17. 再度のレベルアップ
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「おー」
調子良いテンポを維持したまま、20体ぐらいのピティを倒した時だろうか。
シズとユーリ、2人の身体が同時に一瞬まばゆく光って輝き、ファンファーレのような効果音が大きく鳴り響く。
既に2度経験している、レベルアップ時の演出だ。
《おめでとう!》
《おめ~》
「ありがとー」
妖精が読み上げる祝福のコメントに答えながらも、シズは矢継ぎ早に迫ってくるピティを1体ずつ順に切り裂いていく。
レベルが上がったのだから、とりあえず成長力を割り振ったり、得られたスキルポイントを使って何か新しいスキルを修得したいところなんだけれど。
まずはシズ達がいる側へと、いま駆け寄ってきているピティ達の対処をしないことには、その暇もなかった。
それから―――更に追加で5体ぐらいのピティを倒してから、ようやくシズ達は一息つくことができた。
「おつかれさまでした、シズお姉さま」
「ユーリちゃんもお疲れさま。ちょっと休憩してもいい?」
「はい、もちろんです」
ユーリと一緒に草原の中で座り込んで、シズはログウィンドウを確認する。
かなりの数のピティを乱獲したというのに。相変わらず周囲にいる他のピティ達は、シズたちの存在を気にも留めていないようだ。
そのお陰で草原に座り込んで休憩していても、何の危険もないわけだけれど。ここまで全く警戒されないというのも、それはそれで少し変な感じがした。
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◇デイリークエスト〔戦闘〕『自由討伐』を達成しました!
報酬:戦闘経験値100、スキルポイント50
ランダム報酬:麻痺矢×50
★〔操具師〕のレベルが『2』にアップしました!
任意の能力値の『成長力』を1ポイント増加できます。
レベルアップボーナスとして〔スキルポイント:100〕を獲得。
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どうやらピティを20体倒した時点でデイリークエストが達成されて、その報酬経験値によってレベルが成長したらしい。
クエスト報酬では経験値とスキルポイント以外に、『ランダム報酬』という形で『麻痺矢』というアイテムが50本貰えていた。
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麻痺矢/品質[50]
物理攻撃力:3
鏃に『麻痺毒(Lv.1)』を塗り込んだ矢。
この矢に傷つけられた敵は確率で『麻痺』の状態異常に陥る。
射手の[加護]が高いほど状態異常の付与確率は高くなる。
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攻撃力は普通の矢と同じだけれど、確率で敵に『麻痺』の状態異常を与えることができるらしい。
[加護]はシズの能力値の中で最も高いし、もしかしたらわりと使い勝手が良い矢かもしれない。
レベルアップ報酬とクエスト報酬が入ったお陰なのか、確認してみるとスキルポイントがいつの間にか『215』まで増えていた。
なのでシズは視界内にスキルウィンドウを表示させて、当初の予定通り〈☆錬金素材感知〉のスキルを新たに修得。
更に余った分のスキルポイントで〈○植物採取〉のスキルも修得した。
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〈☆錬金素材感知〉
『10m』以内にある錬金特性を有する素材を感知できる。
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〈○植物採取〉
植物素材を触れるだけで採取できるようになる。
採取した素材の品質値が『3』増加する。
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既にログウィンドウでも何度も表示されている通り、『錬金特性』は魔物を討伐すると吸収して獲得できるわけだけれど。
この『錬金特性』は、実は魔物からだけでなく、様々な素材からも吸収することが可能になっている。
〈☆錬金素材感知〉のスキルは、吸収可能な『錬金特性』を有する素材が近くにある時に、その位置を教えてくれるというものだ。
【素材】カテゴリに分類されるアイテムなら、大抵は何かしらの『錬金特性』を有しているそうなので、これは『近くに【素材】があれば教えてくれるスキル』とほぼ同じ意味らしい。
残念ながらスキルを修得しても、現時点では特に何も感知できないようだ。
これは単純に、今のシズから半径10mの範囲には、有用な【素材】が何も存在しないということだろう。
現在地の草原ではあまり役に立たないみたいだけれど。素材の宝庫である森の中へと踏み入れば、きっとスキルの真価が見られる筈だ。
特に植物系の素材なら感知する傍から、併せて修得した〈○植物採取〉スキルの効果で、簡単に拾い集めることもできて便利そうだ。
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シズ
白耀族の聖翼種/能力倍率合計【115%】
〔操具師〕- Lv.2 【60%】
〔錬金術師〕- Lv.1 【55%】
HP: 21 / 21
MP: 35 / 35
[筋力] 5 (5)
[強靱] 8 (7)
[敏捷] 28 (25)
[知恵] 29 (26)
[魅力] 6 (6)
[加護] 32 (28)
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◆異能
《操具術》《特性吸収》《落下制御》《呪詛無効》《天使の輪》
◇スキル - 15 pts.
