226. 反撃開始
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〚それじゃあ、みんな! こっちの防衛戦も頑張っていこう!〛
〚おうとも!〛
〚イェッフー!!〛
〚根切りですわ! 根切りにしてやりますわ!〛
〚天使ちゃんのために!〛
〚皆殺しじゃあ!〛
〚往生しませい!〛
クランチャットでシズが呼びかけると。すぐにクランの仲間達から、沢山の呼応する声が返ってきた。
―――現在の時刻は、午後の18時になったところ。
クラン『天使ちゃん親衛隊』の総勢が既に移動を終え、レディバード都市内にて参戦の時を待っていた。そんな戦意旺盛な皆がシズの声を契機として、一斉に戦場へと繰り出していく。
今までは防衛に専念するため、強固に閉ざされていた北門と東門とが同時に開け放たれ、それぞれの門から約1000人ずつの仲間たちが飛び出した。
その結果、門前に詰め寄せていたおびただしい数の魔物の群れが、まるでバターのように―――どころか、まるで真夏の炎天下に置かれたシャーベットのように、いとも簡単に溶かされていく。
「……うちのクランのみんな、つ、強すぎない?」
例によってユーリとエリカの2人と共に空へと舞い上がり、全ての様子を俯瞰していたシズは、思わず感嘆しながらそう感想を零した。
基本的にプレイヤーは装備などで勝るため、同格の魔物よりも強い。
とはいえ―――これ程まであっけなく打ち負かしてしまうほど、圧倒的な差では無かったように思うのだけれど。
「これが2つ目の戦場なのだから、こうもなるだろうね」
「……どういうこと?」
「クランの皆が、それだけ先程の戦いよりも成長しているということだよ」
「ああ―――」
エリカの説明を聞いて、ようやくシズは得心する。
ソレット村防衛戦で得た大量の経験値は、クランの皆の平均レベルを『5』近く押し上げているし。また防衛戦ではスキルポイントも大量に手に入っているから、レベル面での成長以上に仲間たち全員が大きく強化されている。
一方で魔物側の強さ自体は、ソレット村を包囲していたものと全く変わっていないから。なるほど―――片側だけが大きく成長したなら、一方的な戦闘になるのも無理はないだろう。
「シズお姉さま、とりあえず回復などを開始して頂けますか」
「あっ、了解」
ユーリから言われて、慌ててシズは『インベントリ』から霊薬を取り出す。
すると、こちらから何を求めるまでもなく、エリカが身体を寄せてきてくれた。
「今度は私の番だろう?」
「ちゃんと判ってるよ、エリカ。―――【同調拡散】」
エリカを対象にしてクランスキルを発動させてから、霊薬を開封して小瓶の中身を口の中に含む。
それから―――シズはエリカの顎をくいっと持ち上げて、彼女と唇を重ねた。
薬液をエリカの口腔内へと流し込みながら。同時に自身の舌先を入り込ませて、蹂躙するかのように彼女の舌へと強く絡ませる。
エリカはキスをする時、こういう風に『一方的』にされるのが好きなのだ。
相手から力付くで、なすがままにされるのが好みらしい。
ちなみにこれはエリカだけでなく、コノエもそうだ。
「ん、ふ……!」
エリカの呼吸が乱されて、唇の端から熱い吐息が漏れ出るけれど。
それでもシズは、彼女の舌や口腔を蹂躙することを、やめたりはしない。
たっぷり1分間ほどエリカの感触を楽しんでから。
ようやく唇を離すと、たちまち彼女はぜえぜえと荒く呼吸を繰り返していた。
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△〈口移し〉を行い、エリカに『プルーフェア』を飲ませました。
全クランメンバーのHPが最大値を越え『992』回復しました。
全クランメンバーの[筋力]が80分に渡って『80』増加します。
全クランメンバーの[強靭]が80分に渡って『80』増加します。
全クランメンバーの[敏捷]が80分に渡って『80』増加します。
