178. ハシバミの木
それからシズ達は、とりあえず『中央高原』の中を一通り見て回る。
どこかしこにミドフロの花ばかりが溢れている高原の中にも、幾つか特徴となる場所はあって。例えば一番目立つのは、高原の中央にある大きな『泉』だ。
とても澄んだ水を湛えた泉で、このイベン島にある河川は全て、この泉が水源になっているらしい。なのできっと湧水量も凄いのだろう。
島の一番高い場所に水が湧くというのは、少し珍しい気もするけれどね。
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イベル高原泉水/品質[88]
【カテゴリ】:素材(溶媒)
【品質劣化】:-1/日
イベン島のイベル高原にある泉で採取した水。
水質は清浄で、そのまま飲用しても問題無い。
水源地で採取した水なので、これ以上品質は良くならない。
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もちろんシズは手持ちの水桶全てを、その泉の水で埋め尽くした。
このゲームの水は、水源地に近い場所で採ったものほど品質値が高くなるようになっている。なので水源地の泉で採れば、最も品質が高い状態で水を確保できるというわけだ。
この高原では素材の収集回数に制限があるけれど、『採取』に関しては『20個以上の植物素材を採取』した時点でそれ以上の採取が行えなくなる―――と、植物の素材にしか収集制限が課せられていない。
つまり『水』は採り放題なわけだ。なので遠慮なんて全くしない。
高品質な水の確保は、良質な霊薬を作る上でとても重要なことだ。
この泉の水は、今までにシズが獲得したことのある水の中で、最も品質値が高いもののようだから。できれば今回のイベント中に消費する分だけに限らず、もっと沢山の量を確保しておきたい。
なので後でコノエにお願いして、追加の桶を作って貰うのが良さそうだ。
また『中央高原』にはミドフロの花が生えておらず、岩肌が露出しており、鉱石を掘ることが可能な『採掘ポイント』もあった。
採掘ポイントはこの1箇所だけだったので、選択の余地はない。【鉱石採掘】のスキルは習得済なので、もちろんシズも早速1度採掘を行ってみた。
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▽【鉱石採掘】を行いました。以下のアイテムを獲得しました。
:ナック鉱石×11、迅砂×60、マルガン鉱石×8
サファイア×1、アズライト×1、ブラッドストーン×1
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獲得できたのは今までに見たことのない鉱石や、宝石などだった。
宝石と言っても原石だろうから、そこまで高い価値があるわけでは無いのだろうけれど。採掘で宝石が簡単に手に入るというのは、ちょっと凄いと思う。
(これは回数制限があって当然だよねえ……)
イベント専用マップとはいえ、ここは『迷宮地』と違って地上だ。
深い場所まで潜る必要さえ無く、貴重な鉱石や宝石が手に入るとなれば。そりゃ1日の採掘回数の制限ぐらいは、あって然るべきだろう。
迅砂は鉱石と同じく『鍛冶』の素材らしいのでイズミに、宝石は『魔導具』の生産にも『付与』にも使われる素材なのでエリカに、そのまま全て譲渡する。
いずれの素材からも、なかなか貴重な『錬金特性』が抽出できるようだから。少しだけ自分で使いたいという気持ちも湧くけれど―――。
とはいえ、シズよりも有効活用できる子がいるのなら、やはりそちらが扱うべき素材だろう。
また『中央高原』には、泉のすぐ側に40~50本ほどが纏まって生えている、小さな樹林のようなものがあった。
『中央高原』の中で樹木が生えているのはここ以外に無いようなので、【伐採】のスキルはこの木に対して使えということだろう。
樹木の高さは大体3メートル程度と、あまり大きくはない。
というか、この木はどこかで見た覚えがあるような―――。
「これは、セイヨウハシバミだね」
「―――ああ。ヘーゼルナッツの?」
「おや、流石は旦那様だ。よくご存知だね」
エリカの言葉を聞いて、ようやくシズも思い出す。
祖父が実家で生け垣にしていた木だ。夏になるとヘーゼルナッツの実を付けて、それを大体秋から冬に掛けて収穫することができる。
ヘーゼルナッツは軽く炒るだけで、コーヒーにとても合うおつまみになる。
雫も祖父も、共にコーヒーを普段から愛飲していたから。その味によく合うこのナッツがとても好きだった。
「ナッツを取るには、時期がまだ早いと思うんだけど……」
『プレアリス・オンライン』のゲーム内の季節は、現実世界の季節と完全に連動している。だから夏の今はまだ、収穫するような季節ではない。
だというのに―――目の前にあるセイヨウハシバミの木には、充分に育ち、殻に軽く割れ目が入った実が生っているのを、幾つも確認することができた。
『殻に割れ目』が入っているのは、収穫時期を迎えている証拠だ。
イベント用のマップだから、この場所は季節感が少し異なるのだろうか。
とりあえず何も考えずに【伐採】のスキルを行使してみると。ハシバミの木材と一緒に、大量のヘーゼルナッツを獲得することができた。
とりあえず木材は全て〔木工職人〕のコノエに譲渡する。
ハシバミの木は魔法や魔術の威力を引き上げる『杖』の材料として、かなり有用な素材になるらしく。市場で買うと結構高価な素材らしい。
ヘーゼルナッツに関してはコノエと相談した結果、自分で獲得した分はそのまま貰うことにした。
今はもう〈調理〉スキルも習得済だし、使い途がありそうだからね。
『中央高原』の中を一通り周った後は、花畑の上で軽食を摂ることにした。
どうやらこのエリアには魔物が出ないようだから、休息を取るのに良いと思ったからだ。
食後にはユーリが意欲的に膝枕を申し出てきてくれたから。彼女の膝を借りて、30分ぐらいだけ何もせずに、ぼんやりと空を見上げながら過ごした。
周囲からはミドフロの花の優しい香りがする。この高原は、ゆっくりと流れる時間を楽しむ分には、とても良い場所だ。
「風が気持ち良いですけれど、周りの景色が見えないのが少し残念ですね」
「それは、本当にそうだよねえ……」
『中央高原』はこのイベン島の中で、最も標高が高い場所に当たる。
なので本来なら360度の全周に、見事な眺望が利いていてもおかしくないのだけれど。残念ながら『中央高原』の周囲には、背の高い樹木ばかりが生えた『試練の森』があるため、景色が覆い隠されていて何も見えはしない。
なのでユーリの言う通り、ちょっぴり残念なのは事実だった。
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