230. 殲滅戦
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夕食を堪能した後は、すぐにゲームへ再ログインした。
部隊指揮を務めるユーリやエリカ、全体の回復を行うシズの役割は、クランの中でも重要なもの。なのでシズ達の参加が遅れれば、それだけ全体の行動開始も遅延させてしまうことになるからだ。
〚みんな! ここからも頑張ろう!〛
ゲーム再開後に手早く準備を済ませ、定位置のレディバードの都市上空まで飛翔した後に、クランチャットを介してシズがそう呼びかけると。クランの仲間の皆から、一斉に呼応する頼もしい声が上がる。
〚うふふ♡ 皆様、蹂躙して差し上げましょうね♡〛
子供らしからぬ妖艶な笑みを浮かべながら、そう皆に告げるユーリ。
どうやら夕食前にこの地の魔軍とひと当てした感触から、ユーリは早くも圧勝を確信しているようだ。
クラン『天使ちゃん親衛隊』に参加してくれている仲間の皆は、既にソレット村防衛戦という1つの戦場を勝利しているため、イベント開始前よりもレベルやスキルが大幅に成長している。
それが判っているからだろう―――。夕食前と同じく、北門から出陣する部隊を引き受けたユーリと、東門から出陣する部隊を引き受けたエリカは、共に仲間達を広く布陣させることで、魔軍との衝突領域を増やすつもりのようだ。
部隊を広域に展開させれば、それだけ層は薄くなる。
もともと防衛側は魔軍に較べると圧倒的に寡兵なんだから、普通なら自らの不利をより顕著にしてしまうこんな作戦は、まず実行できないわけだけれど。
それでも、個々の戦闘力に大きな開きがあるなら、話は別だ。
戦線が拡大した分だけ、勢いを増しながら魔軍を蹴散らしていく仲間達。
その勇姿を特等席の空から眺めているのは、なんとも爽快な気分だった。
もちろんシズも見ているだけではなく、自分のすべき仕事は果たす。
「ユーリ」
「はい、シズお姉さま♡」
まずは【同調拡散】のクランスキルを行使してからユーリに〈口移し〉で霊薬を飲ませて、その回復や強化の効果をクラン全体に共有する。
以降は【共有化:回復】のクランスキルも行使してから、焼き菓子を齧ることでクランメンバーのHPやMPを継続的に回復していく。
正直、ずっと菓子を食べているだけだから、戦っている実感が全く得られないのが難点だけれど……これが一番クランの皆のために役立てる方法なのは判っているから、選択の余地はない。
また、今回は今まで使用することを失念していた【共有化:パッシブスキル】のクランスキルについても初めて利用してみることにした。
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【共有化:パッシブスキルⅩ】
使用回数:2 /正時ごとに使用回数が全回復
使用制限:クランのマスター or サブマスター のみ
自身が修得するパッシブスキル1つを『10分』の間だけ
同じエリアの『クランメンバー全員』に共有する。
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このクランスキルを行使すると、シズが持っている『パッシブスキル』を1つ、10分間だけクランメンバー全員で共有することができる。
〈操具師〉の戦闘職を持つシズは、様々なパッシブスキルを習得している。その中には他職の仲間達でも活用できるものが、幾つか含まれている筈だ。
というわけで、共有対象のスキルに〈武器強化術〉をチョイス。
単純に武器性能を底上げしてくれるこのスキルなら、どんな職業の人にとっても役に立つだろうと、そう考えたからだ。
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〈☆武器強化術Ⅹ〉
所有する武器の性能を『100%』強化する。
このスキルは[知恵]が高いと効果が更に向上する。
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ソレット村防衛戦で得たスキルポイントの一部を費やし、〈武器強化術〉スキルのランクは最大の『10』まで伸ばしてある。
残念ながら〈武器強化術〉はスキルマスターしても、特に追加効果が発生しなかったけれど。それを差し引いて尚、武器性能が倍になるのは大きい。
その効果がクランメンバー全員にもたらされるなら、尚更だ。
【共有化:パッシブスキル】を行使できるのは、1時間毎に2回まで。
行使する度に効果が『10分間』持続するから、2回分を続けて発動させれば、合計で『20分間』に渡ってクランの仲間全員の武器性能を倍に引き上げることができる。
魔軍を一方的に圧倒している頼もしい仲間達なら。20分という限られた時間の強化でも、有効活用してくれることだろう。
―――そうしたシズの期待に、全力で応えてくれるかのように。
クランスキルを行使してからの20分間。効果時間内の仲間達の獅子奮迅っぷりと言ったら、本当に凄いものだった。
今までだって十分に凄い殲滅速度だったのに。それを更に何倍にも早送りしているかのような勢いで、クランの皆が魔物を処理していく。
ユーリが先程言っていた『蹂躙』という言葉の、まさにその通りの状況過ぎて。もはや空から眺めているだけで、ただ圧倒されるばかりだ。
夕食休憩の間に35000体を少し超えるほどまで回復していた魔軍が、あっという間にその数を溶かされていって―――。
クランスキルの効果が切れる20分後には、一気に半数以下の16000体近くにまで、規模を減らされていた。
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【レディバード防衛戦】
△勝利条件:制限時間まで耐えきる、または敵指揮官の撃破
▽敗北条件:レディバードの人口が『80%』未満になる
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▲侵攻/魔軍指揮官 - バンシー Lv.55
魔物数:15882体
士気 :☆
▲防衛/連合王国軍指揮官 - ヘルム・ビスコーテ Lv.25
兵士数:5030人
士気 :☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★
物資量:☆☆☆☆☆☆☆☆☆
▲天擁陣営
参加プレイヤー数:4434人
最大戦力クラン :『天使ちゃん親衛隊』/2028人
□小都市 - レディバード
生存人口:11305人
敗北条件:人口が『9088人』未満になる
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そんな状況なものだから。魔軍側の士気が、一気に底にまで落ち込んでいる。
『天使ちゃん親衛隊』の皆が参戦するまでは、完全に魔軍側が押せ押せの状況を作り出していたのに、あっさり逆転してしまった格好だ。
ここまで戦況の天秤が傾けば、もう負けることは有り得ない。
魔軍が殲滅されるのは、こちらの戦場でも時間の問題となりつつあった。
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お読み下さりありがとうございました。




