204. 技倆の証明
[4]
クランスキルの修得に関しては、ユーリに一任することにした。
スキルの修得はクランマスターのシズだけに限らず、サブマスターのユーリでも問題なく行えることが判ったからだ。
ネットゲームに大して詳しくもないシズが、スキルの効果をひとつひとつ確認しながら必死に頭を悩ませるより。きっと最初からユーリに全て任せてしまう方が、適切な選択をしてくれるだろうからね。
というわけで、その間にシズは一旦みんなと別れて単身で行動し、ソレット村に駐留している適当な兵士の人と会話して、王国軍の代表者が居るらしい天幕の場所を教えて貰う。
クランの代表者として、今のうちに挨拶を済ませておくためだ。
こればかりはクランマスターのシズがやるべき仕事なので、他人に代わって貰うわけにもいかない。
教えて貰った方へ向かうと、牧歌的な村の中に沢山の兵士が集まっており、あからさまに警備が厳重な天幕が並ぶ一角があった。
王国軍の代表者―――つまり『指揮官』ともなれば、多分それなりに立場のある人が務める役職だろうから。そういう人を護るためには、この程度は警備を厚くする必要があるのだろう。
(本来なら、緊張すべきところなんだろうなあ……)
心の中で軽く苦笑しながら、シズはそう思う。
これから偉い人に会いに行くというのに、シズの心は平静を保っていた。
既にシズは『ダンディなおじさま』ことオルヴ・フォーラッド侯爵となら何度か会ったことがあるし、何なら先日はこの国―――ファトランド王国の王様や第二王女様とも面会し、一緒にお菓子を味わう機会があった。
そんなシズからすれば、この場の王国軍の指揮官がどんな人物だろうと、もはや緊張を覚えるほどではない。
どんな立場の相手が出てきたとしても、それは王様や第二王女みたいに高すぎる立場を持つ人に較べれば、ずっと話しやすい相手だろうからね。
「そこの少女、止まりなさい!」
厳戒態勢の天幕へ近づくだけですぐに兵士の人達が駆け寄って来たので、シズは自らの立場と天幕訪問の目的を説明する。
ついでに身分証も提示すれば、兵士の態度はすぐに軟化し、話をすぐに通して貰うことができた。
どうやらクランの代表者が軍の代表者に面会を求めるというのは、こちらではそう珍しいことでも無いらしい。
「防衛会議中ではありますが、司令官はお会いになるそうです」
「……会議の最中なら、終わるまで待ちましょうか?」
「いえ。よろしければ是非、会議の場でクランの情報などを教えて頂きたく」
つまり、シズのクランから参戦する人数の情報なども加味した上で、この集落をいかに守るかの話し合いを行いたいのだろう。
会議中の場に乗り込むというのは、些か抵抗感があるけれど。そういうことなら仕方ないだろうか。
「失礼いたします! クランマスターの方をお連れしました!」
案内された天幕の中へ入ると同時に、案内してくれた兵士の人が、中に向かって大きな声でそう宣言する。
大きな机の周囲に集まって会議をしていた大人の面々から、一斉に視線を向けられて。気圧されるあまり、思わずシズは少しだけたじろいでしまう。
けれど―――その中に見知った顔を見つけて。そのお陰でシズは、すぐに平静を取り戻すことができた。
「オルヴのおじさま!」
「おや……。これは、『天使の錬金術師』のお嬢さんではないかね」
何度か聞き慣れた、穏やかながらもよく通るおじさまの声。
シズが今までに一番多く会った『偉い人』本人である、オルヴ侯爵の姿がその中にあった。
相変わらず立派な髭を蓄えているオルヴ侯爵の容貌は、今日も相変わらず『ダンディなおじさま』という表現がよく似合いそうだ。
「防衛戦に加勢してくれるクランのマスターが来たと、そう連絡を受けているが。お嬢さんがそうなのかね?」
「ええ。ご迷惑でなければ、そのつもりです」
