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【コミカライズ配信中】プレアリス・オンライン ~天使ちゃんは毎日配信中です!~  作者: 旅籠文楽
1章 -

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31. 月に手を伸ばす

 


     [11]



 別に、その行動に明確な目的や意味なんかは無くって。

 ただ―――この世界の月が、想像以上に大きくて綺麗だったから。

 手を伸ばせば届くんじゃないかなって、そう思ったんだ。






 ―――それは一度ログアウトして夕食や明日の準備などを済ませてから、『プレアリス・オンライン』の世界へ再び戻って来た後のことだった。

 追加で1時間半ほど錬金術師ギルドの『工房』の中で霊薬の生産を続けた結果、無事に〔錬金術師〕のレベルは『3』へと成長。

 キリが良いところで作業をやめて、シズは錬金術師ギルドを後にした。


「綺麗だなあ……」


 見上げれば上空には、宝石を散りばめたような満天の星空が広がっている。

 都心部に暮らしている今はもちろん、田舎の実家で暮らしていた頃にも、ここまで鮮明な星空というのは目の当たりにしたことはない。


 星の瞬きがとても綺麗で―――それに何より、月が綺麗だ。

 この世界の月は、どうやら現実(リアル)のそれより随分と大きいみたいで。満天の星空が作り出す魅力を霞ませるほどの、圧倒的な存在感を有していた。


《月が綺麗ですね》

《月が綺麗ですわね、お姉さま》


「ふふ、その台詞はユーリちゃんからなら聞きたいかなあ」


 妖精が読み上げたコメントに、シズは小さく笑いながら答える。


 あれからパーティチャットで話し合った結果、ユーリとは暫く『おためし』という形で、本当にお付き合いすることになった。

 そもそもシズは『女の子なら誰でも好きになる』タイプの人間なので、ユーリみたいな可愛い子を拒否するつもりは毛頭ないわけで。

 ましてやシズが『ポリガミー』でも構わないし、シズの為なら『ネコになる』とまで譲歩されてしまっては。もう他に遠慮する理由なんてある筈も無かったのだ。


 関係をとりあえず『おためし』という形にしたのは、付き合い自体は長くても、まだシズとユーリとの面識が『ネット上』でしか無いからだ。

 流石にVRチャットルームやゲームでしか会ってないうちは、その関係は交際と呼べないだろうからね。


 もちろんゲーム内だけの関係なら、それでもいいんだろうけれど。ユーリはちゃんと現実(リアル)も含めた交際を望んでいる様子だった。

 居住地がそれほど離れていないことは、既にお互い把握しているから、近いうちにユーリとは、実際に会うことになりそうだ。


 ちなみにユーリは既に、今夜はもうログアウトしている。

 彼女はまだ小学生なので、あまり親御さんが夜更かしを許してくれないのだ。


《この後はどうするの?》

《まだ何かやるんですかい、姐御!》


「なんで姐御呼び……。うーん、どうしようかなあ」


 戦闘に生産に、今日やるべきことはもう一通りやり終わった感がある。

 まだヒールベリーなどの素材は『インベントリ』の中に余っているから、それを生産で消化してしまっても良いのだけれど……。

 いくら視聴者のお陰で話し相手に事欠かないとはいっても、狭い『工房』の中にずっと籠っていては息が詰まるのだ。


 とはいえ、この時間から都市の外に出るのも考え物だろう。

 月が大きいせいなのか、意外に夜でもそこまで暗くはないのだけれど。森の中へ入れば月明かりは林冠に遮られるから、たぶん周囲は何も見えなくなる。

 戦闘するにせよ採取するにせよ、夜闇の中では困難だろう。


 まあ……もう結構いい時間だから、今日のゲームは終了でも良いかな。

 それから、いつもの『リリシア・サロン』へ少しだけ顔を出すのも面白いかもしれない。あのチャットルームなら、この時間でも結構な人数がログインしている筈だからね。

 ユーリと『おためし』とはいえ付き合うことになったわけだし。同じ性的志向を持つ人達から、今のうちに色々アドバイスを貰っておくのも良さそうだ。


「―――おっ?」


 そんなことを考えていると。

 不意に、リーンゴーン―――と、都市内に鐘の音が何度も響き渡った。


 視界に表示させている時計を確かめると、ちょうど夜の『0時』を指していた。

 どうやらいま鳴り響いたのは、日付が変わったことを知らせる鐘の音らしい。

 こんな深夜に鐘を鳴らして、住民から苦情が来たりしないんだろうか。


「この都市には、立派な鐘楼(しょうろう)があるんだねえ」


