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15. 温厚な魔物(稀に凶暴化)

 


     [5]



「お待たせして申し訳ありません、シズお姉さま」

「ううん、街中をぶらぶらするだけでも楽しかったし、気にしないで。薬師ギルドでの講習は大変だった?」

「そうですね、少しだけ大変でした……。と申しましても、製薬自体が難しいというわけではなく、ギルド職員の方の世話焼きっぷりが半端ではなくて……」


 天擁(プレイア)神殿の前でユーリと合流したシズは、森都アクラスの北門を目指して歩きながら、互いに生産職のギルドで体験したことなどについて会話を交わす。

 もちろん道中では再び手を繋ぐことも忘れない。ユーリの体温はシズよりも少し高くて、彼女の手のひらからじんわりと熱が伝わってくる感覚があった。


「やっぱりゲームのスタート地点に、ファトランド王国を選んだプレイヤーは少ないみたいだね」

「そうなのでしょうね。私も薬師ギルドの中では、他に1人しかプレイヤーの方を見かけませんでしたから」

「錬金術師ギルドに至ってはプレイヤーは私だけだったなあ……。でもそのお陰で私もギルド職員の人から丁寧な指導を受けられたから、良かったかも」

「『帝国』や『聖国』と名前に付いた国のように、人気が高そうな国を選んだプレイヤーの皆様は、生産講習の順番待ちが大変かもしれませんね」

「……ありそう……」


 ゲームの開始前に見た掲示板の様子から察するに、サービス開始初日の今朝から遊んでいるプレイヤーの数自体は、それなりに多い筈だ。

 人気が高そうな『大都市』へは、おそらくプレイヤーが数千人単位で押しかけているだろうから。生産職のギルドが混雑することも普通に有り得そうだ。


 無用な面倒を上手く回避できただけでも、プレイヤーが少ない『大都市』を選んで正解だったかもしれない。

 都市全体の落ち着いた雰囲気もわりと気に入っているし、当分はこの国を拠点に活動したいと思っている。


「この後は、都市の北門を出た先にいるピティっていう魔物を狩るんだよね?」

「はい。このゲームでは『自身と同じレベル』の魔物を狩るのが、一番良いみたいですから。最初は『レベル1』のピティを中心に狩りましょう」


 『プレアリス・オンライン』では、プレイヤーが自分と同等以上のレベルを持つ魔物を倒すと、その度にスキルポイントが『1点』手に入る仕組みになっている。

 自分より高いレベルの魔物を倒すと、そのぶん経験値は沢山貰えるんだけれど。一方で貰えるスキルポイントの量は『1点』のまま変わらない。

 だから経験値とスキルポイントをバランス良く貯めたいなら、自身と同格ぐらいの魔物を中心に狩るのがベストというわけだ。


 ちなみに、プレイヤーより魔物のレベルのほうが低い場合は、スキルポイントが手に入るかどうかは確率になるらしい。

 もちろん魔物とのレベル差が小さいほど、高い確率でスキルポイントを『1点』手に入れることができ、逆にレベル差が大きいと殆ど手に入らなくなる。

 なのでまあ、プレイヤーが魔物よりちょっとレベルが高いぐらいなら、それほど問題はないようだ。


「あ、シズお姉さま。見えて参りました」

「そうだね。あれが北門かあ」


 目抜き通りを15分ほど北に向かって歩くと、やがて都市の北門が見えてきた。

 森都アクラスは海に面している東側を除き、都市外周は全て3メートルぐらいの高さがある防壁で囲われている。

 だから陸路で都市の外に出たい場合には、北・西・南の三方向にあるいずれかの門を通過する必要があるわけだ。


 北門前には5台ぐらいの馬車が列を作っていた。

 列があるなら並ぶべきかな―――と。そう考えたシズ達が馬車列の最後尾に続けて並んでいると、それを見た門の脇に立っていた衛兵が近寄って来た。


「こんにちは、小さなお嬢さんたち。そこは馬車の積荷を(あらた)める列だから、徒歩で通過する人は並ばなくて構わないよ?」

「そうなんですね……。すみません、知りませんでした」

「知らないと言うことは、もしかして君達は『天擁(プレイア)』かな?」

「あ、はい。そうです」

「女神様に導かれて来訪した異邦人では、知らないのも無理はないよね。徒歩で通行する人達は、門の脇に設けられた小さな勝手口側を利用するんだ。案内するからついてきて貰えるかな」


