告が必要。


 △報酬:1000gita、戦闘経験値80、スキルポイント4


-

◇ゴブリン・ファイターの討伐 /掃討者ギルドクエスト


 受領単位:[個人]または[パーティ]


 森都アクラス南部の森で『ゴブリン・ファイター』を20体討伐する。

 このクエストは完了後に掃討者ギルドで報告が必要。


 △報酬:1300gita、戦闘経験値100、スキルポイント5


+----+




 掃討者ギルドのクエストは、達成時に沢山の現金報酬が貰えるのが特徴だ。

 一方で経験値やスキルポイントなどの報酬は、天擁(プレイア)神殿のクエストより貰える量が少なかったりするので、両者のクエストは差別化ができている。

 もちろん両方のクエストを同時進行できれば、それぞれの良いとこ取りができるという点で、一番良いのは言うまでもない。


 ユーリが勧めてきたクエストは、共にゴブリンを討伐するクエスト。

 これならば先程天擁神殿で受注した『ゴブリンの駆除』のクエストと、問題無く並行して行うことができそうだ。


「南側にもゴブリンがいるんだね。北側とは別の個体ってことかな?」

「そうなりますね」


 シズの言葉に、ユーリが頷きながら答えた。

 これまでシズ達が毎日のように探索してきた、都市北側の森にもゴブリンの魔物は出現するけれど。あれは単純に『ゴブリン』という名前の魔物で、名前に『スカウト』とか『ファイター』といった文字列は附随していなかったように思う。


 だから同じゴブリン系でも、こちらは今まで遭遇したものとは別種なのだろう。

 そして―――おそらくはこちらのほうが、より強力な個体でもある筈だ。


「掲示板で拾った情報によりますと、スカウトはレベルが『4』で、ファイターはレベルが『5』の魔物とのことです。私達には適正な相手だと思います」

「なるほど」


 このゲームでは自身と同等か、もしくは少しだけ格下の魔物を狩るのが、経験値とスキルポイントの両面で最も美味しい。

 現在のシズとユーリの戦闘職は共にレベル『5』だから、この2種類のゴブリンは丁度良い相手というわけだ。


「南側の森にも、錬金術や製薬の材料に良いものがあればいいですね」

「そうだねー」


 北側の森は都市から近い場所だけに限れば、概ね探索し終えた感がある。

 探索の傍らに見つけたヒールベリーやカムンハーブなどの植物素材は、ほぼ全て採取しているわけだけれど。一度採取した植物がまた採れるようになるまでには、大体3日から7日ぐらいを要する。

 なのでいまこのタイミングで探索先を一旦都市の南側に切り替えるというのは、採取の点からも都合の良いことだと言えた。


 ユーリの言う通り、南側の森では錬金術の新しい素材が採れるかもしれない。

 ベリーポーションの製作に熟達した今だからこそ、色々と素材を収集して、他の生産レシピにも積極的に挑戦していきたいところだ。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] ペアだし、構成もいいけれど NPCともPTを組めるとボtt、ソロPCにはありがたかったりするよね
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