《鐘楼はこのゲームの『大都市』にならどこでもありまっせ》

《ちなみに鐘楼はどこの都市でも『天擁(プレイア)神殿』に併設されてる》


「そうなんだ? みんな詳しいね」


 ゲーム事情に詳しい視聴者は、おそらくシズと同じプレイヤーなのだろう。

 先程生産しながら雑談した時の感じだと、シズの『配信』を見てくれている人のちょうど半分ぐらいは、ゲーム内から視聴しているみたいだったし。


「……ちなみに鐘楼って、上まで登れたりする?」


《一般開放されてるんで自由に登れるよ! 俺は昼間に登ったし》

《帝国の鐘楼に登ったけど、眺め超良かったよー》

《そうそう、都市内が一望できて良い感じなんだよね》


「おー、じゃあ私もちょっと行ってみようかな?」


 そういう話を聞くと、俄然シズとしても登ってみたい欲求が湧く。

 高い所からだと、星空や月がもっとよく見えそうだしね。


 思い立ったら即行動―――というわけで、天擁(プレイア)神殿へと到着する。

 ここへ来るのは今日3度目だ。流石にちょっと来すぎな気がしないでもない。

 天擁(プレイア)神殿は24時間営業の施設なのだけれど。この時間は利用者も殆ど居ないらしく、神殿内はとても閑散としていた。


「あのー、すみません」

「はい、いかがなさいましたか?」


 礼拝堂の椅子を水拭き清掃していた神官の人に話しかけて、この時間でも鐘楼に登れるのかを訊ねてみたところ、全く問題無いらしい。

 鐘楼へ続く階段の位置を教えて貰えたので、早速登ってみる。

 結構な段数があるみたいだから、これが現実なら階段の移動だけでもかなり大変だろうけれど。ゲーム内の身体は疲れ知らずなので、特に苦労する事も無かった。


「おおー……!」


《いやあ、絶景ですなあ!》

《街中も空も綺麗だねえ》


 神官の人の話によると、この鐘楼は高さが『98.6メートル』もあるらしい。

 かなりの高さがあるので、登れば簡単に森都アクラスが一望できた。

 都市内にある目抜き通りが、綺麗な光の線を作りだしている。どうやら広い街路だけに限れば、この時間でもまだまだ活動している住人は多いようだ。


 そして、地上で見た時よりも、更に鮮明に見えるようになった満天の星空。

 高い位置にあるこの鐘楼からなら、手を伸ばせば星々のどれかには手が届くのでは無いだろうか―――と、そんな風にも思えてしまう。

 もちろん実際には、そんなことは有り得ないわけだけれど。


(うーん、屋根が邪魔だなあ……)


 ただ残念なことに、鐘楼からは星空は見えても、月は見えなかった。

 風雨から保護するためか、立派で大きな屋根が備わっていたからだ。

 月は今ちょうど中天に近い位置にあるので、屋根に隠れていて全く見えない。


 できれば屋根に邪魔されずに、大きな月を仰ぎ見たい―――。

 そう思ったシズは、殆ど無意識の内に飛んでいた(・・・・・)


 鐘楼の(へり)から空へと飛び立ち、シズは(そら)を目指して真っ直ぐに浮く。

 〈☆聖翼種の浮遊能力〉のスキルで空を目指す、僅か6秒間の夜間飛行(ナイト・フライト)


 もちろんその程度の浮遊で、月に手が届くわけではないけれど。

 ―――それでも、今この瞬間だけは。この都市に住まう誰よりも、近い位置から月に手を伸ばしているだろう自分の姿を、強く意識することができた。




+----+

◎希少実績『大空の先駆者』を獲得しました!

 報酬として異能《天翔る翼》を獲得しました。

 〔スキルポイント:50〕が返還されました。

+----+




「………………は?」


《希少実績キター!》

《やべえ、何か来たぞ》


 とはいえ―――流石にこの展開は、全く予想していなかったわけで。

 時間切れで、ふよふよと地上に向けてゆっくり落下しながら、シズはただ呆然とすることしか出来なかった。





 

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お読み下さりありがとうございました。

誤字報告機能での指摘も、いつも本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 投身自殺で実績解除は草草の草なんよw ま、まぁ今どきゲームによってはパンチラを極限ズームするだけで実績解除するやつもあるから……
[一言] なんかきたー!
[良い点] 『屋根に邪魔されず月をみたい』 良いなぁ、そんな理由で約100mの建物から舞い上がる… うん、確かに先駆者。
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