217. 開戦から1時間
投稿頻度が下がっておりまして、申し訳ないです。
昨今の気温変化が私の体調を殺しに来ている……。
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▲各種クランスキルの使用回数が全回復しました。
▲ソレット村を包囲する魔軍の数が『1929体』増加しました。
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開戦から1時間が経過して、視界の隅に表示させている時計が『15:00』を迎えると同時に、ログウィンドウに2つのメッセージが表示された。
それぞれクランスキルの使用回数が回復したのと、魔軍の数が補充されたことを通達するメッセージのようだ。
1時間が経過するごとに、防衛側に参加しているプレイヤーと同じ数だけ魔軍の戦力が補充されるというのは、本来なら脅威なんだろうけれど―――。
「ここまで大差がついちゃうと、今更2000体が補充されてもなあ……って感じが、正直しちゃうかも」
「そうですねぇ……」
「いや、全くだね」
シズ達は3人で顔を見合わせて、思わず苦笑してしまう。
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【ソレット村防衛戦】
△勝利条件:制限時間まで耐えきる、または敵指揮官の撃破
▽敗北条件:ソレット村の人口が『80%』未満になる
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▲侵攻/魔軍指揮官 - デュラハン Lv.48
魔物数:3014体
士気 :☆☆
▲防衛/王国軍指揮官 - アクール・デム・ファトランド Lv.30
兵士数:600人
士気 :☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★★★
物資量:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆★
▲天擁陣営
参加プレイヤー数:1929人
最大戦力クラン :『天使ちゃん親衛隊』/1918人
□集落 - ソレット村
生存人口:631人
敗北条件:人口が『505人』未満になる
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―――『魔軍侵攻』のイベントが開始して、僅か1時間後の状況がこれだ。
今でこそ魔物が約2000体増えたことで、魔軍の戦力は『約3000体』まで回復しているし、士気も『星2つ』になっているけれど。
つい数分前までは、魔軍の戦力は本来の10分の1近くにまで削られていたし、魔軍側の士気は『星0個』になっていた。
完全にプレイヤー側が魔物を蹂躙する、一方的な展開になっている。
ちなみに敵の指揮官を務めるデュラハンのレベルも、魔物が補充される直前までは『40』を下回っていた。
もうシズ達が戦っても普通に倒せそうなほど、酷く弱体化している。
もちろんソレット村の住人には、怪我人さえ1人も出ていない。
そもそも魔物はソレット村の防壁に、近づくことすら出来ていない。
一応、ユーリとエリカが指揮する殲滅部隊の間隙を縫うように、数十体の魔物がソレット村へ向かってくること自体はあるのだけれど―――。
村の周囲を囲む防壁にはファトランド王国の兵士達とコノエが控えているから。コノエが行使するクランスキルにより兵士達の射撃が強化され、その斉射によってあっさり片付けられていた。
「3時間でシズお姉さまに勝利をお届けしようと、そう思っていましたが……」
「これはもう、間違いなく2時間掛からずに決着が付くよね」
この手の大規模戦闘イベントに全く馴染みがないシズにでも、この戦場の有様を見ればそのことぐらいは察せられた。
「一応デュラハンの周囲は精鋭の護衛部隊が控えているらしいが。しかしそれも、せいぜいレベル『40』程度の魔物だと、報告を受けているからね」
「開戦当初でしたらともかく、現在のクランメンバーにとって対処に苦労する相手ではありませんね」
『魔軍侵攻』イベントが開始する前に、ユーリとエリカが相談して修得してくれたクランスキルの中に〈クランの戦訓〉と〈更なる戦訓〉というものがある。
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〈クランの戦訓Ⅹ〉
『魔軍侵攻』を始めとする大規模戦闘イベント中に
クランメンバーがパーティリーダー格以上の魔物を討伐すると
討伐者が獲得した量の『50%』に相当する経験値が
同じエリアにいるクランメンバー全員に与えられる。
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〈更なる戦訓Ⅹ〉
『魔軍侵攻』を始めとする大規模戦闘イベント中に
クランメンバーがパーティリーダー格以上の魔物を討伐すると
討伐者が獲得した量の『100%』に相当するスキルポイントが
同じエリアにいるクランメンバー全員に与えられる。
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前者の〈クランの戦訓〉は、クランメンバーの誰かがパーティリーダー格以上の魔物を討伐した時、その魔物を討伐した際に得られる経験値の『50%』をクランメンバー全員に与えるというものだ。
ここまでの1時間中にクラン『天使ちゃん親衛隊』の仲間たちが討伐してくれた魔物の数は、およそ『9000体』にも上る。
それらの魔物のうち、およそ6体に1体はパーティリーダー格の魔物だ。だからこのクランスキルの対象となる魔物を、これまでに大体『1500体』は討伐していることになる。
つまりクランメンバー全員が1500体の50%で、およそ魔物『750体』を討伐したのに相当する量の経験値を、既に獲得しているわけだ。
そのためクランメンバーのレベル帯が、当初は『30~40』程度だったのにも拘わらず、現在では『36~43』ぐらいまで成長していた。
お陰で時間が経過するほどに、彼我の実力差がより顕著なものになっている。
また後者の〈更なる戦訓〉というクランスキルがあるお陰で、経験値のみならずスキルポイントに関しても、クランメンバー全員がかなりの量を手にしている。
『プレアリス・オンライン』ではレベルの成長以上に、スキルのランクアップによってキャラクターが強化されるところが大きいから。経験値とスキルポイントの両面でクランメンバー全員が大きな恩恵を受けられることが、大きな戦力アップに繋がっていた。
今のクランメンバーなら―――レベル『40』の精鋭の魔物が相手でも、さほど苦もなく倒せてしまうことだろう。
むしろそのままの勢いで、敵指揮官のデュラハンさえ討伐できてしまいそうだ。
「残念ながら、私達の出番は無さそうかな?」
「ふふ、そうですね。少し残念ですが、良いことです」
〈クランの戦訓〉と〈更なる戦訓〉の2つのクランスキルは、戦場全体を上空から俯瞰しているだけで、直接的には戦闘に参加していないシズ達3人にも適用されている。
この効果によりシズとユーリのレベルは『43』から『46』に、エリカのレベルは『42』から『45』にまで成長している。
もちろん経験値だけでなく、スキルポイントも大量に手に入っている。
どうせなら見ているだけでなく、地上に下りて参戦し、自分たちの成長の度合いを確認してみたい気もするけれど―――。
とはいえ戦況の天秤は既に、圧倒的な優勢に傾いている。
今更少しだけ参戦して、魔軍の精鋭部隊や指揮官を相手に戦い、美味しい部分の手柄だけを持っていくような振る舞いは、あまりすべきでは無いだろう。
「まあ、我々は頼もしい仲間たちの姿を、空から眺めていようじゃないか」
「ん、そうだね」
エリカの言葉を受けて、シズは頷く。
クランに参加してくれているみんなの活躍が見られるのは、自分で活躍するのに負けないぐらい、間違いなく嬉しいことなのだから。
たまには―――私のほうが皆の活躍の『視聴者』側になるのも楽しそうだ。
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お読み下さりありがとうございました。