▽エリカの『同調』状態が解除されました。
+----+
〈口移し〉のスキルは薬液を『口移し』している時間、つまりキスしている時間が長いほど、霊薬の効果がより増幅される。
今回は1分間ほどの長い時間掛けて〈口移し〉を行ったので、効果が『8倍』にまで増幅されているようだ。
最大限に高められた霊薬の効果が【同調拡散】のクランスキルにより、全クランメンバーに拡散される。
「相変わらず、凄いですね……」
その効果の高さを確認して、ユーリが感嘆しながらそう告げた。
シズもまた、内心で彼女に同意する。元々高めの回復効果を持つプルーフェアに〈口移し〉を掛け合わせるだけで、お手軽にこの効果が出せるのは結構ヤバい。
能力値の増加量だけでもかなりのものだし、HPが最大値を超えて1000近く増えるというのは、この先の戦闘でとても強力な保険になる。
仮に魔物から不意の一撃を受けたとしても、まず倒されたりしなくなる筈だ。
【同調拡散】のクランスキルは1時間に6回まで行使できる。
先程のソレット村での戦闘では、クランメンバーに1人も戦闘不能になった人が出なかったらしいけれど。その理由のひとつには、10分ごとに仲間全員に強力な保険を付与し続けることができた、というのもあると思う。
もちろん全能力値を70~80ほど底上げできるのだって、とても大きいしね。
《百合キスは大正義でございましてよ!》
《やっぱシズ×エリなんだよなあ!》
《負ける気がしねえ! 百合の天使が俺たちにはついてるぞ!》
《おじさん興奮してきちゃった! このテンションで魔物に突っ込むよ!》
……相変わらず、何故か〈口移し〉で仲間の回復や強化を行うと、何故かクランメンバー全員の士気も大幅に上がるみたいだ。
その理由はちょっと理解できないけれど。何にしても、士気が高い分にはきっと良いことの筈だ。
〚今です! 北部隊の皆さん、突撃して下さい!〛
〚ひ、東部隊の皆も突撃してくりぇ!〛
今回は北門から出陣する部隊指揮をユーリが担当し、東門から出陣する部隊指揮をエリカが担当している。そんな2人が、揃って皆に『突撃』の指示を出した。
HPが増えれば、それだけ無茶なことだってできるようになる。だから今ならば多勢の魔物を相手にも、突撃を敢行する余裕があると判断したのだろう。
ちなみにエリカの言葉がちょっと舌足らずになっていたのは、多分まだ彼女からキスの余韻が抜けていないせいだ。
噛んだことを気にして、顔を赤らめているエリカがなんとも可愛らしい。
「【共有化】」
もちろん仲間たちの突撃を支援するために、シズも行動を継続する。
……と言っても、あとは【共有化】のクランスキルを発動させてから焼き菓子を延々と食べ続けるだけなんだけどね。
皆のMPを補給するために、これも結構大事なことだ。
「上手く行きそうだね」
「そうですね」
エリカの言葉に、ユーリが笑顔で頷きながらそう答えていた。
全軍突撃は大成功で、それぞれの門前に詰め寄せていた数千体もの魔物たちが、呆気なく食い破られて総崩れになっていく様子が空からよく見て取れた。
同じくその様子を眺めていたらしい、北門や東門を守っていた現地連合王国兵の人達から、喝采の声が上がる。
今まで対応に苦慮していた魔物を、爽快に蹴散らしてくれるクランメンバー達の活躍が、きっと彼らには嬉しいものとして映っているんだろう。
視界に『戦況情報』のウィンドウを表示させてみると、シズ達が参戦するまでの間に、個体数を『54000体』ぐらいまで増やしていた筈の魔軍が、僅か10分ちょっと経っただけで5万体を割る数にまで減らされていた。
(……確かに、これは問題なく勝てそうかな?)
先程ユーリとエリカの2人が揃って、簡単に戦勝を保証してくれたこと。
その言葉の意味が、今更ながらシズにも理解できた気がした。
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