表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/248

101. 〈水泳〉と漁具

 



 4人並んで海の中へと走っていき、まず最初にシズ達が気付いたのは。この場所の海は、水深が急に深くなっているということだ。

 整備された海水浴場とは違い、陸地から離れるほど徐々に水深が深くなるのではなくて。陸地から一定の距離―――大体20~30mぐらい離れた辺りで、途端に深さが増しているようだ。


 きっと、海からの侵食の都合でそういう地形になっているんだろうけれど。

 残念ながら知識があるわけではないから、具体的な理由までは察しが付かない。

 海遊びが目的のシズ達としては、ただ『急に深くなる』ことにだけ注意しつつ、泳ぎを楽しめばそれで良いのだろう。


 泳げる人間からすれば、あまり海岸から離れなくても充分に『泳ぎ』を楽しめる水深に達するのは、これはこれで好都合な面もある。

 充分な深さのある場所で、シズ達は4人で一緒に『泳ぎ』を楽しみあって。

 そうして―――真っ先に気付いたのが。この身体だと、水中をとても『思い通りに泳ぐ』ことができる、という事実だった。

 何と言うか、まるで身体の両手両脚に、高性能な水掻きでも付いているんじゃないかと思うぐらい、水中を軽やかに泳ぐことができるのだ。


 もちろん、それはシズだけに限った話では無くて。

 ユーリもプラムも、そしてイズミも。その場にいる全員が、あまりに『思い通りに水中を泳げ過ぎる』のを体感して、強い違和感のようなものを覚えていた。


「きっとこの世界では[敏捷]の高さが、泳ぎに影響するのでしょう」


 海面に顔を出して、立ち泳ぎしながら4人で数分間ほど話し合った後に。全員の意見を統括して、ユーリが出した結論がそれだった。

 シズ達は4人全員が[敏捷]の能力値を、多かれ少なかれ伸ばしている。

 だから、その恩恵で4人全員が思っていた以上に素速く、かつ思い通りに水中を泳ぐことが出来ている―――そのように考えるのが、最も自然というわけだ。


 何にしても、現実世界よりも遙かに速く、水中を泳げるというのは楽しい。

 また息も現実のそれに較べて随分長く持つようで、平気で3分ぐらいなら水中に潜り続けていることが可能なようだ。


 シズが近づくと、沿岸部に棲息する警戒心が強い魚たちは、すぐに距離を取るように逃げて行くのだけれど。

 高速で泳げる上に息も長く続くから、やろうと思えば逃げる魚と併走しながら、追いかけ続けることができたりする。

 こうして魚たちと追いかけっこをしているだけでも、幾らでも楽しく水中で過ごせそうな気がした。


『―――あ、シズお姉さま。パーティチャットが便利みたいですよ』


 不意に、頭の中に直接聞こえてくるユーリの声があって。

 なるほど、とシズは得心する。


 パーティチャットは『意志』を声にして伝え合う機能なので、実際に声を出さなくてもパーティを組んでいる仲間と会話が可能だ。

 声を出すことができない水中では、これほど便利な機能も無い。


『これは便利だね』

『うふふ。これでシズお姉さまと何でもお喋りできますね』


 そう告げながら、ユーリが顔を近づけてくる。

 皆まで言われずとも、彼女が欲しているものがすぐに判ったから。シズの方から水中でユーリの身体に優しく抱き付いて、そのまま彼女の唇を奪った。


《水中キス! 水中キスですわ!》

《てぇてぇ……》

《これが『海の日』か。今後は神聖な日として崇めるべき》

《異論はない》


 水中で互いの舌先を絡め合い、呼吸を消費し合うだけのキス。

 何でもお喋りできる、という言葉とは裏腹に。舌を絡ませ合っている間ずっと、ユーリはただ静かに、その感触に感じ入っている様子だった。


『お姉さま、ユーリさんとだけ狡いですわ!』

『次は私達ともやるべき』


 1分と少しキスを続けた後に、ユーリと唇が離れると。途端にプラムとイズミの2人から、そう強く求められた。

 シズの頭上に浮かぶ『天使の輪(ヘイロー)』は、水中でも煌々と辺り一帯を照らし続けるから。そのせいで、ユーリと一緒に水中で睦び合っていた1分少々の時間は、近くに居たプラムとイズミの2人から丸見えだったようだ。

