220. 呆気ない戦勝
〚乙!〛
〚成敗!〛
〚みんな乙っした!〛
〚やってやったぜ、コンチクショー!〛
〚百合を邪魔する魔物共は根切りあるのみ!〛
〚いやー、デュラハンは強敵でしたね〛
〚数の暴力って怖いな……。ボス完全包囲のフルボッコだったわ〛
〚なんかデュラハンちゃん周囲の護衛より弱かったんだが〛
〚魔軍の数が減りすぎて、レベルが超下がってたからね〛
〚何にしても乙! 勝てば良いのじゃ!〛
〚勝てば官軍!〛
〚ウム!〛
天幕に行って貰ったコノエを介して、アクール王子とオルヴ侯爵の2人から隣国の状況について説明を受けていると。俄にクランチャットが騒がしくなった。
どうやら魔軍の指揮官でありボスモンスターでもあるデュラハンが、クランの仲間の手によって無事に討伐されたらしい。
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▲魔軍の指揮官の討伐に成功し、防衛側が勝利しました!
現時点で残存している魔軍はこのあと全て撤退します。
▲イベントに参加下さいました皆様、大変お疲れ様でした。
皆様が防衛戦に於いて果たした戦功は全て記録されており、
報酬や報奨が後日、国家から支払われることになります。
▲『魔軍侵攻』イベント自体は明日の午後22時まで続きます。
他国へ移動し、更に別の防衛戦へ参加するのも良いでしょう。
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その事実を裏付けるように、ログウィンドウに通達のメッセージが表示された。
指揮官が討伐されたことで魔軍は撤退するしか無くなるため、もうソレット村に残っている必要は無いようだ。
〚おお、防衛側勝利のメッセージ出てるね〛
〚出てる出てる。ウチらの防衛勝利、もしかして世界最速じゃね?〛
〚まだイベント開始から1時間半しか経ってないからなあ〛
〚すっごい速攻で終わっちゃったな……〛
〚イベント終了まであと丸1日以上あるぞ、どうしよう〛
〚今から他国の防衛戦にも参加する?〛
〚何もしないよりは、その方がいいかなあ〛
〚このイベントは経験値やスキルポイントも美味しいしね〛
〚でも参加するならクランスキルの支援が欲しいかな〛
〚う、それは確かに……〛
〚天使ちゃんの支援が貰えないと、すぐMPが枯渇する自信あるわ〛
〚ユーリちゃんとエリカちゃんの指揮もマジで欲しい〛
〚天使ちゃん、このあとどっか別の国の防衛戦にも参加しない?〛
〚参加するなら俺らついてくぜ!〛
〚俺も俺も!〛
〚わたくしもご一緒致しますわ!〛
コノエを中継役にすることでアクール王子とオルヴ侯爵の2人から色々と情報を提供して貰っていると。流し聴きしていたクランチャットが、何だかシズにとって非常に話が切り出しやすそうな流れに推移していた。
今ならフォートランド連合王国の援軍に向かいたい旨をみんなに伝えて、すぐに同調を得ることができそうだ。
〚クランマスターのシズです。まずはみんな、防衛戦お疲れ様でした! みんなのお陰で住人に1人の被害も出さず、無事ソレット村を守り切ることができました。
指揮官のアクール第二王子や補佐のオルヴ侯爵が、私達に充分な報酬を支払うと約束してくれているので、楽しみにしたいと思います。あ、もちろん貰ったお金はクランのみんなで均等に分けるからね!〛
クランチャットでシズがそう告げると、地上から皆が上げる大きな喝采の声が、上空に居るシズの元まで届いて聞こえた。
続けて、シズはクランチャットで皆に語り掛ける。
〚―――それから今後のことなんだけど、みんなにお願いしたいことがあってね。いま私達が居るファトランド王国には同盟を締結している国が1つあるみたいで、それがすぐ東にあるフォートランド王国っていうところなんだけれど。
その国の防衛戦の手伝いを頼まれたので、是非クランのみんなと一緒に手伝いに行きたいんだ。よかったら引き続き付き合って貰えると嬉しいな〛
〚もちろん!〛
〚あたぼうよ!〛
〚天使ちゃんのために!〛
〚行きませい!〛
