106. ライフプルーン
(追記:21時25分頃)
推敲前の文章のまま、差し替えを行わず投稿した状態になっておりました。
大変ご迷惑をお掛けしました。(現在はたぶん修正されています)
(この辺りは岩礁が多いのかな……)
再び『浮遊』状態から降りて、水中を泳いでいる際にシズはそう思う。
今が満潮なのか干潮なのかも判らないけれど。クラーバ島が目と鼻の先に迫った一帯には、随分と海面下に存在する岩礁が多いように見受けられた。
これでは喩えセイレーンの問題が無くとも、船が近づくことは難しいだろう。
とはいえ、泳いでいる分には岩礁など問題とはならない。
水がとても澄んでいて先までよく見えるから、水中の視点から回避するのは特に難しくも無いからだ。
岩陰を擦り抜けるように、シズ達はスイスイと泳いでいく。
そうして―――とうとう一行は、目的地のクラーバ島へと辿り着いた。
結局、道中でセイレーンと遭遇することは一度もなかった。
やはり『海の日』の今日だけは、近海や沿岸部から姿を消しているのだろう。
「掛かった時間は、正味3時間半ぐらいでしょうか」
「そうだね、そのぐらいかな」
ユーリの言葉に、視界の隅に表示させている時計を確認してからシズも頷く。
序盤は大体時速10km、後半は時速15km、終盤だけは『浮遊』も併用して更に速度を出していたことも考えると―――。
森都アクラスからこの島までは、大体『40km』ぐらい離れた位置関係にあると考えて良いだろうか。
〈水泳〉スキルをマスターした今なら、最初から『浮遊』も併用しつつ進めば、おそらく2時間ぐらいで到着できそうな気がする。
もちろん、それは『魔物』の脅威を無視できることが前提の話ではあるけれど。
「南側は平坦……。ですが、北側には山が連なっているようですわね」
シズ達が到着したクラーバ島の南側は、プラムの言う通り平坦な地形だけが続いており、自然豊かな草原地帯が広がっている。
付近に森は無いようだけれど、草原地帯には樹木が数本ずつ纏まって、広く点在するように生えていることが見受けられた。
近くには河川があり、島の北側から緩やかに水が流れているようだ。
濁りが全く無い、よく澄んだ水質で、ざっと眺めるだけでも複数の魚が棲息している様子が確認できる。
また、特に河川に沿う辺りでは様々な植物が自生しており、シズの〈錬金素材感知〉スキルが強い反応を示している。
早く採取をしてみたい欲求が、シズの心の中で急速に高まっていた。
一方で、ここからはまだ距離がある島の北部辺りには、東西にかけて3つの山が並んでいるのが窺えた。
それほど高い山ではないのか、いずれの山も自然の緑に覆われている。
また山と山との間―――つまり山間の辺りには樹木が非常に多く生えているようで、ちょっとした森のようなエリアが形成されていた。
多分、今シズ達の目の前にある河川を源流まで辿ると、ちょうどあの山間の辺りに辿り着きそうな気がする。
「竜が、いっぱいいます……!」
そして―――何より際だって、いまシズ達の目の前に広がっている景色の中で、明らかに異常だと言える光景。
それは、南部の草原地帯から北部の山地に至るまで、いずれの場所にも『竜』の姿が普通に見られることだ。
今シズの視界に見えているだけでも、多分50体以上はいるだろうか―――。
イズミが感嘆する気持ちが、シズにもよく判る。
ファンタジー小説などで『竜』は、ごく限られた場所にのみ登場する、大いなる存在として扱われていることが多いけれど。
少なくとも、この島では。ごく当たり前のように『竜』が生活しているようだ。
「こんにちはー」
試しにシズは、近くの草むらに寝そべっていた竜の1体に話しかけてみる。
赤い鱗に覆われた身体を持つ、とても立派な見た目の竜だ。
何と言うか―――いかにも『炎のブレス』とかを吐きそうな感じがする。
『おお……。珍しいなあ、この島に人族が来るなんて』
両目をぱちぱちとさせながら、赤い龍がシズのほうをまじまじと見つめてきて。
同時に―――まるでパーティチャットのように、頭の中へ直接響く声があった。
明らかに、シズの目の前にいる、赤い竜が発した言葉だろう。
どうやら竜は言葉そのものを喋れるというよりも、パーティチャットと同じような形で、思念を直接相手に伝える手段を有しているようだ。
『あ、やっぱり珍しいんですか?』
『そりゃあ、もちろんだとも。この島の周囲にはセイレーンが出るから、わざわざ危険を冒してまで来たいと思う人族など、そうそう居るものではない。少なくとも儂は生まれてから初めて見たのう……。
そういえば、お嬢ちゃんはよく無事に来られたもんだねえ。―――ああ、女性だからセイレーンの歌には誘惑されなかったわけだ?』
『いえ、今日はたまたまセイレーンが居なかったみたいで、安全に来られました』
『おっと、今日は海神様の日だったね。なるほど、魔物が居なかったのか』
そう言って、赤い竜はどこか笑ってみせた。
頭の中に伝わってくる竜の声は随分と渋く、かなりの歳を重ねたお爺さんの竜であることが、何となくシズにも理解できた。
渋いとはいっても、どこか好感が持てる声で。気さくな好々爺といった雰囲気が滲み出ていて、何となく人の良さのようなものが窺えた。
……いや、人の良さというより、竜の良さと言うべきかもしれないけれど。
『へー、今日って『海神様の日』なんですか?』
『そうだよ、知らずに来たのかね? だったら随分と運が良かったのう……。今日は海神様が魔物を退けてくれるから、海から魔物が居なくなるんだよ』