 続けてのキスを彼女達からせがまれるけれど、流石にすぐには応えられない。


『ご、ごめん。ちょっと息継ぎだけさせて』


 水中で舌先を絡ませるキスをしていると、隙間から息が漏れ出てしまうせいか、通常の2倍ぐらいの速度で呼吸を消費してしまうらしくて。

 危険域に入りかけている呼吸残量を、シズは慌てて水面まで出て、深呼吸することで回復させる。


 それからプラムとイズミの2人とも、順に唇を触れ合わせた。

 どこへともなく、一緒にゆっくり水中を泳ぎながら舌を交わらせるスローキス。


 やっぱりキスをしている間は、息を通常の倍近い速度で消費するらしくて。

 1分少々続けているだけで、途端に息苦しくなってくるのが難点だけれど。それでも―――地上では体感できない心地よさがあって、とても幸せな心地になれた。




+----+

 ★〈水泳Ⅰ〉スキルを修得しました!

  スキルポイントは一切消費しません。


 ▲あなたの『インベントリ』にアイテムが3つ配布されました。

  2つの漁具は『海の日』を過ぎると消滅してしまいます。

  ボックスにアイテムを収納できるのは『海の日』当日だけです。

+----+




『―――おっ』

『どうされましたか、シズお姉さま?』

『何だか〈水泳〉のスキルが手に入ったみたい』


 3人とそれぞれキスを交わしている間も『泳いでいる』と見なされたのか、スキルが普通に修得できたことにシズは内心で驚く。

 また〈水泳〉のスキル修得と同時に、シズの『インベントリ』の中にアイテムが3つ配布されたようだ。




+----+

 『海の日』の漁具・(もり)


   物理攻撃値:0

   装備に必要な[筋力]:0


   【期限:自動消滅】


   『海の日』に〈水泳〉スキルを修得したプレイヤーへ配布される銛。

   海中でこの銛を使って魚を突くと、突いた魚をアイテムとして

   『海の日ボックス』の中に自動回収することができる。

   このアイテムは『海の日』の翌日に自動消滅する。


+----+

 『海の日』の漁具・網


   物理攻撃値:0

   装備に必要な[筋力]:0


   【期限:自動消滅】


   『海の日』に〈水泳〉スキルを修得したプレイヤーへ配布される網。

   海中でこの網を使って魚を捕えると、捕えた魚をアイテムとして

   『海の日ボックス』の中に自動回収することができる。

   このアイテムは『海の日』の翌日に自動消滅する。


+----+

 海の日ボックス


   【期限:海素材自動回収】【状態保存】


   『海の日』当日に限り、海の中で手に入れたあらゆるアイテムを

   自動的に回収して、状態保存までしてくれる便利な収納箱。

   『海の日』を過ぎるとそれ以上収納できなくなるものの、

   以降も既に入っている中身を取り出すことだけは可能。


+----+




 手に入ったアイテムは『(もり)』と『網』、そして『海の日ボックス』の3つ。

 どうやら〈水泳〉を楽しむついでに、この銛と網を使って、水中に棲息する魚を自由に獲れということらしい。


 捕獲した魚は『海の日ボックス』の中へ自動的に格納されて。またこのボックスに収納している間は状態が保存され、品質が劣化しないようだ。

 つまり今日捕まえた魚は、いつまでも新鮮なまま保存できるらしい。


 ―――といったことを、ユーリ達3人にパーティチャットで説明していると。

 その間に3人もまた、無事に〈水泳〉のスキルが修得できたようで。シズと同じ3種類のアイテムも入手できたようだった。


『シズお姉さま、早速お魚を捕まえに行ってみますか?』

『そうだね。折角の機会だし、やれるだけ頑張ってみよっか』


 ユーリの提案にそう答えて、シズ達は一度水面で深呼吸をしてから、水中を深く潜ってみることにした。

 海の浅い部分には、小さい魚しか居ないように見えるから。深い部分まで潜ってみるほうが、大物の捕獲を狙えると判断しての行動だ。





 

-

お読み下さりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] セクシャルガードの霊圧が……消えた……?
[一言] フレンドの恋人を双方合意で選択した時点で通常セクハラ行為に当たる部分以外への接触が解禁。 白百合の天使の職を得た時点でスキルとしての口写しが存在するためにキスが(口写しを取得してなくても)…
[良い点] 更新乙い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