206. 参戦する仲間はどの程度
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『プレアリス・オンライン』では、一緒に『パーティ』を組んでいる仲間が居る場所は、常に把握することができる。
例えば、仲間が『どちらの方向』の『どの程度離れた場所』に居るのかを、常に感覚で理解することができるし。『マップ』の機能を利用すれば、相手が居る位置を正確に特定することも可能だ。
(別々に行動してる……?)
だからシズには、すぐにそのことが察知できた。
シズ以外の5人のうち、ユーリとエリカの2人はソレット村の中に留まっているみたいだけれど。それ以外の3人は揃って村の外へ出掛けているようなのだ。
とは言っても、大して距離が離れているわけではない。
おそらくは実際に戦ってみることで、現時点で村の周辺に出現する魔物の強さを確かめているのだろう。
以前に運営から行われた告知によれば、『魔軍侵攻』イベントの襲撃予定地近辺に出現する魔物は、レベルが『20~26』の個体に置き換わるという。
なので平時よりは魔物が強化されているわけだけれど。とはいえ―――既にレベルが『42~43』に達しているイズミやプラム、コノエの敵ではない。
村の外に出ている3人については、何の心配も要らないだろう。
そう考えたシズは、とりあえず村の中に残っているユーリとエリカの2人に合流するために、彼女たちが居る方へと向かう。
空を『浮遊』して、地上を俯瞰しながら移動すると。苦もなく2人の姿を見つけることができた。
「おかえり、旦那様」
「お疲れ様でした、シズお姉さま」
「うん。ありがとう、2人とも」
着地と同時に労いの言葉を掛けてくれた2人に、シズは笑顔で応える。
それから、天幕の中で行った軍議の場で見知った情報を、なるべく漏らすことがないように気を付けながら、順序立てて2人に説明していった。
「フム……。魔物の数はたったの1万程度というのは、少し残念だね」
「そうですね。これでは大した戦功にもならなそうで心配です」
侵攻してくる魔物の規模について説明した直後。2人が示したその反応を見て、シズは内心でとても驚かされる。
1万という魔物は、かなりの大軍であるはずなのに。2人とも―――まるでそれが些かの脅威でも無いかのように、簡単に言ってみせるのだ。
「となれば、いかに短時間で決着をつけるかが重要か」
「ええ。クランの実力を示す意味でも、そちらに狙いを定めましょう」
「ふ、2人とも……1万って結構な数だと思うんだけど……?」
「……うん? 倒すだけなら、半日もあれば余裕だろう」
「そうですね。よっぽど手を抜いて戦えば、そのぐらいは掛かるでしょうか」
「ええ……?」
困惑するシズの表情を見て、ユーリとエリカが2人揃って小さく吹き出す。
たっぷり10秒ほど笑ってみせたあと、静かにユーリは話し始めてくれた。
「あの、シズお姉さま。今回の戦いで、私達のクランである『天使ちゃん親衛隊』から参戦するプレイヤーの人数を、どの程度だと見込んでおられますか?」
「多分200人ぐらいだと思ってるけれど……?」
「―――ああ、なるほど。道理で認識が食い違うわけだ」
「ええ。その程度のプレイヤーしか参戦して下さらなければ、確かに1万の魔物を相手にするのは、それなりに苦労するでしょうね」
得心したような表情で、そう告げるエリカとユーリ。
とはいえ、シズとしてはまだ理解できず、首をかしげるしかない。
「……? えっと、つまり―――2人はもっと沢山のプレイヤーが参戦してくれると考えている、ってことなのかな?」
「うむ、その認識で合っているよ旦那様。私は大体1300~1500人ぐらいのプレイヤーが参加してくれると考えているね」
「ちなみに私は、クラン参加者の9割近くが参加してくれると思っています」
「9割って……」
クラン『天使ちゃん親衛隊』の所属人数は2000人を優に超えている。
なので、その9割の参加を見込むというのは―――。1800人以上にも及ぶ、大人数の参加を期待しているということだ。
「さ、流石にそんなには、参加してくれる人は居ないんじゃないかな……?」
より一層シズは困惑を深めながら、そう言葉を零す。
ユーリはもちろんのこと、エリカが告げた予想人数でもかなりのものだ。
確かに、もしそれ程の数のプレイヤーが参戦してくれたなら、1万という大量の魔物を討伐するのも、さして苦労せずに済みそうだけれど……。
シズにはそんなに大人数が参加してくれるとは、到底思えなかった。
どんなに多くても想定の倍で、400人といった所ではないだろうか。
「うふふ、シズお姉さま。それは明日になれば判ることですわ」
「そうだね。誰の予想が正しいか、結果を見るのが楽しみだ」
参加人数の少なさを懸念するシズとは対照的に、彼女たちは自らの予想が正しいことに、それなりの自信を持っているようだ。
明日になれば防衛戦に参加する意思がある人達は皆、このソレット村に集まってくるだろうから。彼女達の言う通り、明日になれば判ることではある。
「そんなことより―――シズお姉さま。村の中にどこか、私達で自由に利用して良いような土地は無いものでしょうか? 『招集門』を設置したいのですが」
「……招集門? えっと、村の一角を私達のクランで自由に使って良いという許可を、王国軍の偉い人から貰ってきてあるよ」
「あら、それはとても助かります。流石はシズお姉さまです」
ユーリがそう告げて、嬉しそうに笑ってみせた。
実際、先程の話し合い中にアクール王子とオルヴ侯爵からは、村内の一角にある空いている土地をシズ達のクランで占有利用して良いという許可が出ている。
また野営用の天幕なども幾つか貸し出して貰える話になったので、そこには後でクランの人達が休めるような場所でも用意しようと考えていた。
ユーリに求められて、占有利用して良いと許可された場所まで案内すると。
彼女はその場所に―――何かの『魔法陣』のようなものを展開してみせた。
魔法の詠唱も何も行わず、瞬時に地面に大きな『魔法陣』が浮かび上がったものだから。そのことにシズはかなり驚かされてしまう。
「ユーリ、これは……?」
「先程クランスキルを修得して設置できるようになりました『招集門』です。私達のクランに所属している人達なら誰でも、天擁神殿の礼拝所にある神像に祈ることで、この『招集門』まで一瞬で転移できるようになるそうですよ」
「おお……。それは便利だね」
ソレット村へは森都アクラスから街道沿いに移動する場合、普通に歩くと4時間から5時間程度は掛かることになる。
なのでシズ達と違って『飛行』や『浮遊』ができないクランメンバーの人達が、ソレット村まで移動してくるのはかなり大変だろうから。『招集門』のように移動時間を大幅に削減できる設備は、とても重要なものだ。
クランのスキルポイントを消費してでも取得する価値があると、そうユーリが判断するのも当然だろう。
「うふふ、というわけで皆様の参加をお待ちしておりますね」
「まさか『天使ちゃん親衛隊』のクランに参加しているのに、明日参戦してくれない人なんか居ないよねぇ?」
シズの近くに浮かぶ配信妖精に向けて、ユーリとエリカの2人がそう告げる。
もちろんその直後に『配信』を見ていた視聴者の人達から、怒涛のように大量の参戦表明コメントが押し寄せてくることになったのは、言うまでもない。
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