死と再生のウロボロス
「.......そんなものが」
「ああ。今この状況にうってつけの物ではないか?」
そう言って、フロウはにこりと笑った。
今まさに必要なものだ。このままだと遠くないうちにこの森は焦土か湖になるだろう。この森ごと破壊してし無かったことにすれば、後は再生魔術ででどうにかなる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!そんなことされたら、オレが困っちまう!!」
「シャトー、こまる!!」
フロウが、では.......と俺に術を教えようとすると、シャトーと共に、珍しくオーガが止めに入った。
「うん?何かあるのか?」
フロウが怪訝そうに聞くと、シャトーが当たり前だ!と言わんばかりに声を上げた。
「お前たち、何か忘れてないか?!この森には、オレの、オーガの、城があるんだぞ?!」
「おしろ、こわれる!」
「.......そうだったな。」
そんなものがあったな。いや、今まで全力で守ろうとしてたのに、今の今まですっかり忘れてたな。
「お前の住処は何とかなるかもしれないけど.......こっちはただの城じゃなくて“オレ”なんだよ!」
「そうだったな。城を壊せばお主が死んでしまうな。」
結構大事なことを忘れてたんだなこの白蛇.......
「シャトーしぬ!だめ!」
オーガも必死に訴えると、フロウはにこりと笑った。
「安心してくれ龍の子よ。『ウロボロス』を使うときだけシャトー(城)を隔絶しておこう。そうすればいいだろう?」
あんた空間ですら操れるのか?すごいことができるんだな。
「なら.......まあ....」
「ではそうしよう。」
シャトーも渋々納得し、フロウはパチン、と両手を合わせた。
「ほら、これでよし。」
「あ.......」
「よかったー……」
「おしろ、きえた!」
フロウが再び手を離した瞬間、今まで、僅かに視界に入っていた城が、跡形もなく消えた。
隔絶、と言っていたから、恐らくこの世界ではない別の亜空間にあるのだろうな。
「では、始めよう。死と再生の時間だ。」
フロウはにこりと笑うと、俺に「白水蛇」の魔導書集を出すように言った。
「.......これを、どうすれば?」
言われたとおりに出すと、フロウは懐から小さな石を取り出した。
「ここに白蛇の.......まあ、私の魔力か込めてある。これをこうして......」
フロウは俺の手を取り、その石を握らせると、魔導書集の上に乗せた。
「さあ、後は破壊したい範囲を具体的に想像するのだ。そうしたら、呪文を唱えるだけ。念のため私も力添えをしよう。」
かなり簡単だな。「死と再生の.....」とか言うから、祭壇とかでやるのかと思ったのだが。
「もう心配することは無いからな!思いっきりやってくれ!」
「球形を想像すれば、炎鳥もろとも、だ。」
「りりす、がんばる!」
最後に貴重な情報をありがとう。普通に平面で破壊して炎鳥だけが残るところだったぞ。
俺は、少しひんやりする透明な石に手を添え、龍の森を包み込む巨大な球を想像した。
「始まりは終わり、終わりは始まり.......」
刹那、荒れ果てた巨大な森を、大きな魔方陣が包み込む。
「死と再生の時間.......今、ここに。」
森全体に展開された魔法陣から、フロウの鱗にも似た、銀色の光が溢れた。
「白蛇の輪廻........『ウロボロス。』」
呪文を唱えた瞬間、魔法陣から、一匹の巨大な銀色の蛇が出現した。光を受け煌めくその蛇は、尋常ならざる速さで、炎鳥もろとも巻き込んで髑髏を巻いた。
そして、大きな球となったその蛇は、轟音と共に森の全てを破壊し、眩い光と共に消えていった。