「龍の森」捜索其の玖
「....」
誰もいない部屋の中で、あるハンターは静かに弓を下ろした。
土埃にまみれた服を脱ぎ、薄手の部屋着に着替えると、長旅の疲れをいやすべく、ベッドにごろりと横になった。
「........いつにも増して疲れたなあ....」
少し白髪の混じる髪を触ったハンターは、深いため息をついた。
親が死亡した後、生活のために若くから始めた魔物狩りも、はや数十年。今回のような長旅は幾度となく経験済みだ。
「......歳のせいだけではない、だろうな。」
数多の修羅も潜り抜けたつもりだ。だが、今回限りは彼にとっても異常なものだった。
若かりし頃の敗戦以来、数十年ぶりに「龍の森」に討伐へ向かうというので、新米時代の友と、若いハンターと共に興味本位で向かった。表向きは近頃の異変の調査、という事になっていたが、隊長であり、若き自分を率いていたガルーンは、最初から嘗ての龍の仕業と決めつけ、討伐を目標としていたようだ。
「........『あれ』は一体何だったんだろうな........」
森に入るとすぐに調査に入り、高価で取引されそうな魔物も数匹狩った。調査のためにさらに進もうとしたとき、「それ」は突然現れた。
空に浮かんだ巨大な炎、そして、その生成主と思われる黒い魔物。最初は数十年ぶりの黒龍かと思っていたが、近くで見るとその認識は誤りだった事に気が付かれた。
「あの黒い魔物は龍ではない........むしろ、龍の森に攻めてきた敵だ.....」
その後に発生した摩訶不思議な出来事の数々。空に浮かんだ黒い球、突如降り出した大雨と降り注ぐ炎。
そして、あの魔法陣。
「他のハンターは.....ガルーンも含め、記憶が一部無くなっている........誰もあの光景を覚えていないとはなあ」
危機一髪森の外へ避難した彼は、他の5人のハンターと共に、森が銀色の無数の蛇に包まれる光景をしっかりと記憶していた。
「一体どうなってしまったのか........まあ、王宮会議での結論を待つか。」
ハンターがふと窓に目をやると、たった今帰城した「龍の森大規模討伐部隊」が招集されているであろう城が視界の端に映った。