227. 余禄の戦い
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《圧倒的じゃないか、我がクランは!》
《天使ちゃんがついてるのに、負けるはず無いんだよなあ》
《敗北を知りたい》
《魔物くっころはお呼びじゃないんでしてよ!》
《天使ちゃんも……ユーリちゃんも……。否―――百合少女全てを―――俺たちが守護らねばならぬ……!》
意気揚々に魔物を蹴散らしていくクランの仲間達が、なんとも頼もしい。
2000人を超えるメンバーが在籍しているとはいえ、5万を超える魔物の大軍に比べれば、こちらが遥かに寡兵であるはずなのに。
数の不利を微塵も感じさせない怒涛の勢いで、皆は魔物を一方的に打ち負かしていく。
最初は北門には3000体、東門には4000体ぐらいの魔物が詰め寄せていたのだけれど。参戦してから1時間後には、これらの魔軍部隊を両者ともに撃滅し、総崩れにまで追い込んでいた。
戦闘の途中で魔軍側の部隊が北東側から2部隊、それぞれ1000体ずつ応援に駆けつけて来たのだけれど。これも合流される前に問題なく殲滅できていた。
片方の部隊は防衛する連合王国の兵士達と共に、クランスキルを行使したコノエが弓の斉射で迎撃してくれて。もう片方の部隊は―――なんと再び竜の姿に戻ったディアスカーラが、肉弾戦と魔法で蹂躙してくれたのだ。
事前にディアスカーラは、本格的には戦争に参加するつもりは無いと言っていたのだけれど……。どうやらシズ達やクランの皆が魔物と勇ましく戦っている光景を眺めているうちに、戦闘に参加したい意欲を抑えきれなくなったらしい。
竜の巨体が思う儘に暴れまわれば、それだけで魔軍の側に大きな被害を齎すのは言うまでもない。もちろん、これでも『石化のブレス』を温存しているのだから、ディアスカーラからすれば手加減して戦っているようなものだろうけれど。
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【レディバード防衛戦】
△勝利条件:制限時間まで耐えきる、または敵指揮官の撃破
▽敗北条件:レディバードの人口が『80%』未満になる
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▲侵攻/魔軍指揮官 - バンシー Lv.82
魔物数:42933体
士気 :☆☆☆☆☆
▲防衛/連合王国軍指揮官 - ヘルム・ビスコーテ Lv.25
兵士数:5039人
士気 :☆☆☆☆☆☆
物資量:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
▲天擁陣営
参加プレイヤー数:2317人
最大戦力クラン :『フレイミング・バースト』/186人
□小都市 - レディバード
生存人口:11306人
敗北条件:人口が『9088人』未満になる
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―――というわけで、クラン『天使ちゃん親衛隊』が参戦してから、1時間が経過した後の『戦況情報』はこんな感じ。
たったの1時間で魔軍側は1万体弱もその数を減らした挙句、士気が一気に半分にまで落ち込んでいる。
一方でそれとは対照的に、連合王国軍の士気は2倍に膨れ上がっていた。
とはいえ、連合王国軍の兵士やレディバードの市民にも、被害が全く出ていないわけではない。
シズ達が任されている北方から東方に掛けては、防壁を守る兵士を攻撃できるような余裕など、魔軍側に一切与えていないはずだから。この被害はおそらく、それ以外の方角で発生している戦闘で、出てしまった被害だろう。
ちなみにこの1時間の戦闘だけで、ユーリやプラムやイズミのレベルは『46』から『48』に、エリカとコノエのレベルは『45』から『47』へと成長した。
もちろんクランの仲間たちのレベルも、同じぐらい上がっている筈だから。ここからの戦闘では個人個人の戦闘能力という『質』の面で、更にプレイヤーと魔物の間では水を開けることになるだろう。
なお、シズのレベルは―――なんと『46』から『54』まで上がっている。
明らかにこれはレディバードの都市を訪れた際に、実績とともに入手した新しい異能《高きミンネ》の効果によるものだ。
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《高きミンネ》
恋人が魔物の討伐によって経験値を得た場合、
あなたもその1%に相当する経験値を獲得する。
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『1%』という僅かな割合であっても、恋人が全部で『1100人』も居るシズにとっては、総合すれば莫大な経験値量になる。
しかもシズは1000体近い魔物の群れを単身で蹂躙できる力を持つ、ディアスカーラとだって『恋人』の関係にあるのだから。当然、彼女の戦果からも『1%』の経験値が入ってくるわけで。
空中に浮いてひたすら焼き菓子を頬張ったり、10分に1回ユーリやエリカと舌を絡める熱い〈口移し〉を交わして楽しんでいるだけで、馬鹿みたいにレベルが上がっていくというのは……。
何というか……正直を言って、凄く変な気分だった。
真面目に戦ってるクランの皆に対しても、ちょっぴり申し訳なかったりする。
(……とはいえレベルが上がるのも、あまり良いことばかりじゃないんだよね)
