103. 北東の離島に興味があります
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それから更に2時間ほど海底の近くで各種素材の採取を行っていると、その間に4人全員の〈水泳〉のスキルランクが『5』まで自然成長した。
どうやら『海の日』である今日は、海の中で泳いでいると大体30分に1ランクずつのペースで、スキルが自動的に成長していくらしい。
〈水泳〉スキルの効果はとても劇的で、ランクが1つ成長するだけでも、泳ぎの速度が体感できるぐらい速くなる。
また息が続く時間もランクが成長する度に『3分』ぐらいずつ長くなっており、シズ達はもう平気で『20分』ほど連続で潜っていられるようになっていた。
こうなると余程うっかり呼吸を忘れない限り、溺れる心配は無さそうだ。
「なんだか―――対岸までだって平気で泳げるんじゃないかなって、そんな風にも思えてきたよ」
息継ぎのために4人揃って海面に顔を出した際に、シズがそう告げると。
3人とも笑ってみせながらも、誰もその言葉を否定はしなかった。
「実際、行けなくは無いのではありませんか?」
「そうですわね。時間は掛かりそうですが、普通に泳げるでしょう」
「行ってみますか?」
―――それどころか、3人とも超乗り気みたいだ。
シズ達が現在居る場所は、森都アクラスより少し北の沖合なのだけれど。
ここから東側を望むと、少し遠くに大きな陸地が見ることができる。
「あれは『アングルシー島』ですね」
遠くにあるその対岸を指差しながら、ユーリがそう教えてくれた。
「おお、初めて聞く名前だ」
「あ、もちろんこの世界での島の名前ではありません。『アングルシー島』という名称は現実世界でのものですね」
「なるほど。……あれって島なんだ? てっきりイギリス本島の一部かと思った」
遠くに見える陸地は、明らかにイギリスの本島―――グレートブリテン島の一部であるように見える。
見た目だけで言えば、どう見ても『島』のようには見えないのだけれど。
「海峡を隔てておりますので、一応『島』ではありますね。ただ、シズお姉さまの言う通り、ほぼ本島の一部と認識して頂いて問題無い感じではあります」
ちなみにユーリの話によると、現実世界の地図で言えば『ダブリン』と『アングルシー島』は、100kmぐらい離れた位置関係にあるらしい。
但し『プレアリス・オンライン』のゲーム内世界は、現実の世界地図に近い形を模してはいるものの、大きさ自体はかなり縮小されていると聞いている。
だから、いまシズ達の視界に見えている『アングルシー島』らしき陸地までは、おそらくその半分の『50km』も離れてはいないだろう。
「ユーリ。北東にも陸地が見えるけれど、あっちは何だろう?」
「北東ですか? ああ―――あれは多分『マン島』ですね」
「……何だか、名前は聞いたことあるかも?」
「グレートブリテン島とアイルランド島の間にある島なのですが、結構有名なのでご存じかもしれませんね。特に公道でのオートバイレースで有名です」
「へー」
オートバイは父が好きなので、そっち関連で名前を知っていたのかもしれない。
何にしても2つの大きな島に挟まれる形で、ぽつんと島が存在するというのは、なかなか面白いことのように思えた。
ちょっとだけ―――どんな所か見てみたいな、とも思う。
「ここからだと距離ってどのぐらいなのかな?」
「えっと、確か現実世界ですと、ダブリンからは150kmぐらい離れていた気がするのですが。……それよりは随分と近そうに見えますね?」
現在位置から見る限りだと、アングルシー島もマン島も、大体同じぐらいの距離にあるように思える。
この世界の地図は『現実世界の地図を模して』はいるものの、全てがそのままの配置では無いらしいから。もしかすると現実世界よりもマン島が、ダブリンに近い位置に存在するのかもしれない。
「グレートブリテン島は『転移門』を利用すればいつでも行けますが、マン島へは行けないと思いますから。この機会にちょっと行ってみたい気もしますね」
「よろしいんじゃないですの? わたくしも興味がありますわ」
「ちょうどスキル上げにも手頃な距離だと思います」
何だか早くもユーリとイズミ、プラムの3人が『マン島』へ行くことに乗り気になっている。
もちろんシズとしても、3人がそうしたいのなら拒む理由など無かった。
「行くのはいいけど。帰りは自殺することになると思うけど、いい?」
「それは仕方ありませんね……」
シズの言葉を受けて、ユーリが苦笑してみせる。
今の〈水泳〉スキルをもってすれば、マン島まで泳ぎ切ることは不可能では無いと思うけれど。とはいえ、あちらの島まで移動するだけで、多分3~5時間ぐらいは掛かるだろう。
片道だけならば、挑戦気分で臨める距離ではあるけれど。いくら休日とは言え、往復するのは時間的に厳しいものがある。
だから往路はともかく、復路は『死ぬ』ことを前提にして、移動時間を短縮する必要があるのは明白だった。
「どうせなら強い魔物と戦って倒されてみたいですね!」
イズミが何かを期待するような目で、そんな風に言ってみせる。
それを聞いて、有り得ない話でも無いな―――と、シズは思った。
何しろ、未知の島なのだから。実際に強力な魔物が棲息しているようなことも、普通に起こり得る話だ。
(できれば死ぬ前に、少しは素材の採取とかできると良いなあ)
シズは内心で、静かにそう思う。
折角、ちょっとした距離にある離島まで泳ぐのだから。森都アクラスの近くでは手に入らないような、希少な素材のひとつでも採取できると嬉しいところだ。
「何にしても、行くのは午後からですね」
「ん、そうだね」
ユーリの言葉に、シズも頷く。
『マン島』へ向かうのは、4人全員が一旦ゲームからログアウトして、各自で昼食を済ませて再ログインしてきた後の話だ。
というわけで、シズ達は一旦陸地まで泳いで戻ることにする。
海岸に着いたら水着から探索用の衣服へ一瞬で着替えて、それから『浮遊』して森都アクラスへと帰還した。
そして北門から都市の中へ入った場所で、すぐにログアウトする。
―――現実の雫の身体に意識が戻ると、もうお腹が減っていた。
どうやら朝食のパンケーキとサラダでは、ちょっと量が足りなかったらしい。
(ベッドの上で寝ているだけなのに、お腹が減るのは未だに慣れないなあ……)
自分のお腹を軽く撫ぜながら、雫はしみじみとそう思う。
VRゲームをプレイしている間は、現実の身体から意識が切り離されるけれど。身体は眠っているわけではなく『覚醒』状態が維持されるのだという。
多分お腹が普通に減るのも、その辺りに理由があるのだろうけれど……。
頭の上では何となく理解できているつもりでも、実際の身体はただ眠っているだけにしか思えないものだから、正直ちょっと釈然としないものがあった。
(……なるべく毎日、ちょっとずつでも運動はしよう)
一日中ゲームを遊んでいると、身体が鈍りそうで怖いというのもある。
早朝のジョギングはもちろんながら、それ以外の時もなるべく積極的に身体を動かして、運動不足になり過ぎないように気をつけた方が良さそうだ。
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