『そういうのがあるんですね。……あ、折角この島へ初めて来たので、植物素材を採取して帰りたいんですが、勝手に採っても大丈夫ですか?』
『おお、もちろん好きにしなさい。自然は誰のものでも無いからねえ。この島には緑竜も沢山棲んでるから、どうせまたすぐ生えてくる。だから遠慮無く、根こそぎ採っていっても構わんと思うぞ』
『……緑竜?』
『深い緑色の鱗を持つ竜のことじゃな。土属性を司り、この竜が棲息する場所では自然の力がとても強くなる。だから、お嬢さんが根こそぎ何かを採っていっても、どうせすぐに再生するから遠慮せんで良いぞい』
『なるほどー。ありがとうございます、じゃあ遠慮無く採取しますね!』
『おお、そうしなさいそうしなさい』
再び、お互いに手を振り合って赤い竜のお爺さんと別れる。
シズが踵を返して戻ると、少し離れた位置で見ていたユーリ達が、ぽかんとした表情で出迎えてくれた。
「お、お姉さまって、何気にコミュ強ですわよね……」
「そう? 普通じゃない?」
「あんなでっかい竜に、躊躇無く話しかけられるのは普通じゃないですよ……」
「竜は精霊だから好戦的じゃないって、ユーリから聞いてたからね」
「確かにご説明はしましたが、それでもあの大きさは怖いですよ……」
どうやら3人は、竜相手に萎縮するものを感じていたらしい。
竜の身体は象よりもずっと大きいから、多分その辺りが怖いのだろうか。
シズとしては、ユーリから『好戦的ではない』ことや『話が通じる』といった話を事前に聞いていたので、特に何も思わなかったのだけれど。
とりあえず、この辺りで採取しても大丈夫らしいので、早速シズ達は河川の近くまで移動して手頃な植物を探す。
もっとも『探す』とは言っても、先程からずっと〈錬金素材感知〉のスキルが反応しまくりなので、この近辺にある植物がどれも『錬金術』に活用できるものばかりであることは、何となく察しが付いていた。
「お、何かヒールベリーによく似た植物がある……」
様々な植物が生えている中で、シズはどれよりも先に、河川に沿うように生えている、背の低い灌木の枝先に実っている果実たちが気になった。
果実の色が綺麗な『赤』なので、『黄橙』色が一般的なヒールベリーとは明らかに別物なわけだけれど。生えている灌木の質感、それから果実の形状といったものは、普段シズがよく採取しているヒールベリーと非常によく似ている。
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ライフプルーン/品質[108]
【カテゴリ】:素材(果物)
【錬金特性】:〔生命回復Ⅲ〕
【品質劣化】:-2/日
【飲食効果】:HP+50、MP+16/満腹度+20
灌木の枝先に結実する、赤色の漿果。
ヒールベリーの上位に相当する植物で、自然の力が強い土壌で、
かつ水気も多い場所でのみ見つけることができる。
ヒールベリーよりも遙かに良質な霊薬が作れる素材だが
調合に伴う難易度もまた、ヒールベリーの比ではない。
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どうやら、この植物は『ライフプルーン』と言うらしい。
説明文によると『ヒールベリーの上位に相当する植物』であるらしく、だから色々とヒールベリーによく似ている部分が多いのだろう。
そのまま食べるだけでもかなり高い効果があり、下手なベリーポーションよりもずっと沢山のHPを回復できるようだ。
内包している錬金特性も〔生命回復Ⅲ〕と非常に強力で。また、素材の品質値が高いのも嬉しいところだった。
「これは、シズお姉さまにとって重要な素材なのでは無いですか?」
「そうかも……。沢山採っていきたいね」
「はい、頑張りましょう」
ユーリ達にも手伝って貰い、遠慮無く根こそぎ回収していく。
普段ここで採取する人が誰も居ないからなのか、灌木の1本1本にこれでもかと言うぐらい沢山の実が結んでおり、ほくほく気分で採取することができた。
またライフプルーン以外にも、カムンハーブの上位素材や、亜麻に良く似た繊維素材なども周辺に沢山自生していた。
もちろんユーリやプラムが欲しがったので、こちらも根こそぎ回収していく。
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パーミス河川水/品質[86]
【カテゴリ】:素材(溶媒)
【品質劣化】:-1/日
クラーバ島のパーミス川で採取した水。
水質は清浄で、そのまま飲用しても問題無い。
河川水は上流で採取したものほど品質が高くなる。
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ちなみに河川の水を掬って状態を見てみると、こちらも素晴らしいものだった。
霊薬の調合では必ず溶媒として『水』が必要になり、この水の品質値は完成後の霊薬の品質に大きく影響する。
現在シズが調合で利用している『ミヒル河川水』は品質値が『50』程度しかないので、それより遙かに品質に優れる水が手に入るのはとても有難い。
というわけで、早速シズは手持ちの水甕を全て空にして、中身をこの河川の水に入れ替えていく。
水甕は3個しか持っていないけれど、そもそも霊薬の調合に使う水の量はそれほど多くは無い。これだけの量でも、暫くの間なら持つだろう。
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お読み下さりありがとうございました。




