13. スキル修得計画
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それからシズ達は、武具店で矢を追加で購入してから店を出た。
矢はバラ売りだと1本で1gita、矢筒入りだと30本で50gita。
『インベントリ』は『同種のアイテムは100個まで1枠の中に入れられる』という仕様なので、沢山の矢を携行したい場合には矢筒で買う方が『3000本』を1枠の中に入れられて良いらしい。
シズ達はまだそれほど沢山の矢は要らないので、今回はバラ売りの矢をユーリと200本ずつ購入した。
『インベントリ』に収納されているアイテムは、頭の中で念じるだけですぐ手に取り出すことができるから、このほうが弓に番える際に楽そうだしね。
「おっ」
「わ」
武具店を出た瞬間に、シズとユーリの2人は揃って声を上げる。
2人の身体が一瞬まばゆく光って輝き、更にはファンファーレのような効果音が大きく鳴り響いたからだ。
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◇チュートリアルクエスト『武器と防具を手に入れる』を達成しました!
報酬:戦闘職がレベルアップ、自動充填ポーション×10
★〔操具師〕のレベルが『1』にアップしました!
任意の能力値の『成長力』を1ポイント増加できます。
レベルアップボーナスとして〔スキルポイント:100〕を獲得。
以降は魔物討伐で経験値を貯めると〔操具師〕のレベルを上げられます。
○実績『初めてのレベルアップ』を獲得しました!
報酬として〔スキルポイント:20〕を獲得しました。
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何とも判りやすいレベルアップの演出だなあ、とシズは思う。
けれど―――かなり大量の光が溢れて、大きな効果音も流れたのに。付近にいる街の人達は、誰もシズ達のことを気にしていないようだ。
つまり、いま体感したの光の演出や効果音は、レベルアップした本人やパーティメンバーにだけ、見えたり聞こえたりするものなんだろう。
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シズ
白耀族の聖翼種/能力倍率合計【105%】
〔操具師〕- Lv.1 【55%】
〔錬金術師〕- Lv.0 【50%】
HP: 19 / 19
MP: 33 / 33
[筋力] 5 (5)
[強靱] 7 (7)
[敏捷] 23 (22)
[知恵] 27 (26)
[魅力] 6 (6)
[加護] 29 (28)
△成長力をあと『1』ポイント増加できます!
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◆異能
《操具術》《特性吸収》《落下制御》《呪詛無効》《天使の輪》
◇スキル - 180 pts.
(なし)
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視界内にステータス画面を表示させてみると、〔操具師〕のレベルが上がり能力値倍率が少し増えたことで、元々高い能力値3種が1ポイントずつ増えていた。
けれど、元々低い能力値は据え置きのままだ。
また折角レベルが成長したのに、HPが全く増えていないことも悲しい。
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シズ
白耀族の聖翼種/能力倍率合計【105%】
〔操具師〕- Lv.1 【55%】
〔錬金術師〕- Lv.0 【50%】
HP: 19 / 19
MP: 33 / 33
[筋力] 5 (5)
[強靱] 7 (7)
[敏捷] 24 (23)
[知恵] 27 (26)
[魅力] 6 (6)
[加護] 29 (28)
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◆異能
《操具術》《特性吸収》《落下制御》《呪詛無効》《天使の輪》
◇スキル - 180 pts.
