119. 手のひらサイズの子竜
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▲あなたが魔力を与えた『竜の卵』が孵ろうとしています。
安全な場所で『インベントリ』から卵を取りだして下さい。
▲初めて卵を孵す際にはスキルポイントが『200』必要です。
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『プレアリス・オンライン』にログインすると、前回見たのと同じメッセージが再びログウィンドウに表示された。
どうやら卵を孵すまでは、ログインする度に催促メッセージが出るようだ。
昨日大量にスキルの修得やランク成長を行ったとはいえ、『200』程度ならばスキルポイントは何とでもなるので、早めに孵化させてしまおうと思う。
というわけで、すぐ目の前にある『錬金術師ギルド』の1階で手続きを行って、いつも通り『工房』の個室を借り受ける。
3階の『工房』に入ったあと、個室内の作業机に普段から携行しているタオルを何度か折り畳んで敷き、その上に『インベントリ』から取り出した竜の卵を、衝撃を与えてしまわないよう慎重に置いた。
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★新たに〈精霊扶養〉のスキルが修得可能になりました。
このスキルの修得後に魔力を提供すると『竜の卵』が孵ります。
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「そういうことかあ……」
どうして卵を孵すのにスキルポイントが必要なのだろうと、内心で疑問に思っていたのだけれど。どうやらこのスキルを修得するためらしい。
おそらくは『精霊』である竜の育成には、必須のスキルなのだろう。
もちろんシズは迷うことなく〈精霊扶養〉のスキルを修得する。
専門でも得意でも無いスキルなので、スキルポイントは『200』消費した。
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〈精霊扶養Ⅰ〉
精霊があなたの魔力を自由に奪い、お腹を満たせるようになる。
精霊に対して『念話』で語りかけることが可能になる。
精霊が振るうことのできる力が『10%』増加する。
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この〈精霊扶養〉のスキルがあると、今までのようにシズの側から魔力を与えずとも、精霊側の意志でシズから魔力を吸うことができるようになるらしい。
魔力の提供をし忘れて精霊が飢えることがなくなるので、これは有難い効果だ。
また、精霊に対して『念話』で語りかけることが可能になるらしい。
以前にディアスカーラから聞いた話によると、精霊は『言葉を話す』能力を身に付けると、自然と『念話』も行えるようになるらしいから。
もし孵化した竜が、言葉を話せるまで成長すれば、双方向で『念話』による会話を行うことも可能になりそうだ。
(……とりあえず、重要なスキルみたいだし『得意化』しようかな)
〈精霊扶養〉スキルの説明文を読みながら、シズはそう考える。
ちなみに『得意化』というのは、字面の通り『一般スキル』を『得意スキル』に変更することだ。
スキルの『得意化』は戦闘職・生産職・特殊職のレベルが『10』上がる毎に、任意のスキルに対して『1回』だけ行うことができる。
現在シズは〔操具師〕のレベルが『19』、〔錬金術師〕のレベルが『18』に達しているから、スキルの『得意化』は2回まで行うことができる。
もちろん両者のレベルが『20』へと成長すれば、更にもう2回行えるわけだ。
『一般スキル』はスキルの修得やランクアップに『200』のスキルポイントを消費してしまうが、『得意スキル』にしてしまえばこの消費を半分の『100』に抑えることができる。
また、スキルによっては『得意スキル』にすることで追加効果が付くものも多いようなので、そういう意味でも重要なスキルを『得意化』する意味は大きい。
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★〈精霊扶養〉が『得意化』され、〈○精霊扶養〉に変化しました!
