19. 素材の採取
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再び森都アクラスの北門から都市の外へと出たシズ達は、ピティ達が草を食んでいる草原を通過し、その北にある森の手前へと移動する。
ピティは温厚な性格なので、こちらから危害を加えない限り攻撃してくることは無かったけれど。この森にはピティ以外の魔物も色々と棲息している。
その中には好戦的で、向こうから攻撃を仕掛けて来る魔物も多いそうだ。
「つまり、警戒を緩めちゃ駄目ってことかな?」
「あ、いえ。そんなに気を張る必要はないですね」
ユーリは〈魔物感知〉というスキルを修得しているので、近くに魔物が居る時には、その存在を常に感知することができる。
また、ユーリは『森林種』の種族特性により、森の中ではこの〈魔物感知〉の効果範囲が、本来よりも大幅に拡大されるそうだ。
多数の樹木に視線を遮られる森の中では、目視で魔物を確認するより、ユーリのスキルによる感知のほうが頼れる存在となる。
なのであまり警戒に気を割くよりも、精神的な疲労を避けるために魔物の感知はユーリに任せ、気楽に過ごしていて良いそうだ。
森の中へ歩を進めていくと、草原と同じように草を食んでいるピティがいた。
ユーリの説明によると、ピティは世界のあらゆる『大都市』の近くで出現する、最も代表的な低レベルの魔物らしい。
「森の中にも、ピティはいるんだね」
「大都市からそれほど離れていない場所では、どこでも出るそうですよ」
「―――あっ」
「? どうなさいましたか、シズお姉さま」
「ごめん。感知スキルに反応があったから、つい声が出ちゃった」
休憩前に修得した〈錬金素材感知Ⅰ〉のスキルが、早速仕事をしてくれたみたいで。右斜め前の方向に、何かの素材があることが感覚で理解できた。
スキルで感知した時点で、素材の位置まで正確に判るのがとても便利だ。お陰ですぐに素材を目視でも確認して、採取することができた。
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カムンハーブ/品質[41]
【カテゴリ】:素材(薬草)
【錬金特性】:〔再生Ⅰ〕
【品質劣化】:-0.6/日
裂傷や出血、かぶれや火傷に効く薬草で、擂り潰して患部に用いる。
常温でも数ヶ月は日持ちするので家庭の常備薬として好まれる。
森の至るところに生えており、魔物対策さえできるなら採取は容易。
森の深い場所で採れるものほど品質は高くなる。
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カムンハーブという植物素材で、傷の手当てに用いる薬草らしい。
説明文によると、森の深い場所で採れるものほど品質が高いらしいけれど。残念ながらここは、まだ森に入ってすぐの浅い場所なので、品質はイマイチのようだ。
ところで、この素材は『薬草』だから、シズだけでなく〔薬師〕の生産職を取得しているユーリにも感知できそうな素材に思えるんだけれど―――。
「お恥ずかしながら私は、まだ素材の感知が出来ないのです」
「あ、そうなんだね」
「魔法を3つ覚えると、それだけでスキルポイントを300点も消費してしまいますから。なかなかポイントの遣り繰りが大変で……」
頬に手をあてながら、困ったようにユーリがそうつぶやいた。
『魔術』や『魔法』、あとは戦闘用の『攻撃技』なんかを修得できる職業だと、それを扱えるようになるためにもスキルポイントが必要になる。
なので戦闘面のスキルを優先すると、どうしても採取や生産に関連するスキルが後回しになってしまうんだろう。
その点、シズは『魔術』も『魔法』も『攻撃技』も一切修得できないようなので、スキルポイントの遣り繰りが楽というわけだ。
……逆に言えば、戦闘中の華々しい活躍は期待できない、ということでもあるんだろうけれどね。
「採取した薬草の半分はユーリちゃんに渡すね?」
「それは……助かりますけれど、よろしいのですか?」
「うん。一緒に遊んでる時に集めた分は、半分こしよう?」
ユーリとは頻繁にパーティを組むことになりそうだし、彼女と力を合わせるのは戦闘だけに限る必要もないだろう。
素材の収集でも何でも、可能なところではお互いに助け合いたい。
「ありがとうございます、シズお姉さま。お礼は期待していて下さいね」
「お礼なんていいよ。私がやりたくてやってることだし」
「そうは参りません」
前々から知っていたけれど、ユーリは幼い割に頑ななところがある。
礼をすると言って引かないユーリに、折れたのは結局シズの側だった。
「……ん。じゃあ、楽しみにしてるね」
「はい♡」
何故かとても嬉しそうに、ユーリは微笑む。
あんまり気負わないでくれれば良いのだけれど、とシズは内心で静かに思った。
感知した素材を拾い集めながら、ユーリと共に森の中を進んでいく。
採れる素材は先程と同じカムンハーブが大半だけれど、それ以外にトモロベリーという果実もそれなりの頻度で見つけることができた。
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トモロベリー/品質[62]
【カテゴリ】:素材(果物)
【錬金特性】:〔魅力増強Ⅰ〕
【品質劣化】:-10/日
【飲食効果】:HP+4、MP+13/満腹度+10
薄い橙色をした漿果。
森の様々な場所に育つ、つる性の植物が生らす果実。
甘い口当たりの果物で嗜好品として喜ばれる。
旬は春。それ以外の季節にも採れるが品質はやや落ちる。
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こちらは、そのまま食べられる甘い果物らしい。
MPがわりと回復するみたいなので、今食べるのは勿体ないだろうけれど。
「後で一緒に食べてみようね」
「はい、是非♡」
シズが提案すると、ユーリがにっこりと笑いながらそう答える。
なお、この果物は残念ながら『製薬』の材料にはならないようだ。
ちなみに飲食物は、品質の数値が『1』以上ある内は食べても平気らしい。
逆に言えば品質が『0』以下になった時点で、食用には適さなくなるわけだ。
トモロベリーは品質の劣化がかなり早いので、そのままだと1週間も持たずに、食べられなくなってしまう。
自分達で食べるにしても、あるいはお店などに売却するにしても、早めに処分したほうがよさそうだ。
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お読み下さりありがとうございました。