100. 海へ繰り出そう!
咳だけまだ結構出ておりますが、体調に関してはほぼ全快致しました。
大変ご心配をお掛け致しました。
あと話数が随分前からズレているとの指摘を頂きましたので、修正致しました。
[11]
午前9時頃にユーリとプラムの2人がログインしてきたので、パーティチャットで話し合って、森都アクラスの中心部で一旦落ち合うことになった。
シズも『錬金術師ギルド』を出て、早速そちらへ向かうことにする。
森都アクラスの都市内から見渡せる範囲には、一面が透き通るような青空だけがどこまでも広がっている。
これならば少なくとも今日一日の間は、天候が崩れることは無さそうだと。そう無条件に信じられるような、気持ちの良い快晴だった。
都市中心部の広場へ辿り着くと、噴水の近く辺りに以前にも見かけたことがあるコーヒー売りのお婆さんが露店を出していた。
シズにとって『コーヒー』は、パーティ全員の[知恵]を長時間に渡って引き上げてくれる、優良な強化アイテムだ。
買い足せる時に買い足しておいたほうが良いだろう―――と判断して、迷うことなくホットコーヒーをテイクアウトで30個ほど注文した。
「あんた、よっぽどコーヒーが好きなんだねえ」
以前にも大量購入したせいで顔を覚えられていたのか、露店主のお婆さんがシズの顔を見ながら、少し呆れたようにそうつぶやいてみせる。
実際コーヒーは好きなのだけれど、別に嗜好品として大量購入しているわけではないから……。シズは何と返答したものか困り、ただ曖昧に笑うことで応えた。
「おはようございます、シズお姉さま」
「ん、おはよう。ユーリ」
広場の噴水の傍で、ユーリ、プラム、最後にイズミの順で合流する。
2人よりも少しだけ送れて合流した、イズミが腰に差している大小の刀の鞘が、明らかに新しいものになっていることにすぐにシズは気付いた。
どうやら午前中の間に、大小の刀の両方を新調したらしい。
おそらくは〔鍛冶職人〕としての技能を用いて、イズミ自身が鍛えた打刀と脇差なのだろうけれど―――。
残念ながら今日は海を泳ぐだけで1日潰れる予定なので、新しい刀の性能を見るのは、またの機会になりそうだ。
「えっと……。とりあえず、都市の東側のほうに行けば良いのかな?」
3人に対して、シズはそう問いかける。
森都アクラスは『森の都市』であると同時に、『港湾都市』としての側面を持つ大都市でもあるので、都市東側は護岸整備された船着き場となっている。
だから都市の東側からなら、直接海へ泳ぎに出ることも可能だろう。
「いえ。港の付近で海遊びをしていますと、働いている方の邪魔になりますから。一旦都市の外に出てから、海際まで行くのがよろしいと思いますわ」
「なるほど……」
ユーリの言葉を受けて、シズは得心する。
確かに、真面目に働いている人の仕事を邪魔するのはよくなさそうだ。
ユーリの提案に従い、一旦シズ達は森都アクラスの北門から外に出る。
それから改めて東へと向かい、海岸のほうへと移動した。
「もっと綺麗な砂浜だと、嬉しかったのですけれどねえ……」
「ふふ、そうだね」
プラムの言葉に、シズも少し苦笑しながら頷く。
森都アクラス北側の海岸は、砂浜にこそなってはいるようだけれど。残念ながら土の色味が黒っぽいこともあって、期待するような白い砂浜では無かった。
とはいえ―――別にこれで、特に泳ぐ上で支障があるわけでもない。
元より別に、砂浜にパラソルやベッドなどを設置するつもりは無いのだ。
荷物は全て『インベントリ』などに収納しておけば良いから、砂浜に自分たちの荷物置き場を確保しておく必要もない。
(とりあえず、着替えようかな……)
配布された水着には【瞬間装備変更】という特別な効果が付与されているから、どの衣装からでも一瞬で水着に着替えることが可能だ。
特に更衣室なども必要無いから―――砂浜に出たシズは、その場で躊躇することなく、普段着から『水着』へと衣装を変更した。