『得意化』の利用可能回数は残り1回です。
〔スキルポイント:100〕が返還されました。
スキルの効果に一部変化が加わりました。
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というわけで、早速〈精霊扶養〉スキルを『得意化』してみる。
先程、スキルを新規修得した際に『200』のスキルポイントを消費したわけだけれど。『得意化』により半分で済むようになったので、ちゃんと『100』点分のスキルポイントが返還されてきた。
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〈○精霊扶養Ⅰ〉
精霊があなたの魔力を自由に奪い、お腹を満たせるようになる。
精霊に対して『念話』で語りかけることが可能になる。
言葉を話せない精霊からも、意志が伝わってくるようになる。
精霊が振るうことのできる力が『10%』増加する。
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『得意化』により追加された効果は『言葉を話せない精霊からも意志が伝わってくるようになる』というもの。
竜であっても生まれてから間もない内は、言葉を話すことができないと聞いているから。この能力はあったほうが確実に便利そうだ。
『―――みんな、ちょっと良い?』
『シズ姉様、どうしたんですか?』
早速シズはパーティチャットでこの事実を伝え、4人に情報共有を行う。
実際に『得意化』するかどうかは、個々人で判断して貰うにしても。判断材料となる情報は、多くあるに越したことはないだろう。
『なるほど、それは得意化したほうが良さそうですわね』
『早速得意化してみました』
『すみません、雫お姉さま。私は元々得意スキルの扱いだったみたいです』
『あ、そうなんだね』
ユーリの戦闘職は〔精霊術師〕だ。
なので彼女にだけは、最初から〈精霊扶養〉が『得意スキル』の扱いになっているというのも、理解できる話だと思えた。
『ユーリ、ゲーム内で私を本名で呼ばないように気をつけてね』
『あら―――これは失礼致しました。気をつけないといけませんね』
完全に無意識の発言だったらしく、素直にユーリが謝罪を口にする。
まあ、もし視聴者にバレたりしても、多分そんなには気にしないけれどね。
(ユーリに注意するだけじゃなく、私も気をつけないとな……)
『一心』と『イズミ』は完全に同じ単語だし、『ユーリ』と『友梨』もそんなに変わらないから、特に気をつけなくても大丈夫な気がするけれど。
配信中に『プラム』のことを『梅』という名前で呼ぶことだけは、絶対にしないように気をつけた方が良さそうだ。
(―――っと、そもそも私『配信』してないじゃないか)
今更ながらそのことに気づき、慌ててシズは『配信』をオンにする。
気をつけようとは、常々思っているのだけれど。どうにも他に考えることがある時などには『配信』の開始を忘れてしまうことがよくありがちだ。
特に今日は友梨と梅、一心の3人と現実で会うことができ、心が浮き立っていたものだから。正直そこまで気が回っていなかった。
《配信キマシタワー!》
《お疲れさまです! いつもの職場ですね!》
《お勤めご苦労様です!》
《霊薬を作っていないと手が震えてくるんだ》
「なぜ皆、私を社畜にしたがるのか……。今日は違うよ? 霊薬調合の為じゃなくて、卵を孵す場所として『工房』を借りただけだから」
《おー! もう竜の卵孵るんだ》
《どんなの産まれるんだろ、やべえ超楽しみ》
《天使ちゃんとディアスカーラちゃんの子ですね!》
「ディアスカーラの子ではあるけれど、私の子ではないなあ」
そう、雫が孵そうとしている竜の卵は、緑竜ディアスカーラが産んだものだ。
あの日「できればシズに儂の子を孵してやって欲しい」と、ディアスカーラからシズは籠の中に入っていた緑竜の卵のひとつを、直接受け取っていたりする。
《天使ママー! 認知してー!》
「しません」
配信妖精が読み上げるコメントに、苦笑しながらシズはそう答える。
こうして卵を預かった以上、育ての親としての責任を果たす意志はあるけれど。
だからといって、全く身に覚えのない子供を認知するつもりなど皆無だ。
(……あとはいつも通り、魔力を注げばいいんだよね)
先程ログウィンドウには、〈精霊扶養〉スキルを修得した後に魔力を注ぐことで『竜の卵』を孵すことができると書かれていた。
スキルはランク『1』ではあるけれど、もう修得したから。早速『竜の卵』に、シズは魔力を注入してみることにした。
「おお……!」
いつもは魔力を注いでも、何の反応も無いのだけれど。今回だけは魔力を限界まで注ぎ終わると同時に、『竜の卵』が判りやすく光を放ち始めた。
そして、ゆっくりと卵の上部から亀裂が入り始める。
その亀裂は徐々に長く、大きなものになっていき―――。
「キュー!!」
やがて―――とても可愛らしい声で啼きながら。
シズの手のひらにも乗りそうな、小さな竜が卵から誕生した。
緑の鱗を持ち、土属性を司る『緑竜』―――ディアスカーラの子竜だ。
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