116. 初瀬川友梨(後)
車に付いているナビの案内によると、目的地の別荘までは、雫が住んでいるマンションから1時間20分ほど掛かるらしい。
もちろん後部座席にユーリと2人一緒にいられる今は、移動に幾ら時間が掛かるのでも大歓迎だ。もっと長くても良いとさえ思えてしまう。
それから雫は、友梨と様々な話をした。
お互いに学校生活や日常生活をどんな風に過ごしているか。ゲーム以外の趣味の話や、今後の進路に関すること。
もちろん彼女の親友である梅と一心のことについても、色々と教えて貰った。
友梨と話をしているだけで、時間はあっという間に過ぎて行く。
気付けば車載のナビが、目的地まであと20分だと告げていた。
どうやらもう、1時間も経ってしまったらしい。
「うふふ。雫お姉さまと話していますと、時間が経つのが早いですね」
「うん、私も全く同じことを思ってたよ」
そう告げて、二人で小さく笑い合う。
こうして実際に会って話をするのは、初めての機会の筈なのに。友梨との会話は全く淀みなく、長年連れ添った友人のように延々と絶え間なく続けられる。
そのことが―――考えてみるとちょっとだけ、不思議な感じもした。
「そういえば、雫お姉さま。公式サイトはチェックされましたか?」
「公式サイトって……『プレアリス・オンライン』の? 荷造りで忙しかったし、ここ数日は全然見てないかも」
「またアップデート内容が色々と告知されていましたから、一度見て置いたほうが良いかもしれませんね」
「あ、そうなんだ。すぐ見てみるよ」
友梨にそう答えて、雫はスマホを操作してブックマークに登録している『プレアリス・オンライン』の公式サイトを表示させる。
すると友梨の言う通り、今朝の時点でアップデートの告知が行われていた。
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【2046年7月21日のアップデート内容】
・1週間後の28日(土)と29日(日)の2日間に渡って
予告通り『魔軍侵攻』イベントが行われます。
国家に物資の提供を行って、縁の下から支えるもよし。
侵攻対象の集落で当日、防衛戦力として参加するもよし。
皆様のご健闘とご活躍を運営一同心より期待しております。
・魔軍侵攻イベントの2日前に『強化遠征』イベントを行います。
このイベントは26日(木)の20時から3時間掛けて行われ、
参加者は専用のマップに『遠征』することができます。
・遠征イベントへの参加中は体感時間が48倍に拡大され、
3時間で144時間相当のプレイ体験を得ることができます。
魔物の狩猟や生産を、実質的に丸6日分行うことができますので
魔軍侵攻イベントに向けてのレベル上げに是非ご活用下さい。
・遠征イベントへの参加は、事前手続きが必要です。
天擁神殿の神像に『参加する』意志を伝えると参加登録できます。
参加登録を行っているプレイヤーは、26日の20時になると
自動的に専用のマップへ転移させられます。
・遠征イベントにはアイテムの持ち込みが一切できません。
最低限の武具や回復アイテムは全プレイヤーに支給されますので、
あとは遠征中に頑張って調達してみて下さい。
なお生産に必要な施設は遠征先にも全て用意されます。
・遠征中は例外的に、満腹度が『0』未満にも下がるようになります。
満腹度がマイナスになっていると能力値が低下するようになり、
酷くなると徐々にHPへダメージを受けるようになります。
食料や飲料の摂取で適切に満腹度を増加させるようにして下さい。
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・全ての『大都市』に『天擁商店』が開店しました。
この商店では特別なアイテムをプレイヤーに向けて販売しており
『Eliza』という専用通貨でのみ購入することができます。
専用通貨は公式サイト内でチャージが行えます。
・陳列商品のラインナップは毎週土曜日に更新されます。
新しいアイテムが追加される一方で、それまで店頭に並んでいた
アイテムが販売終了となり撤去されることがありますので、
欲しいアイテムは早めにお買い求め下さい。
・『天擁商店』に陳列されている商品の一覧は、