(なし)
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レベルアップにより好きな能力値の『成長力』を1ポイント増加できるようなので、今回はシズにとって重要な[敏捷]・[知恵]・[加護]の3種類の能力値のうち、最も低い[敏捷]の成長力を『22』から『23』へ増やしてみた。
これにより現在の[敏捷]能力値も『23』から『24』へと増加する。
「レベルアップすると、スキルポイントも貰えるのですね」
「そうみたいだね」
一気に100ポイントも貰えるというのは、結構大きい。
『プレアリス・オンライン』では、自身が得意とする分野のスキルなら100ポイントあれば新規に修得したり、あるいはスキルランクを伸ばすことが可能だ。
逆にあまり得意ではない分野のスキルを修得するには、倍の200ポイントが必要になるけれど。おそらく最初は、得意分野のスキルを優先して修得したり伸ばすことになるだろうから『100ポイント=スキル1個分』と考えても差し支えないだろう。
「じゃあ、やっぱり最後のチュートリアルも、都市の外に出る前に片付けておいたほうが良さそうだね」
「そうですね。シズお姉さまの仰る通りだと思います」
あと残っているチュートリアルクエストは『錬金術師ギルドを訪問する』というもの。このクエストの報酬には『生産職のレベルアップ』が含まれている。
生産職のレベルアップでも、園城に100のスキルポイントが貰える可能性が高そうだから。先にそちらも片付けて、スキルを2個修得した状態で街の外に出て、魔物との戦いに臨む方が賢明だろう。
「それでは名残惜しいですがシズお姉さま、ここで一旦お別れですね」
ユーリのクエストは『薬師ギルドを訪問する』だから、錬金術師ギルドへ向かうシズとは行き先が異なる。
というわけで、ここからユーリとは別行動だ。
「名残惜しいって……。離れてても会話は出来るんでしょ?」
「ふふ、それはそうなのですが」
シズの言葉を受けて、ユーリは柔らかく微笑む。
予めパーティを組んでおけば、距離に関係無くパーティに所属する全員で会話を行うことが可能になる。なので離れてもユーリとはいつでも話せるわけだ。
ユーリと手を繋ぎながら歩けないことだけは、ちょっと残念だけどね。
武具店前でユーリと別れて、シズは『マップ』に案内されながら街中を歩く。
1人でもやることは沢山ある。まず優先すべきは―――スキルポイントの使い途について、色々と考えておくことだろうか。
スキルポイントは魔物を討伐していれば自然と貯まるものだけれど、基本的には自分と同格以上の魔物を倒して『1点』ずつ獲得という感じなので、一気に貯まるようなものではない。
なので使い途について計画を定めておくことは、とても大切だ。
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◇現在新しく修得可能なスキル◇
〈☆操具収納〉、〈☆武器強化術〉、〈☆防具強化術〉、〈☆装具強化術〉
〈☆効能伝播〉、〈○服薬術〉、〈○食養術〉、〈○投擲術〉、〈○用毒術〉
〈☆錬金素材感知〉、〈○初級霊薬調合〉、〈○生産品収納〉
〈○素材収納〉、〈○植物採取〉、【○鉱石採掘】、【○伐採】
〈☆聖翼種の浮遊能力〉、〈☆聖翼種の天啓〉、〈☆聖翼種の大いなる恩寵〉
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現時点でシズが修得可能なスキルの一覧を表示させてみると、全部で19種類もあって思わず困惑してしまう。
候補が……候補が多いよ……。シズのようなゲーム初心者には、この中から自身が優先するスキルを決めるだけでも、正直かなり大変そうだ。
ちなみに『☆』のマークが付いているスキルは『専門スキル』と言って、特定の職業や種族・部族を選択していなければ絶対に修得できないスキルだ。
つまり、シズが修得可能な〈☆操具収納〉や〈☆武器強化術〉は、〔操具師〕の戦闘職を修得していることが必要条件となり、他の戦闘職を選んだ人は修得できないスキルというわけだ。
同様に〈☆錬金素材感知〉は〔錬金術師〕の生産職が、〈☆聖翼種の浮遊能力〉は『聖翼種』の種族の選択が不可欠となる。
一方で『○』のマークが付いているスキルは『得意スキル』と言って、こちらは自身が選択した職業や種族・部族の影響で、効果が向上しているスキルだ。
また『専門スキル』と『得意スキル』は、どちらも『100ポイント』でスキルを新規修得したり、スキルランクを成長させることが可能となっている。
今はまだシズのスキル欄には無いけれど、何のマークも付いていないスキルがあれば、それは『一般スキル』になる。
これは自身が選択している職業や種族・部族によって、全くボーナスが得られないスキルのことで、修得やスキルランクの成長には『200ポイント』が必要だ。
倍のスキルポイントが必要というだけでも負担が大きいので、基本的には優先度が低いものになるだろう。
なお『一般スキル』を修得するには、切っ掛けの獲得も必要となる。
例えば〈剣術〉のスキルを修得する為には、仲間が剣を使って戦っている様子を近くで見ていたり、あるいは剣の使い方を誰かに教わる必要があるわけだ。
シズの場合はユーリと肩を並べて戦うことが多いだろうから、そのうち彼女から〈弓術〉スキルを修得する切っ掛けが得られるかもしれない。
但し、切っ掛けを得る為には相手がそのスキルを修得している必要があるので、ユーリが〈弓術〉のスキルを修得すれば、の話だけれど。
(これからどのスキルを取っていこうかな?)
