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102. 海底採掘ポイント

 



 深く潜ろうとしてみて、シズは〈水泳〉スキルの効果を実感する。

 元々[敏捷]の高いせいか、自分が思っていたよりも快適に水の中で動けていたわけだけれど。スキルを得たことで、その快適さが更に一段引き上げられた状態になっていることが、すぐに判った。

 よほど速度を出そうと思わない限り、もう両腕で水を掻く動作さえ必要では無くなっていて。軽く両足を上下に動かしているだけでも、充分な速度で水の中を思うままに泳ぐことが可能だ。


 呼吸に関しても、今まで一度の息継ぎで3分ちょっと持っていたのが、スキルを得たことで一気に『7分』ぐらい潜っていられるようになった。

 残り時間に関しても、今では感覚で『あと息が何分ぐらい持つ』ということが、すぐに頭の中で理解できるようになっている。

 また途中で息が限界に達しても、そこからHPを消費することで2~3分ぐらいなら水中で活動を続けられそうなことも、感覚として理解できた。


『今ならやろうと思えば、水中で戦闘もできそうですね』


 イズミがそう告げながら、水中で器用に(もり)を振り回してみせる。

 本来であれば銛のように柄が長い武器は、水の抵抗を大きく受けるから、水中で振り回したりは出来ないと思うのだけれど―――。


 イズミの話によると、スキルのお陰なのか、水中でも地上とほぼ同じ感覚で武器を操ることができるらしい。

 立ち回りに関しても地上よりもずっと機敏に、しかも立体的に動ける分だけ、むしろ水中のほうがやり易く感じるぐらいだそうだから。イズミのように高い戦闘のセンスを発揮できる子なら、水中戦闘も難なくこなせるのだろう。


『私は水中戦は無理かな……。遠距離武器の威力が落ちそうだし』

『ああ、それは有りそうですね……』


 シズの言葉を受けて、ユーリが得心したように頷く。

 クロスボウを海中で発射すること自体は可能だろうけれど。発射した後のボルトが水の抵抗を受け続けて徐々に減速していく以上、どうしても地上ほど高い威力は期待できないだろう。


 一応、飲食物や霊薬などは、種類を選べば水中でも摂ることができそうだから。

 もし水中戦をする場合は、味方の支援に専念するのが得策だろうか。


『お姉さま、もう海底に着きますわ』

『おー。この辺りはまだ、そんなに深く無いんだね』


 海面からの深さは―――大体15~20mぐらいだろうか。

 本来なら20mの深さまで潜るというのは、シズ達のような未成年の女子からすれば、それなりに大変なことなのだろうけれど。

 現在の水中での機動能力をもってすれば、大したことでも無い。海面から海底までの20mを移動するのに、せいぜい10秒ぐらいしか掛からないのだ。


(……思いのほか、反応する素材が沢山あるなあ)


 海底に辿り着いて、まず最初に気付いたのは。シズが修得している〈錬金素材感知〉のスキルに反応するものが、付近に沢山あるということだ。

 周囲に泳いでいる魚も、海底から長く伸びている海草も反応しているし。海底にある何かの石も、貝も―――実に様々なものがスキルに反応している。

 〈錬金素材感知〉に反応する以上、それらは全て何らかの『錬金特性』を有している素材である筈だ。




+----+

 海堆石/品質[62]