《黒ビキニ!》
《ビキニ天使ちゃんが来たぞ!》
《大胆ですわ! お姉さま!》
「別に大胆でも無いと思うけどなあ……」
視聴者からのコメントに、シズは苦笑しながらそう答える。
確かにビキニの水着ではあるのだけれど。シズの場合は胸部を始めとして、特に身体の起伏に富んでいるわけでも無いから、言うほど大胆な着こなしになっているわけでもない。
もちろんお腹が露出してはいるけれど―――それだけだ。
着用者当人のシズとしては、大して露出面積が多い水着だとも思わなかった。
「ふふ。シズ姉様はスタイルが綺麗ですから、視聴者に大人気ですね」
「それを言うなら、イズミも似たようなものじゃない」
イズミから掛けられた言葉に、シズは即座にそう告げ返す。
シズとイズミはお互いに胸が無く、身体の起伏に乏しく、アスリート寄りの体形をしているという点でとてもよく似ているからだ。
「私ひとりが色々言われるのも何だし、イズミも仲間になってよ」
「シズ姉様がそう仰るなら、仕方ありませんね」
シズの要請を受けて、イズミもその場で『水着』へと着替えてくれる。
イズミの水着は、水色をベースに白のアクセントが入ったものだ。
シズと同じくビキニの水着なので、彼女の綺麗なお腹が全部見えている。
《イズミちゃんも大胆ですわ!》
《スレンダービキニ百合! そういうのもあるのか!》
《ああ……。シズお姉さまのお腹と、イズミちゃんのお腹に挟まれたい……》
《何その超贅沢。幾ら払えばそのサービスを受けられますか!》
「挟まれてどうするのさ……」
視聴者からのコメントに、思わずシズは苦笑する。
ちなみに、元々ワンピースの水着にしようとしていたイズミに、ビキニを着るよう強く求めたのはシズだったりする。
イズミはお腹が弱点で、シズが軽く指先を這わせるだけでも、とても可愛らしい声を聞かせてくれるから。
いつでもその声が聴けるように―――敢えてイズミには、お腹が出ている水着を着てくれるよう求めたのだ。
「シズお姉さま、どうでしょうか?」
「うん。ユーリもプラムも、とても良く似合ってる」
ちなみにユーリとプラムの2人はどちらもワンピースの水着で、ユーリのほうは森林種らしく『緑』をベースにしたシンプルな水着だ。
一方のプラムの方は、背中が大胆に開いている割にフリルが多めで可愛らしさも兼ね備えた、ちょっと不思議な印象の黒の水着になっている。
どちらも2人の性格やキャラクターに似合っていて、とっても可愛らしい。
その気持ちを伝えるように、シズは2人の頬に軽く唇を付けると。
2人の方からもまた、それに応えるようにシズの両頬にキスを返してくれた。
《百合キス尊い……》
《この4人は箱推し以外有り得ませんぞ》
《こんな映像を無料で見ていて良いのか……》
視聴者が何か言っているけれど、気に留めずその場でストレッチをする。
ゲームの中でもストレッチが必要なのかどうかは判らないけれど。これから泳ぐのなら、予め身体を解しておかない方が違和感がありそうだったからだ。
「魔物が居ないと判っているのは、安心できて良いですわね」
「それは、本当にそうだねえ」
プラムの言葉に、シズは頷きながら答える。
本日7月16日の『海の日』は、沿岸部や近海に魔物が一切出現しなくなる。
―――という旨が、既にゲームの運営側から告知されていた。
だからこうして防御力が『0』に等しい『水着』を着用して、海の側で無防備にストレッチをしていても、特に危険は無いというわけだ。
「とりあえず、適当に泳いでみよっか」
「はい、そうですね」
4人で手を取り合って、早速海の方へと繰り出してみる。
足首を撫でる海の水は最初、とても冷たいものに感じられていた。
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お読み下さりありがとうございました。
頂いております誤字指摘は、少しずつ修正を反映させて頂こうと思います。