205. 勝利条件
すっかり週4投稿となっており、申し訳ありません。
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それからシズは天幕の中でアクール王子とオルヴ侯爵の2人から、ソレット村の付近に迫りつつあるらしい『魔物の軍勢』について説明を受けた。
斥候部隊から持ち込まれた情報によると、魔物の総数はおよそ『1万体弱』にも上るらしく。その数の多さは、かなりの脅威と考えて間違いないようだ。
「もっとも、これでも他国に較べればマシらしいのだがね」
「え、そうなんですか?」
「うむ、東にあるフォートランド連合王国とは密に連絡を取り合っているのだが、そちらの小都市には当国の5倍以上にも及ぶ魔物が押し寄せているらしい」
「うわ……。それはまた、大変な数ですね……」
5倍以上となれば、即ち『5万体』にも及ぶ大軍の魔物ということになる。
今どき、人口が5万人以下の『市』なんて珍しくもないけれど。そんな市の人口にも匹敵する規模の魔物が押し寄せてくるわけだ。
―――頭の中で想像すると、少し恐ろしいものがあった。
ただ、どうしてファトランド王国に較べて隣国のフォートランド連合王国の小都市に侵攻する魔物の数が大幅に多いのかは、何となく察せるものがある。
『プレアリス・オンライン』の公式サイトに掲載されている『魔軍侵攻』イベントの特設ページでは、各国の集落に押し寄せてくる魔物の規模が『その国家に活動拠点を置くプレイヤーの総数』に影響を受けると書かれているからだ。
シズ達が拠点を置くファトランド王国は現実世界で言う『アイルランド』に相当し、一方で東にあるフォートランド連合王国は『イギリス』に相当する。
厳密に言えば北アイルランドがファトランド王国の領土だったりなど、現実とは異なる箇所もあるけれど―――大体そのように考えて合っている筈だ。
シズはまだ隣のフォートランド連合王国へは行ったことが無いけれど……。それでも、あちらの国家に所属するプレイヤーの数が、ファトランド王国に較べて遥かに多いだろうことは容易に想像がついた。
世間一般で言えば、アイルランドよりもイギリスの方が、旅行先として圧倒的に人気があるからね。
もっとも、シズ個人としては両親が一時期滞在していたアイルランドのほうが、どちらかと言えば好きだったりもするけれど。
「魔物の強さはどの程度なんでしょう?」
「うむ、もっともな質問だな」
シズが問いかけた言葉に、オルヴ伯爵がゆっくりと頷く。
ちなみにアクール王子は言葉を発さず、聞き手に専念しているようだ。
彼は実戦の経験を持たない自身の立場を正しく理解しているので、下手に言葉を挟まないほうが良いと考えているのだろう。
「斥候の調査によれば、魔物の大半はレベルが『30』前後らしい。
但し、侵攻してきている魔物共は、まるで掃討者のように6体ずつ『パーティ』を組んでいるらしくてな。パーティのリーダー役を務める魔物はそれよりもレベルが高く、大体『35』前後のレベルを持つそうだ」
「なるほど……。リーダー役の魔物には注意が必要ですね」
6体ずつパーティを組んでいるということは、侵攻してくる魔物の6体に1体はリーダー役ということになる。
10000を6で割るから、概ね1600体ちょっとの魔物が『35』前後のレベルを持つわけだ。
現在シズ達のレベルは『42~43』だから、リーダー役の魔物が相手でも問題なく勝つことができる。イズミの戦闘能力があれば瞬殺さえ可能だろう。
但し、それはあくまでもシズ達の話であって、シズがマスターを務めるクランの人達の誰もが、問題なく勝てるというわけではない。
クラン『天使ちゃん親衛隊』に所属している人達のレベルは、大体30~40の間に収まっている。
なのでレベルが高めの人達なら、魔物を同時に2パーティ相手にしても勝つことができるだろうけれど。レベルが低めの人達だと魔物を1パーティを倒すのにも、それなりに時間を要するだろう。
あまり魔物に囲まれないよう、仲間を運用することが重要になりそうだ。
(となると編成が重要そうだけれど。この辺りのことは多分―――)
シズが頭を悩ませるまでもなく、知能派のユーリやエリカが色々考えていることだろう。
クランの仲間の運用に関しては、聡明な彼女たちを素直に頼るほうが、間違いなく良い結果に繋がる筈だ。
「あと―――それとは別に、より高いレベルを持つ魔物の一団が、後ろ側に控えているようだ。おそらくは指揮官と、それを守護する精鋭の護衛だと思われる」
『魔軍侵攻』イベントには勝利条件が2つ設定されており、そのどちらか片方でも満たすことができれば、防衛側―――プレイヤーが参加する側の勝利となる。
1つは『制限時間一杯まで集落を守る』こと。
イベント2日目の『午後22時』になるまで集落に住む『8割』以上の人達を守り切ることができれば自動的に防衛側の勝利となり、侵攻してきた魔物は撤退することになっている。
基本的にはこちらの勝利条件を満たすほうが楽だろう。