「迷惑などということはないが。そうか……流石は『天擁』と言うべきなのだろうな。調合技術だけでなく、戦闘にまで長けているとは」
感心したような口調で、オルヴ侯爵がそう言葉を零す。
立派な大人に認めてもらえるのは、シズにとっても嬉しいことだった。
「オルヴ侯爵、そちらの少女は……?」
同じ場に居た男性が、オルヴ侯爵にそう問いかける。
この場では年若い、シズより1~2歳程度は年上に見える男性だ。
「ああ―――紹介しておこう。こちらは世間で『天使の錬金術師』として知られるお嬢さんでね。今回の防衛戦に携行している霊薬の内、およそ半数はこのお嬢さんが作ってくれたものになる」
「半数、ですか? 今回携行した霊薬は2000個近くある筈です。こんな少女にそれほどの量が作れるとは到底思えませんが」
オルヴ侯爵がシズを紹介してくれた言葉を受けて、男性が露骨に懐疑的な表情を浮かべてみせた。
まあ、これ自体は無理もない反応だろう。まさか個人で2000個の半数、即ち1000個もの霊薬を納品しているなどとは、容易に信じられる筈もないからだ。
とはいえ……。男性の言葉の裡には『女性に対する侮り』のような語調も少なからず含まれているように感じられた。
別にそういう言い方をされても、カチンと来るほどではないけれど。とはいえ、良い気分がしないのもまた事実だ。
不信を隠しもしない人を、言葉で説得するのは難しい。
それよりは―――単純に事実を見せつけるほうが、手っ取り早いか。
「おじさま。机の上を少し空けて貰うことってできますか?」
「ふむ……? おい、地図を除けてスペースを作ってやれ」
「はっ!」
オルヴ侯爵から指示を受けて、騎士らしき格好をした2人の男性がテーブル上に広げられていた地図などを片付けて、速やかに空間を確保してくれる。
なので早速シズはその空いたスペースへ、『インベントリ』や『ストレージ』に入っている霊薬のうち、今回供出して良いと考えていた分を全て放出してみた。
「おお……!」
「……なんと!」
会議の場にいる複数の男性から、感嘆の声が漏れる。
大きなテーブルの上に、突如として山積する程の量の霊薬が出現すれば、そういう反応にもなるだろうか。
「おじさま、今回は前回の倍で2000本お持ちしました」
「ふむ……。軍で使わせて貰って良いのかね?」
「もちろんです、防衛戦に有効活用して下さい。今回お渡しする物には、かなり効能が高い霊薬も多数含まれていますから、きっとお役に立つと思います」
「有難いことだ。これ程の量があれば、今回の防衛も無事成ろうというもの。
―――君、輜重隊の者を何人か呼んできて貰えるか。輜重隊で一旦全て回収し、霊薬の効能を確認した後、各部隊へ適正に分配させておきなさい」
「はッ!」
オルヴ侯爵から指示を受け、先程と同じ2人の騎士らしき男性が、天幕の外へと走って出ていった。
おそらく彼らはオルヴ侯爵の、子飼いの騎士なのだろう。
侯爵という地位を考えれば、そういう部下が何人居てもおかしくはない。
「これは、近いうちに改めてお礼をしなければならないな……」
「では、先日甘いものをご馳走して頂いたお礼ということで」
「む……寡欲なことだ。そんなことで良いのかね?」
「充分過ぎるぐらいですよ。お陰様でこの国の王様と面識を持つことができましたし、ルゼア王女からは『御用錬金術師』にまで指名して頂けましたから」
「それについては私のほうこそ感謝を言わねばな。第二王女からは「大変良い錬金術師を紹介して下さいました」と、直接お褒めの言葉も頂戴している」
シズ達の会話を聞いて、再びその場の男性達から感嘆の声が零れた。
大量の納品物と、『御用錬金術師』に指名された事実。この2つを突きつけられてなお、技倆を疑ってくる人などそうそう居はしないだろう。
-
お読み下さりありがとうございました。




