108. 竜の卵
頂いた誤字指摘の修正反映が遅れており、申し訳ありません。
ライフプルーンの木を10本も分けて貰った後は、主にユーリが必要とするカムンハーブの上位素材の『エストハーブ』、及びプラムが必要とする亜麻に似た繊維素材の『トラズ麻』についても、根っこごと採取させて貰った。
これらの植物はライフプルーンとは違い手頃なサイズの草なので、ディアスカーラの手を借りるまでもなく、自前の〈植物採取〉スキルで回収する。
根っこを含めた植物全体を回収しようと意識しながら植物に触れれば、それだけで根の部分も一切傷つけることなく、簡単かつ綺麗に採取することができた。
(そういえば―――)
ふと思ったことがあって。シズはライフプルーンを1個取り出し、アイテムの詳細情報を改めて確認してみる。
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ライフプルーン/品質[109]
【カテゴリ】:素材(果物)
【錬金特性】:〔生命回復Ⅲ〕
【品質劣化】:-2/日
【飲食効果】:HP+50、MP+16/満腹度+20
灌木の枝先に結実する、赤色の漿果。
ヒールベリーの上位に相当する植物で、自然の力が強い土壌で、
かつ水気も多い場所でのみ見つけることができる。
ヒールベリーよりも遙かに良質な霊薬が作れる素材だが
調合に伴う難易度もまた、ヒールベリーの比ではない。
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ライフプルーンの説明文には、この素材を発見出来る場所が『自然の力が強い土壌』で、かつ『水気も多い場所』であることが記されている。
後者の『水気が多い場所』という条件については、ヒールベリーのアイテム説明文にも書かれていたものなので、シズも既に把握していることだけれど。
前者の『自然の力が強い土壌』という条件は、この植物独自のものだ。
「ディアスカーラ、ちょっと訊いても良い?」
『うむ、何でも訊け! それと、儂のことはディアと呼ぶと良いぞ!』
「あ、じゃあディアって呼ばせて貰うね。ところで―――このライフプルーンっていうのは、自然の力が強い土壌じゃないと育たないみたいなんだけれど。この土地から他の土地へ持っていって、普通に育つものなのかな?」
『む……』
シズが問いかけた言葉に、ディアスカーラは真面目な顔で一瞬思い悩む。
『……難しいかもしれぬな。この島は儂らのような緑竜が住んでいればこそ、強い自然の力を有した土地となっておるからのう。
シズの言う通り、この土地ならではの植物を余所へ持っていき、植え直したとしても。十全に育つかはどうかは、ちと怪しいかもしれぬ……』
「あー、やっぱりそっかー……」
森都アクラス付近の村落に畑を借り、そこでライフプルーンの木を栽培できればシズとしても非常に有難くはあるのだけれど。
緑竜のディアスカーラが『難しい』と言うのなら、多分それは上手くいかない。
枯らしてしまう可能性が高いなら、少し惜しくはあるけれど諦めて、この土地にそのまま樹木を植え直して帰るほうが賢明だろう。
『ああ―――。いや、待て。手は無くもないのう。
シズ達はまだ暫く、この辺りで採取しておるのか?』
「うん。まだあと1時間ぐらいは、この辺りの川沿いにいるかな?」
採取に長らく没頭していたせいで、時刻はそろそろ18時になろうとしている。
ひとり暮らしのシズはともかく、ユーリ達3人は家族と一緒に食事を摂るため、原則として19時頃には一度ログアウトする必要があった。
『10分で戻るゆえ、暫し採取でもしておってくれ。解決法を持ってくる』
「何から何まで、世話になってごめんね」
『なあに、構わぬよ。もともとライフプルーンの植え替えを提案したのは儂のほうなのじゃからな。協力するのは当然じゃろう』
そう告げて、ディアスカーラはその場で巨体に見合う大きな双翼を数度羽ばたかせたかと思うと。勢いよく空に舞い上がり、どこかへ飛んでいってしまった。
竜が空を飛ぶところを、こんなに間近で見られるとは思わなかったものだから。なんだかファンタジー映画の1シーンを体感できたようで、凄く嬉しい。
「シズお姉さまは、随分とディアスカーラさんに好かれたみたいですね」
「あはは……」
ユーリの言葉に、シズはただ苦笑することで答える。
なぜなのかよく判らないけれど。確かにディアスカーラと話していると、彼女が自分に随分と好意を持ってくれていることが、何となく伝わってくる。
もちろんそれは、別に恋愛的な意味で無いとは思うけれど。
……いや、一度は『番い』にと望んでくれたわけだから。多少はそちらの思いも含まれていたりするのだろうか。
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エストハーブ/品質[95]
【カテゴリ】:素材(薬草)
【錬金特性】:〔再生Ⅲ〕
【品質劣化】:-0.2/日
怪我の治療に大きな効果を持つ薬草。擂り潰して患部に用いる。
下位素材のカムンハーブと異なり、森以外の場所でも生育が可能だが
自然の力がかなり強い土壌でなければ、まず育つことはない。
薬師や錬金術師が好む素材だが、扱うには相応の技術が必要。
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ライフプルーンはもうそれなりの量が採れた気がするので、ユーリと一緒にエストハーブを採取させて貰う。