『プレアリス・オンライン』では、自身と同じぐらいのレベルを持つ魔物と戦うほうが、スキルポイントを獲得しやすい仕様がある。
なので、あまりレベルばかりを先行して上げ過ぎると、戦闘でスキルポイントを稼ぎにくくなるという弊害があったりするのだ。
《高きミンネ》の異能は、任意に無効化することが可能になっている。
スキルポイントの獲得効率を考えて、それも考慮したのだけれど―――。
最終的には自らの意思で、シズは自身のレベルをより高めることを選択した。
シズ達のパーティは、単身で『前衛』を引き受けてくれているイズミと、全体の回復役を担っているシズが重要となっており、このどちらか片方でも戦闘不能に陥れば、即座に瓦解しかねない構成になっている。
イズミに関しては抜群の戦闘センスを備えている関係上、そうそう彼女が戦闘不能に陥ることなんて考えづらいから。不安点があるとすれば、HP量があまり高くはないシズの側だと思うのだ。
なのでシズのレベルを先行して上げれば、それだけ自身のHPや防御力が増えることにより、パーティ全体の安定性向上に寄与するものになる。
それを思えば、スキルポイントの獲得効率が多少悪化することに目を瞑っても、先んじてレベルを上げるメリットはあると思い、異能の恩恵を素直に享受することを選択したわけだ。
スキルポイント自体はデイリークエストの達成や生産なんかでも手に入るから、別に戦闘で獲得しにくくなっても、そこまで害があるわけでもないしね。
『―――あの。すみません、ご主人さま。いま少しお話できますか?』
シズがそんなことを考えていると―――不意にパーティチャットを介して、コノエがそう話しかけてきた。
パーティチャットは実際に声に出さずとも、相手に伝えたい言葉を意思をもって念じるだけで会話が可能だ。
焼き菓子を食べながらでも支障なく行えるので、もちろん何の問題もない。
『全然大丈夫だけど、どうしたのコノエ?』
『あ、はい。事前に決めてなかったことを思い出しまして……今日のお夕飯って、どうしましょう?』
『……確かに決めてなかったね。もうそんな時間かあ』
別荘での食事は基本的にシズとコノエの―――もとい、雫と九重の2人で作っているわけだけれど。その献立はあまり事前に考えたりせず、割りと直前に思いつきで決めていることが多い。
なので今晩の夕食を何にするかさえ、まだ特に決まっていないのだ。
シズが視界の隅に常時表示させている時計は、既に夜の『19時』を少し超える時刻を示している。
コノエの言う通り、そろそろ夕飯について考えておくべきだろう。
『んー……。流石に今日と明日は、妥協して店屋物にしても?』
『そうですね、僕もそのほうが良いと思います。ご主人さまが抜けている時間は、なるべく短く抑えるべきでしょうから』
本音を言えばこういう忙しいときほど、ちょっと手が込んでいて奮発した料理を作りたいという気持ちもあるのだけれど―――。
とはいえシズが抜ける時間が長くなれば、それだけクランの皆が回復の支援を受けられなくなる時間も長くなってしまうわけで。
それを考えると、せめて今日と明日ぐらいは調理時間が必要ない店屋物で済ませて、戦闘に参加できない時間を減らすべきだろう。
『それでは、わたくしが今からログアウトして、夕飯の電話注文から料理の受け取りまでやっておきましょう』
『ん、お願いしてもいい?』
『はい。わたくしは一時的に抜けても、特に問題ありませんから』
回復を担っているシズもそうだが、クランの皆を指揮しているユーリやエリカもまた、一時的にであっても抜けるのが難しい立場にある。
なのでプラムが率先して申し出てくれたのは、とても有難かった。
『戦勝のお祝いも兼ねて、ちょっと良いお寿司でも取りましょうか』
『え? 戦勝のお祝いって……気が早くない?』
思わずシズは、プラムにそう問いかけてしまう。
確かに戦況はもう、すっかり防衛側の優勢になっているけれど。
流石に魔軍側がまだ4万体以上いる時点で『戦勝』を祝うというのは―――幾ら何でも、気が早すぎるのでは無いかと思ったのだ。
シズがそう告げた言葉に、数秒ほどの間があって。
それから―――プラムとユーリの2人が、同時に小さく吹き出した。
更には少しだけ遅れて、イズミとエリカとコノエの3人もまた、すぐに堪えきれなくなったみたいで笑い声を零してみせる。
『えっ? わ、私、そんな変なこと言った?』
パーティの皆に笑われた理由が判らなくて、思わずシズがそう問いかけると。
楽しげに笑いながら、その理由をエリカが説明してくれた。
『ふふっ、旦那様。私達がこのイベントで果たすべき目的は何だったかな?』
『……? レディバードの都市を守ることじゃないの?』
『それは今の私達が参加している戦闘のことだろう? 少し勘違いしているみたいだけれど、そもそも私達にとって、このレディバードを防衛する戦いは余禄のようなものだった筈だよ?
さて―――私達の最初の目的が何だったかは、覚えているかい?』
『………………あっ』
そこまで言われれば、流石に意味も判って。
思わずシズは、ちょっとだけ顔が熱くなった。
シズ達にとっての本来の目的は『ソレット村の防衛』。
なので、本来の目的は既に達成してしまっているシズ達が『戦勝』を祝うのは、考えてみれば当たり前のことだったのだ。
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お読み下さりありがとうございました。
あんまり投稿できておらず、申し訳ありません。