 言われるまま衛兵の後についていき、シズとユーリは北門の脇へと向かう。

 そこには徒歩の人だけが通れるサイズの、小さな門が設けられていた。

 衛兵の話によると、北門は夜の10時頃に閉めてしまうらしいけれど、この徒歩専用の勝手門だけは24時間開放されているそうだ。


「通行には身分証の提示が必要なんだけれど、何か持っているかな?」

「……どんなのが身分証になりますか?」

「一番よく使われるのはギルドカードだね。掃討者ギルドや商人ギルド、もちろん生産ギルドのカードでも大丈夫だよ」

「あ、それなら持ってます」


 シズは『錬金術師ギルド』で職人として登録した際に、ギルド職員の人からギルドカードを受領している。

 それはユーリも同じなんだろう。『インベントリ』から取り出したギルドカードを2人揃って提示すると、衛兵の人は満足げに頷いてみせた。


「うん、身分証はそれで問題なし。但し判っているとは思うけれど、都市の外には危険な魔物が出るんだ。戦う用意がない人は、衛兵として通行を許可するわけにはいかない。武具の準備は出来ているかな?」

「できてます」

「大丈夫です」

「うん、それならいいんだ。―――問題なし! 通ってよし!」


 衛兵の人が急に声を張り上げたので、思わずシズはびくりとしてしまう。

 声を張り上げたのは『ちゃんと身分証を確認したぞ』と、近くに居る衛兵の人達に周知するためだろう。

 ありがとうございました、と簡単に礼だけ告げて、シズ達は門を通過した。


「先に生産職のギルドへ行っておいてよかったですね」

「ホントだねえ」


 ユーリの言葉を受けて、シズは笑いながら頷く。

 衛兵とのやり取りから察するに、門の通行には身分証と魔物と戦うための武具、その両方が必要なんだろう。

 つまり事前にチュートリアルクエストを両方とも済ませて、ギルドカードと武具の両方を予め手に入れておかなければ、門を通ることは出来ないわけだ。


「おおー、凄いね。綺麗な草原だ」

「その辺に転がったら、とても気持ちよさそうですね」


 北門から出てすぐの場所にあるのは、それなりの広さの草原だった。

 残念ながら『見渡す限りの草原』と言えるほどまでは広くない。都市の外壁から1kmも離れると、もう森しか存在しないからだ。

 開けた草原になっているのは、あくまで都市のすぐ近くだけらしい。


 その草原の中で、ウサギを二周(ふたまわ)りぐらいでっかくした不思議な生物が、草を()みながらのんびりと生きていた。

 数は―――見えている範囲だけでも、100体以上は居るだろうか。群れを作る生物ではないらしく、草原の中にまばらに点在しているという感じだ。


「もしかして、これが『ピティ』?」

「そうみたいですね。レベル1の魔物です」

「……これ、狩る必要あるのかな?」


 どう見ても、人に対して危害を加えるような魔物には見えないのだが。

 シズがそう思っていると、ユーリが苦笑しながら説明してくれた。


「ピティは普段は温厚なのですが、雨が降っている時にだけは好戦的になり、人を積極的に襲うようになるそうですよ。

 ―――ですから間違いなく有害な魔物です。なんでも、晴れている間に数を減らしておかないと、雨が降ると同時に一斉に門を護る衛兵さんへ襲い掛かるとか」

「うわあ……」


 レベルが低い魔物とはいえ、100体以上が一斉に襲い掛かって来たなら、衛兵の人達だって対処に苦労するだろう。

 なかなか可愛げがある見た目の魔物だけれど。―――そういうことなら、駆除をするのに抵抗感を覚える必要もないかな。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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