241. 新レシピの調合(後)
ポム酒の味を確かめていると、ほどなく他の3つのお酒も調合が完了した。
それほど時間が掛からなかったことから察するに、調合の難易度自体はどのお酒もあまり高くはないようだ。
あ、いや―――違うかな?
今回の防衛戦でレベルが一気に成長したことで、シズの能力値が大幅に上昇し、その結果生産が楽になっているだけかもしれない。
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〈クランの戦訓Ⅹ〉
『魔軍侵攻』を始めとする大規模戦闘イベント中に
クランメンバーがパーティリーダー格以上の魔物を討伐すると
討伐者が獲得した量の『50%』に相当する経験値が
同じエリアにいるクランメンバー全員に与えられる。
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〈更なる戦訓Ⅹ〉
『魔軍侵攻』を始めとする大規模戦闘イベント中に
クランメンバーがパーティリーダー格以上の魔物を討伐すると
討伐者が獲得した量の『100%』に相当するスキルポイントが
同じエリアにいるクランメンバー全員に与えられる。
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『魔軍侵攻』のイベント中には〈クランの戦訓〉と〈更なる戦訓〉のクランスキルが有効なため、全部で3つもの戦場を防衛して回った『天使ちゃん親衛隊』は、クランメンバー全員が大量の経験値やスキルポイントを獲得している。
シズはユーリやエリカと一緒に、防衛戦の最中ずっと集落の上空に浮いていたので、直接魔物を討伐したりはしていないんだけれど。同じエリア内には居たので、このクランスキルの恩恵はもちろん得られている。
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《高きミンネ》
恋人が魔物の討伐によって経験値を得た場合
あなたもその1%に相当する経験値を獲得する。
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また、シズは《高きミンネ》の異能を有しているため、それとは別に入ってくる経験値もある。
『魔軍侵攻』のイベントには、深夜や早朝の時間帯以外では2000人を超えるクランメンバーが参加していたわけだけれど。このクランメンバーの半分弱はシズの『恋人』と言っても過言ではない。
大勢の恋人たちから経験値が分け与えられるのだから。割合としては『1%』だけでも、積もり積もればかなりの量に達する筈だ。
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シズ
白耀族の聖翼種/能力倍率合計【764%】
〔操具師〕- Lv.59 【490%】
〔錬金術師〕- Lv.28 【216%】
〔白百合の天使〕- Lv.22 【58%】
HP: 320 / 320
MP: 684 / 684
[筋力] 38+52 (5)
[強靱] 53+62 (7)
[敏捷] 481+78 (63)
[知恵] 473+70 (62)
[魅力] 91+50 (12)
[加護] 473+36 (62)
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◆異能
《操具術》《特性吸収》《特性超吸収》《落下制御》
《呪詛無効》《呪具浄化》《天使の輪》《天翔る翼》
《調合の妙》《調合の匠》《盟約の主Ⅱ》
《星白の友好者》《恋人送還》《精霊の主》
《高きミンネ》
◇スキル - 4338 pts. / 得意化:6回 伝授修得:1回
〈☆操具収納Ⅱ〉〈☆武器強化術Ⅹ〉〈☆防具強化術Ⅰ〉
〈☆機械操作Ⅰ〉〈☆効能伝播Ⅰ〉〈○服薬術Ⅳ〉〈○食養術Ⅹ〉
〈○罠察知Ⅰ〉〈☆宝箱感知Ⅰ〉
〈☆アルカ鍍金Ⅹ〉〈☆エンハート鍍金Ⅱ〉〈☆特性注入術Ⅹ〉
〈☆特性改変Ⅹ〉【☆特性印Ⅹ】
〈☆造金術Ⅵ〉〈☆錬金素材感知Ⅰ〉〈○初級霊薬調合Ⅹ〉
〈○中級霊薬調合Ⅹ〉〈○植物採取Ⅹ〉〈☆効率採取Ⅹ〉
〈○素材収納Ⅲ〉〈○生産品収納Ⅰ〉
【○伐採Ⅰ】【○鉱石採掘Ⅰ】
〈●精霊扶養Ⅰ〉〈●調理Ⅴ〉〈水泳Ⅹ〉
〈☆天使は皆のためにⅩ〉〈☆皆は天使のためにⅢ〉
〈☆口移しⅩ〉
〈☆聖翼種の浮遊能力Ⅹ〉〈☆聖翼種の飛行能力Ⅱ〉
◇魔術・魔法
【☆罠解析】【☆罠回収】【☆罠設置】【☆錠操作】
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というわけで、現在のシズのステータスはこんな感じになっている。
防衛戦に参加した2日間で大幅に成長した結果、戦闘職はもうレベルが60目前にまで迫っていた。
『魔軍侵攻』イベントに参加する前のシズのレベルがまだ『43』だったことを思えば、どれほどの勢いで成長したのかがよく判るだろう。
また、地味に特殊職〔白百合の天使〕のレベルも3つ上がっている。
こちらは多分〈口移し〉のために、防衛戦の最中にユーリやエリカとイチャイチャしていた時間も多かったから。そのせいで経験値が貯まったんだろうね。