一覧に表示されているスキルの詳細な情報を順に視界に表示させながら、シズは大いに思い悩む。
ゲーム初心者のシズに、無駄がないスキルの修得が出来るとも思えないけれど。それはそれとして、できれば意味のない遠回りはしたくない。
(そういえば……ラギさんがお勧めしていたスキルがあったっけ)
―――ふと、シズはそのことを思い出す。
シズとユーリは昨晩、行き付けのVRチャットルーム『リリシア・サロン』で、ラギからゲームの進め方に関して幾つかのアドバイスを貰っていた。
例えばシズとユーリがゲーム開始時の初期位置をファトランドに決めたことや、後で街の外で『ピティ』や『水蛇』といった魔物を狩ろうと考えているのは、全てラギのアドバイスを受けてのものだ。
機器だけでなくゲームの開発にも大いに関与しているラギのアドバイスは、言うまでもなく全面的に信頼できる。ちょっとしたズルにさえ近いかもしれない。
(確か―――〈☆効能伝播〉と〈○服薬術〉や〈○食養術〉のしなじー? が戦闘ではとても強力だと言ってたっけ。あと〈☆錬金素材感知〉は早めに修得した方が良い、とも言ってた気がする)
他にも幾つかのスキルについてアドバイスを貰った気がするのだけれど、あまりしっかりとは覚えていない。
その辺はまた次に『リリシア・サロン』で会った際に、ラギから聞き出せば良いだろうか。
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〈☆効能伝播〉
【霊薬】・【薬品】・【食料】・【飲料】のアイテムの効果を
付近のパーティメンバーにも『10%』だけ分け与える。
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〈○服薬術〉
【霊薬】と【薬品】カテゴリのアイテムを服用した際に
最終的に発揮される効果量を『5』増加する。
また再服用までの冷却時間を『10秒』短縮する。
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〈○食養術〉
【食料】や【飲料】カテゴリのアイテムを摂取した際に
最終的に発揮される効果量を『5』増加する。
また摂取時の満腹度増加を『1』軽減する。
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〈☆錬金素材感知〉
『10m』以内にある錬金特性を有する素材を感知できる。
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〈☆錬金素材感知〉に関しては、一応このスキルが無くても目視で素材を探して採取することは可能らしいけれど。かなり大変なので、スキルを修得して楽をするほうが絶対に良い―――とラギは語っていた。
そこまで言うからには、取得優先度が高いのは間違い無いだろう。
但し、スキルポイントは魔物を討伐すれば稼げるものなので、優先度的には戦闘に役立つスキルのほうが高いかもしれない。
となれば〈☆効能伝播〉と〈○服薬術〉、〈○食養術〉の3つから先に修得するべきだろうか。
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★〈☆効能伝播Ⅰ〉スキルを修得しました!
残りのスキルポイントは『80』です。
○実績『初めてのスキル修得』を獲得しました!
報酬として〔スキルポイント:20〕を獲得しました。
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「おっ」
迷った末に〈☆効能伝播〉のスキルを新しく修得すると、実績を獲得したお陰で消費したスキルポイントがちょっとだけ返ってきた。
20ポイント加算されてちょうど『100ポイント』になったので、もう1つスキルを修得できそうだ。
というわけで〈○服薬術〉のスキルも修得しておいた。
あとは生産職のレベルアップ時に『100ポイント』が貰えたなら、それを使って〈○食養術〉を修得すれば、ラギの言う『しなじー』になるんだろう。
《シズっち……そろそろ音だけでは寂しいでやんす……》
《少女に目隠しプレイを強要されるとか、正直興奮するやん?》
《わかる》
《わかるマン》
「―――あっ」
スキルを振り終わって安堵していたシズは、その時読み上げられたコメントで、妖精にサングラスを掛けたままだということに今更ながら気付いて。
随分と慌てる羽目になったんだけれど―――それは、ユーリには内緒にしたい。
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お読み下さりありがとうございました。