何故なら立派な『防壁』がある以上、守る側のほうが圧倒的に有利だからだ。
もちろん敵側に『空を飛ぶ魔物』がいれば、話は変わってくるかもしれないけれど。その存在についてシズが訊ねたところ、オルヴ侯爵は『少なくとも現時点では確認されていない』と回答してくれた。
ちなみに、もう1つの勝利条件は『指揮官の魔物を討伐する』こと。
魔物がパーティを組んでいることからも分かる通り、今回の『魔軍侵攻』イベントでは魔物がバラバラに襲いかかってくるのではなく、ある種の『軍隊』のようなものを組織して攻めてくるわけだけれど。
その軍隊上で『役職』を持つ魔物を討伐すれば、それよりも下位に位置する魔物は即座に撤退するルールになっているらしい。
例えば、パーティのリーダー役を務める魔物を倒せば、そのパーティに所属する魔物は倒すまでもなく撤退させることができる。
パーティが4つ集まると『レイド』という単位になるのだけれど。このレイドのリーダー役を務める魔物を倒せば、一度により沢山の魔物を撤退に追い込むことができるわけだ。
そして―――言うまでもなく『指揮官』の魔物は、侵攻してくる魔物の軍勢の最上位に位置している。
指揮官の魔物を倒せば、それよりも下位の―――即ち『全て』の魔物が撤退することになるため、その時点で勝利が確定するというわけだ。
とはいえ、そちらの勝利条件を満たすのは容易ではない。
オルヴ侯爵の言う通り、指揮官は魔物の中でも特に強力な者が集められた、精鋭の護衛部隊に守られているからだ。
また指揮官自身は侵攻対象の集落から少し距離を置いた位置に留まるため、討伐するためには防衛側から殲滅部隊を差し向ける必要がある。
なので戦うには『防衛側が有利』という地の利を捨てなければならない。後ろの兵士たちから届く矢の援護なども失うことになるわけだ。
「ファトランド王国兵の数は600、兵のレベルは概ね『25』程度だ。
世辞にも高いとは言えないが―――お嬢さんから霊薬を大量に提供してお陰で、防衛だけなら我々でも充分に務まると考えている」
「なるほど。つまり、我々が打って出れば良いわけですね?」
「危険な役ばかり押し付けるようで申し訳ないが、頼めるだろうか」
申し訳無さそうに告げるオルヴ侯爵に、シズは頷く。
レベル『25』程度ということは、侵攻してくる魔物よりも弱いことになる。
それでも防壁の守りを活かせば、充分に戦うことができるかもしれないけれど。その外側に出てしまえば、すぐに殲滅されることになるだろう。
魔物に倒されてしまっても即座に復活できる『天擁』と違い、『星白』の人達は死亡してしまうと復活に『数ヶ月』単位の時間を必要とする―――そんな話を以前に、ユーリから聞いたことがある。
つまり、クランの仲間たちと王国の兵の人達では、死亡の際に背負うことになるペナルティの重さが全く異なるわけだ。
それを思うと―――兵士の人達に、危険な役回りを担わせるわけにはいかない。
「判りました。では私のクランが積極的に都市の外へ出て、魔物を殲滅するように心がけます。……なるべく後ろから攻撃しないで下さいね?」
「一応善処はするが、多少は許して欲しい」
シズの言葉を受けて、オルヴ侯爵が苦笑気味にそう答えた。
この世界では『味方』を攻撃してもダメージを与えることはない。だから後ろを守る兵士の人達から矢を射掛けられても、被害が生じることは無いのだ。
とはいえ、『後ろから飛んできた何かがぶつかった』という感覚は生じるため、全く気にならないわけではない。ゼロにして欲しいとまでは望まないけれど、なるべく誤射を少なくして欲しいというのも本音だ。
「なるべく遠距離の攻撃手段を持つ魔物から、優先して殲滅して貰えると有難い。いかに防壁があろうとも、直接その内側を攻撃されては守りきれぬからな」
「それは……そうですね。判りました」
オルヴ侯爵の言葉に、シズは頷く。
確かにオルヴ侯爵の言う通り、防壁の内側を矢で射掛けられれば、ソレット村に住む人達へ直接被害が及ぶ可能性がある。
今回のイベントでは、ソレット村の住人を『8割』以上守りきれば勝利となる。
つまり『2割』未満の被害なら、許容可能とも言い換えられるけれど―――。
(村の人達の被害は……なるべく『0』にしてあげたいよね)
兵士の人達なら『死』もある程度覚悟しているだろうし、何ならそれに伴う補償なども出るだろうけれど。ただの村人に『死』の覚悟を求めるというのは、流石に行き過ぎだろう。
ただ平穏な生活を望んでいる筈の村の人達は、なるべく全員を守り切りながら、無事に魔物の脅威を排除してあげたいと。そんな風にシズは思う。
そのためには―――『指揮官を討伐する』ことで、ソレット村が脅威に晒される時間を少しでも短くしてあげることも、候補の1つにすべきかもしれない。
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お読み下さりありがとうございました。