〈☆効能伝播Ⅰ〉〈○服薬術Ⅰ〉〈○食養術Ⅰ〉、
〈☆錬金素材感知Ⅰ〉〈○植物採取Ⅰ〉
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〔操具師〕のレベルが上がり、ステータスも成長。
[強靱]が1ポイント成長したお陰で、最大HPが『2』増えているのが地味に嬉しい。
ちなみに成長力は今回も[敏捷]へ割り振った。
「ん、こっちは終わったよ」
「私も大丈夫です」
視界に表示させていたステータスやスキルのウィンドウを閉じてからシズが告げると、ユーリはすぐにそう答えてみせた。
ゲーム初心者のシズとは違い、ユーリはオンラインRPGなどをよく遊んでいる熟練者なので、スキルの修得や成長力の割り振りにも慣れているのだろう。
「あ、そうだ。ユーリちゃん、お菓子食べない?」
「お菓子、ですか?」
「うん。ユーリちゃんが薬師ギルドから戻るのを待ってた時に、色々買っちゃったんだよね」
そう告げて、シズは『インベントリ』の中から幾つかの焼き菓子を取り出す。
バターサブレと蜂蜜のラスク、スナックプレッツェルにマドレーヌ。
4種類の菓子をシズが両手いっぱいに取り出すと、ユーリはくすりと嬉しそうに微笑んだ。
「とても魅力的ですが、食べるのは少し後に致しませんか?」
「そう?」
「このゲームの食べ物や飲み物は、『MP』を回復するためのアイテムですから。全くMPを消費してない状態で頂くのは、ちょっと勿体ない気がしまして……」
そういえばキャラクターを作成する際に、ユトラがそんな説明をしてくれたのを覚えている。
シズはただ『ゲームの中でなら体重を気にしないで食べられる』ことだけを考えながら、幾つもの焼き菓子を購入したわけだけれど。このゲームでの『飲食』は、基本的に『MPを回復する』目的で行うものだ。
そもそもプレイヤーはゲームにログインしている最中には、お腹が減ったり喉が渇くようなことも無いのだ。
空腹や喉の渇きを感じるのは、ゲームを中断して現実の身体に意識が戻ったあとの話になる。
ユーリの戦闘職は〔精霊使い〕なので、精霊魔法が使えるわけだけれど。先程までやっていたピティ狩りでは、彼女は矢を射るだけで魔法を一切使っていない。
MPを全く消費していないわけなので、いま食べるのがちょっともったいないと告げるユーリの気持ちは、理解できるものだった。
「じゃあ、お菓子タイムはもうちょっと後にだね。この後はどうする?」
「すみません、流石にそろそろお昼を食べておかないといけませんので、一度ログアウトさせて頂こうと思います」
「ん、了解」
視界の隅に表示させている時計は『12時41分』になっている。
朝の10時からゲームがスタートしたから、既に3時間弱は遊んだわけだ。楽しくゲームを遊んでいると、時間が経つのが随分と早く感じられてしまう。
(……ま、一番時間が掛かったのは、ギルドでの講習だろうけど)
錬金術師ギルドでの講習では、実に1時間半もの時間が掛かっている。
ユーリはそれより更に長く、2時間近くは掛かっていた。
これはギルド職員の人が、随分と懇切丁寧に色々なことを教えてくれたからだ。
おそらく、もっと沢山のプレイヤーが初期地点に選択した『大都市』だったなら、講習内容も簡略化されて、短時間の拘束で済んだんだと思う。
とはいえ拘束時間が長かった分だけ、講習は学びが多いものだった。
結果的に自分のためになったことを思うと、良い経験だと言えるだろう。
「ログアウトの時は、一旦街に戻った方が良いんだっけ?」
「そうですね。魔物が居ない安全な場所のほうが良いそうです」
「了解。じゃあ、帰ろう?」
「はい♡」
シズが手を差し出すと、ユーリが嬉しそうな声で応えて、それを握り締めた。
《てぇてぇ……》
手を繋ぎながら、一緒に森都アクラスの都市内へと戻り、ログアウトする。
長時間ログアウトする場合には、ちゃんと『宿屋』に部屋を借りて、そこでログアウトしたほうが良いらしいのだけれど。今回は昼食が終わったらまた戻ってくる予定なので、北門から入ってすぐの場所で済ませた。
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お読み下さりありがとうございました。