〚俺たちは『親衛隊』だからな! どこにでも付いてくさ!〛
シズの呼びかけに、皆が嬉しそうな声で即座に呼応してくれる。
そのこと自体が、シズ自身にとって堪らなく嬉しかった。
指針が決まったなら、あとは行動するだけだ。
とりあえずクランの皆にはこのソレット村で戦いの疲労を癒やして貰い、その間にシズはコノエに代わって貰っていた、会議の場に出席することにした。
もちろんユーリとエリカにも同行して貰う。シズが色々と頭を悩ませるよりも、素直に彼女たちの知恵を頼るほうが賢明だろうからね。
「フォートランド連合王国で5万を超える大量の魔物から侵攻を受けているのは、『レディバード』という名の小都市になる」
そこで初めて、シズ達はダンディなおじさま―――もといオルヴ侯爵の口から、隣国で侵攻を受けている都市の名前を教わることができた。
とはいえ、名前を聞いても全くピンとは来ない。そもそも活動の拠点にしているファトランド王国の地理にさえ大して詳しく無いのだから、隣国の小都市の名前なんて、シズが把握している筈もないのだ。
―――幸いアクール第二王子が地図を携行していたので、その地図上でおおよその位置を示して貰いながら教わることができた。
「ここって私達の世界で言うと『リヴァプール』がある辺りだよね?」
「流石です、シズお姉さま。イギリスの地理がお判りになるのですね」
「あー……いや、私が場所を把握してるイギリスの都市って、リヴァプールの他にはロンドンとドーバーぐらいしか無いんだけれどね」
シズがリヴァプールの場所を把握しているのは、一時期両親がアイルランドに滞在していた頃に、そこへ旅行したことを何度も自慢されたからだ。
シズの父はビートルズの熱心なファンで、母はサッカーを始めとするスポーツ全般をこよなく愛するファンだ。なので、その両者を兼ね備えるリヴァプールへの旅行は、とても特別な経験になった―――と、いつかの日に両親が楽しげに話してくれたことを、今でもシズは覚えている。
オルヴ侯爵の説明によると、こちらの世界では『レディバード』という都市名になっているらしいけれど。
両親の思い出の地が、魔軍の脅威に脅かされているようなら―――せめてゲームの中でだけでも、それを救えるように頑張ってみるのも面白いだろうか。
「行って下さるか。ならば、あなた方が最優先で『転移門』を利用できるように、私の方から国へ強く要請しておこう。
……もっとも、フォートランド連合王国の首都へ速やかに移動できたとしても、そこからレディバードまで移動するのにかなりの時間が掛かるだろうが」
シズ達に援軍役を引き受けてくれる意思があることを察して、アクール第二王子がそう提案してくれるけれど。
王子の言う通り『転移門』を利用して国家間を移動していては、シズ達の世界で言うロンドンの都市がある位置へと出てしまうから。そこからリヴァプールがある場所まで移動するというのでは―――あまりに遠すぎる。
何しろ、現実世界で言うなら『300km弱』ぐらいの距離があるのだ。
こちらの世界は現実のものより、だいぶ小規模になっているけれど。それでもまだ、移動に苦労する距離であるのは疑いようもなかった。
「アクール王子。『転移門』を利用せずに、ここから直接、レディバードへ向かうのではいけませんか?」
「……直接? それは、どういう意味だろう?」
シズの言葉を受けて、アクール王子が訝しげにそう問い返す。
あまりに当然の反応だから。思わずシズは、くすりと笑みを零してしまった。
「幸い私には、誰よりも速く大空を翔ける友達の心当たりがありますから。今回はそちらを頼ってみようと思うんです」
クラーバ島でのんびりと暮らしている、緑竜の友達。
頭を下げてお願いして、あとは報酬に1缶ぶんのクッキーを差し出せば。きっと彼女は喜んで、その背にシズ達を乗せてくれる筈だ。
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お読み下さりありがとうございました。
体調はそれなりに良くなりましたが、まだ後を引いている感じです。