(スキルポイントを何に使うかも考えないとなあ……)
自身のステータス欄を眺めながら、シズはそう思う。
とりあえず、〈製菓〉のスキルを新しく修得しようかなとは考えているけれど。それ以外は今のところノープランだ。
現状で4000を超えるスキルポイントがあるので、これを消費すればスキル面を大きく充実させることができる。使い途に頭を悩ませるのも、これはこれで楽しいことではあった。
《試飲しないの?》
《折角ですし、他のお酒も飲んでみませんと!》
《天使ちゃんの! ちょっと良いトコ見てみたい!》
《それイッキ! イッキ! イッキ!》
「―――おっと、ごめん。ちょっと考え事してた。そうだね、新しく出来たお酒もとりあえず軽く味わってはみようかな。一気飲みはしないけど」
遅れて完成した3つの酒は、いずれもポム酒より少し大きめの瓶に入った状態で出現している。
1リットルよりはやや少なそうだから……瓶の内容量はたぶん750mlとか、そのぐらいだろうか。
深紅酒はコルクで栓がされており、コルル芋酒とキストンド蛇酒のほうは、なにか樹脂製のもので瓶の口が封じられていた。
「うわあ……」
《なるほど、蛇酒だね》
《見た目でもうダメだ……》
なおキストンド蛇酒の瓶の中には、明らかに『蛇』そのものが入っている様子が外から見て取れた。
確かに『蛇酒』といえば、酒瓶の内部に蛇の身体が漬け込まれているイメージがある。別にシズは、この手の生物がそこまで苦手というわけでもないけれど……。
とはいえ調合の素材に用いた『キストンド蛇の亡骸』がそのまま中身として漬け込まれているような、生々しい酒が飲みたいかと問われたなら。その答えは間違いなく『ノー』だった。
「……ごめん、蛇酒の試飲は勘弁して」
《これはしゃーない》
《女の子にはキツいでしょうよ……》
《男にでもキツいわこんなもん》
《そりゃそうだ》
《俺はわりとこういう酒も好きだけどね》
《わかる。マムシ酒とか好き》
《メンバーショップで売ってくれたら、喜んで買います!》
中には蛇酒を好きという人も居るみたいだけれど。とはいえ視聴者の人達のうち大体8~9割ぐらいは、やはりこの見た目に忌避感を覚えるようだ。
まあ、蛇なんて男女問わず、苦手な人のほうが圧倒的に多いだろうし。そういう反応にもなるだろうね。
とりあえずキストンド蛇酒はストレージに即収納して、忘れることにする。
それからシズは他の2つのお酒、深紅酒とコルル芋酒と向き合うことにした。
まずは深紅酒のコルク栓から開封してみる。
残念ながらシズはコルク抜きを所持していないんだけれど。それでも力の強さに関わる[筋力]や、器用さに影響する[敏捷]の能力値が成長しているからなのか、頑張れば手でも開けることができた。
「おお……。良い匂いがする。チェリーの香りかな?」
開栓と同時に溢れた匂いを嗅いで、シズはそう感想を漏らす。
工房の個室は非常に狭いので、匂いが充満するのも早いのだ。
《それってただのワインでは》
《赤ワインの香りによくあるヤツだね》
「そうなの? 確かに見た目は赤ワインにも見えるけれど……でも赤ワインって、チェリーじゃなくて葡萄から作るものだよね?」
《そうなんだけど、香りはよくチェリーに例えられる》
《というかベリー系なら大体なんでも、よく例えられるかな》
「へー、そうなんだ」
ワインを飲む人にとっては常識なのかもしれないが。まだ本来なら酒を飲めない年齢のシズにとっては、完全に未知の知識だ。
なんとなく、ワインからは当然『葡萄の香りがする』と思っていたから。ワインの香りが様々なベリー系によく例えられるというのは、ちょっと意外だ。
「……ちょっと酸っぱめ? でも、うん。普通に美味しいかも」
《酸っぱいなら、やっぱ赤ワインみたいな味なんかな?》
《たぶんそうじゃないかなー》
「あと、ちょっと渋味みたいなのがあるかも。ここは好みが分かれそう」
《やっぱりワインじゃねーか》
《その情報はもう、ほぼ確定なんよ》
でもコレって、調合材料はベッカクっていう赤い漿果なんだよね。
どう見ても葡萄じゃない材料から、赤ワインができるっていうのは……。
いや、錬金術で作ってるわけだし……別に変なことでもないのかな?
ちなみにコルル芋酒のほうは試飲してみたところ、ほんのり甘めのお酒だった。
芋が材料の筈なのに、どこか柑橘系のフルーツみたいな香りがして。視聴者の人達の話によると、こちらは『芋焼酎』みたいなものじゃないか、とのことらしい。
何にしても、見た目からしてダメなキストンド蛇酒さえ除外すれば、他の3つのお酒はどれも普通に美味しく飲むことができそうだ。
お酒は『飲料』扱いなので、〈食養術〉スキルを持つシズになら、その回復効果を大幅に高めることができる。なので生産したものは、自分で消費してしまっても構わないし。
あるいは―――お酒は調合すると何故か、見た目が良い酒瓶に入った状態で出現するから。人に贈るためのアイテムにする、というのも悪くなさそうだ。
『ダンディなおじさま』ことオルヴ侯爵も、お酒は好きって言ってたしね。
色々お世話になってる人に、お礼として贈ってみるのも良いかな。