店まで行かなくてもゲーム内機能でいつでも確認できます。
但し購入は行えませんので、その際は店舗までお越し下さい。
・『天擁商店』の商品はフレンドに『プレゼント』が可能です。
その際にはプレゼントにメッセージを添付することができます。
プレゼントは相手が受け取りを拒否した場合、返送されます。
・『天擁商店』では欲しい商品をウィッシュリストに登録できます。
ウィッシュリストに登録した商品はフレンドに公開されますので
フレンドの誰かがあなたにプレゼントしてくれるかもしれません。
・未使用のアイテムは店舗に返品し、『Eliza』の返金を受けられます。
送り返されたプレゼントの処分などにご活用下さい。
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告知内容の前半は『強化遠征』イベントに関して。
『魔軍侵攻』イベントを先に控えてのレベル上げに有用なイベントらしく、なんと体感時間が『48倍』にまで引き上げられ、たったの3時間で144時間相当のプレイ体験ができるのだという。
こんな魅力的なイベントは、絶対に参加するしかないだろう。
「体感時間を伸ばすなんて……。そんなこともできるんだねえ」
「ちょっとびっくりですよね。勉強とかに利用できたら便利そうな……」
「あ、それはそうだね」
友梨の言葉に、雫は心から同意する。
確かに、もし日常生活の3時間で144時間分の勉強を行うことができたなら、それは大変に便利だろう。
学校のテストはもちろん、資格を取得する為の試験なんかも、効率良く対策勉強ができるようになりそうだ。
「強化遠征はアイテムの持ち込みが一切できないそうですが。私達は全員生産職がバラバラですから、何とかなりそうな気がしますね」
「そうだね。武器や盾は〔鍛冶職人〕のイズミが作ってくれそうだし、防具は〔縫製職人〕のプラムが作れそう。回復や強化のアイテムは私達で作れるしね」
武器と防具が用意でき、消耗品の類も用意できる。
確かに―――友梨の言う通り私達4人で揃って参加すれば、アイテムの持ち込みが禁止されていても、それほど困ることはなさそうだ。
告知内容の後半は『天擁商店』に関して。
これは、オンラインゲームにはありがちの、いわゆる『課金ショップ』的なものだろう。
『プレアリス・オンライン』の運営を、ユーザーから集めた月額料金だけで賄うのは大変だろうから。これはゲームの運営のためにも必要なものだ。
専用ページをチェックしてみたところ、『Eliza』という専用通貨を事前に現金で購入しておいてから、ゲーム内の『天擁商店』で使用する形式らしい。
レートは『1Eliza=10円』。但し纏めて沢山購入した場合には『おまけ』として少し多めに貰えるようだ。
5万円分以上の『Eliza』を購入すると、原則として10%分の『おまけ』が付属するようだから。とりあえず雫は何も考えず『5500Eliza』分の専用通貨を購入することにした。
雫はこのゲームの『投げ銭』と『メンバーシップ』の2つで、多額の収入を得てしまっているから。少しぐらいはゲームの運営側にお返ししておかないと、何だか申し訳ない気がしたのだ。
「お姉さま、そろそろ着くみたいですよ」
「お、了解」
友梨からそう言われて、雫はスマホの画面を見るのを止める。
先程まではどこかの高速道路を走っていたように思うのだけれど。いつの間にか下道に降りていたようで、車は閑静な住宅街の中を走っていた。
その住宅地の一角にある、大きな旅館の敷地内に車は入っていく。
しっかりと手入れのされた、立派な庭園を構える旅館だ。
泊まると結構良いお値段がしそうに思えるけれど―――。
「……ここって、どこかの高級旅館じゃないの?」
「いいえ? 初瀬川家の別荘のひとつですね」
「そ、そうなんだ……」
広い旅館の敷地内に設けられた道路を、車が悠々と走っていくと。
やがて旅館の―――もとい、別荘の建物が見えてきた。
何と言うか、余裕で100人以上は泊まれそうな大きさの建物だ。
ここに暫くの間泊まるのかと思うと……。庶民である雫としては、期待感以上に漠然とした不安のようなものを覚えずにはいられなかった。
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