下位素材のカムンハーブもそうだけれど、薬草類は〔薬師〕のユーリだけでなく、〔錬金術師〕のシズも利用する機会がある素材だ。
自分で使う分ぐらいは、自力で採取しておくべきだろう。
この島では、見渡す限りエストハーブはそこら中に生えているようだけれど。ライフプルーンほど密集しているわけではないから、集めるのは少し大変だ。
とはいえ〈植物採取〉のスキルがあれば、触れるだけで回収できるから採取効率は良い。身を屈めながら移動し、見つけた分には全て触れていく。
ついでに幾つかのエストハーブは、根っこごと採取させて貰った。
ディアスカーラがどういう『解決法』を持ってくるのかは、全く想像もつかないけれど。それで解決するようなら、シズも畑で育てたいと思ったからだ。
ディアスカーラは宣言した通り、10分程度で戻って来た。
空からゆっくりと下降する緑竜の手には、何か小さな籠のようなものが見える。
『シズよ、これを持っていくが良い』
草原に着陸したあと、ディアスカーラはその籠をシズに差し出してきた。
籠の中を見てみると―――卵が20個ぐらい入っていた。
但し、その卵は鶏卵に較べると遙かに大きい。
縦の長さが15cm程度はあろうかという大きさで、おそらくガチョウの卵より更に一回り以上は大きいだろうか。
また色彩も非常に豊かだ。白い殻に覆われた卵があれば、赤い殻に覆われたものも、緑や黒、青などの色合いの殻に覆われたものもある。
「これは……?」
『この島に棲む竜達が産んだ、今日の分の卵じゃな』
「えっ。そ、そんなもの貰えないよ」
ディアスカーラの言葉を受けて、慌ててシズは籠を返そうとする。
産みたての卵ということは、これから竜の子供が孵るのだろう。
どうしてそんな大事なものを、ディアスカーラがこちらへ渡そうとしてくるのか理解できなかった。
『ふふ、何か誤解しておるようじゃが、これは別に大事なものではない。
確かに、この卵に数日間ほど適切に魔力を与え続ければ、儂らの子供が産まれるじゃろうが―――あまり島に竜の数が増えすぎても、それはそれで問題になるからのう。これらの卵は島の中で孵すわけにはいかぬのじゃ』
「……そういうものなんだ?」
『うむ、適切に処分せねばならぬ。だが望むと望まざるとに拘わらず、卵自体は毎日結構な数が産み出されるからのう。その日産まれた分の卵は一箇所に纏めて置いておき、基本的には誰でも食って良いという決まりになっておる。
とは言っても、儂を含めて竜達は基本的に料理などせぬから、丸呑みにするか、せいぜい茹で卵にするぐらいじゃがのう』
「た、食べるんだ……?」
『腐らせるよりマシじゃろう?』
そう告げながら、ディアスカーラは再びシズに籠を押しつけてくる。
どうせ処分するものなのだ―――と言われれば、それ以上拒否するのも難しく、受け取る他なかった。
『先程も言ったが、この卵は数日間ほど適切に魔力を与え続ければ、普通に孵すことができる。その場合は手のひらサイズの小さな竜が生まれるじゃろう。
産まれる竜が何であるかは殻の色を見れば判る。例えば赤い卵ならば火の属性を司る赤竜が産まれるじゃろうし、緑の卵であれば儂のように土の属性を司る緑龍が産まれるじゃろう』
「な、なるほど……」
『竜には産まれる前も、産まれた後も魔力を与え続ける必要がある。シズ達はまだそれほどレベルが高くないようじゃが、小さな竜の1匹程度なら扶養もできよう。もちろん魔力に余裕があれば、2匹以上を孵しても構わぬが。
―――というわけで、畑にこの島の植物を植えたいなら、まずは緑竜を孵すのが良い。土属性を司り、存在するだけで自然の力を高めることができる緑竜ならば、産まれて間もない小さき竜であっても、畑ぐらいなら豊かにできよう』
籠の中には様々な色の卵が入っているけれど、緑の卵も4つは入っている。
これらの卵を育てれば、4人全員がこの地の植物を畑で育てることも可能というわけだ。
「……ん、判った。有難く頂戴するよ。ありがとね、ディア」
『よいよい。儂としても、捨てるよりは有効活用して貰えるほうが嬉しいしのう。
ああ―――ちなみに、シズ達の中に〔鍛冶職人〕はおるかの?』
「私がそうですが」
ディアスカーラの言葉に、イズミが一歩前に進み出る。
『最近ではすっかり忘れられたようじゃが……。一千年ほど昔に遡れば、火属性を司る赤龍を〔鍛冶職人〕が良き友とした時代もあった。
赤竜を友にすれば、炉の温度を自在に操ることができるゆえ『鍛冶』にはとても役立つ筈じゃ。興味があれば育ててみると良かろう』
そう告げながら、ディアスカーラはシズが持つ籠の中から赤い卵をひとつ取り出して、イズミのほうへと差し出した。
イズミはそれを両手で受け取り、大切なものを扱うように胸に抱える。
「大事に育てます!」
『うむ、そうしてくれると儂らも嬉しいのう。
―――ああ、別に今回渡した卵を全て孵そうとかは、思わなくて良いからのう。要らぬ卵については、適当に調理して食べると良い。
但し、商人などに卵を売るのはやめて欲しい。信頼できぬ者の手に渡り、産まれた竜がどこぞの飼い主の元で粗末に扱われるのは悲しいからのう』
「……ん、わかった。売るぐらいなら、責任持って美味しく頂きます」
『うむ、そうしてくれ。シズのことは信用しておるからの』
ちなみに籠は『インベントリ』の1枠内に纏めて収納することができた。
どうやら籠や箱のような容器に入っていれば、1枠しか消費せずに済むようだ。
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お読み下さりありがとうございました。