   【カテゴリ】:鉱石

   【錬金特性】:〔水属性Ⅰ〕


   水深10m以上の海底で採れる鉱石。

   常にひんやりと冷たく、沢山集めれば部屋の気温も下げられる。

   海の力を有しており、武具に水属性を与える目的で利用される。


+----+




 海底に落ちていた僅かに青白く光る石を手に取ってみると、それは『海堆(かいたい)石』という名前の素材だった。

 武具に水属性を付与する鉱石らしい。『錬金術』で使うというより、どちらかといえば『鍛冶』に利用する素材なのだろうか。

 そう思って、近くに居たイズミにこれを見せてみたところ―――。


『こ、これは……。沢山持って帰りたいです!』


 そんな具合に、どうやら彼女の欲望を強く刺激してしまったようだ。

 イズミのような『鍛冶』に専念する職人からすると、『属性』を付与した武具というのは、是非とも作ってみたいもののひとつなのだそうだ。


 イズミが沢山欲しいと言うのなら、手伝わない理由は無い。

 シズ達は4人全員で手分けして『海堆石』を始めとした、海底付近にある様々な素材を回収していく。

 魚は網で捕獲し、石や貝殻は手で拾い集める。海草類は〈植物採取〉のスキルが利用可能で、触れるだけで回収出来るから集めるのは一番楽だった。


『お姉さまの灯りが、採取をする上で本当に便利ですわね』

『あはは……』


 プラムの言葉を受け、シズとしては苦笑するしか無い。

 水というのは光を遮るものであるらしく、水深20mの深さまで来ると地上から届く陽光は結構弱くなり、周囲の暗さが多少意識されるようになる。


 そんな環境下でも、問題無く海底に落ちているものを判別できるのは。

 シズの頭上に浮かんでいる『天使の輪(ヘイロー)』の輝きが、水の中を遠くまでよく照らしてくれるからだ。


 ついでに『天使の輪』の光に吸い寄せられるように、シズの周囲には自然と沢山の魚たちが集まって来るものだから。

 先程からその魚たちを狙ってユーリが網を振るい、根こそぎ『海の日ボックス』の中に新鮮な魚を確保しているようだった。


『た、楽しそうだね、ユーリ』

『はい! 面白いように取れますね!』


 シズが問いかけた言葉に、無垢な笑顔でそう答えるユーリ。

 多少思うところはあるけれど……。楽しんでいるのなら、良いことだろう。


 それから何度か海面に出て息継ぎをしつつ、海底の探索を続けていると。

 やがてシズは海底の一角に、沢山の『素材』が感知される場所を発見した。


 但し、その場所には海底に露出した『岩盤』が見えるだけで。それ自体が素材というわけでも無いようだ。

 これは、もしかして―――。


『イズミ、こっちに来て貰っても良い?』

『あ、はい。ちょっと待って下さい』


 近くに居るイズミを呼び寄せて、気になる場所を見て貰う。


『ねえ、イズミ。これってもしかして―――採掘ポイントじゃない?』

『……わ、ホントです! シズ姉様、よく判りましたね!』


 ここ2日間ほど通っていた『ゴブリンの巣』の採掘ポイントは、いかにも鉱床といった感じの見た目をしていたから、非常に判りやすかったのだけれど。

 それとは対照的に、海底に存在する採掘ポイントはちょっとした大きさの岩盤があるだけだから、なかなか見た目で判別できるものではない。

 おそらくはシズも〈錬金素材感知〉のスキルが反応しなければ、気付くことはできなかっただろう。


 【鉱石採掘】の魔法を思い浮かべながら採掘ポイントに触れると―――。

 間違いなくこの場所で『採掘』が行えることが、自然と頭の中で理解できた。


「―――【鉱石採掘(プラマ・パンド)】」


 シズが魔法を行使すると、海底に露出した岩盤の一部が崩れて、白い光になって消滅する。

 同時に、大量の鉱石素材がシズの『インベントリ』に―――ではなく。『海の日ボックス』の中に回収されたのが判った。




+----+

 ▽【鉱石採掘】を行いました。以下のアイテムを獲得しました。

  :海底砂岩×72、海堆石×26、水冷石×9、流結晶×3

   赤珊瑚×13、白珊瑚×12、水の宝珠×4、海鳴りの貝殻×4

+----+




(おぉ……)


 ログウィンドウに表示された獲得アイテムの一覧を見て、シズは小さく驚く。

 いずれも『ゴブリンの巣』で手に入る鉱石資源とは、全く異なるものだ。


 イズミが欲しがっている『海堆石』も沢山手に入るようだし、この採掘ポイントは積極的に利用した方が良いかもしれない。

 今日『採掘』した素材は全部『海の日ボックス』の方に収納されるようだから、『インベントリ』を始めとした収納領域を圧迫しないのも嬉しいところだ。


『この位置までなら、魔物が居ても来られるんじゃない?』

『そうかもしれません……。採掘ポイントがある場所は、正確に覚えておいたほうが良さそうですね』


 シズの言葉を受けて、イズミが(しき)りに何度も頷いてみせる。

 ここはまだ沿岸からさほど離れても居ないから、今日の『海の日』が終わってもそれほど強力な魔物が跋扈するということも無いだろう。

 頑張ればこの場所までなら、後日『採掘』に来ることも可能な筈だ。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 提灯鮟鱇天使(笑)
[良い点] 更新乙い [一言] 提灯アンコウ、もしくはイカ釣り
[一言] >>お姉さまの灯り 赤鼻のトナカイを思い出しましたw
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