視界と後の祭り/「龍の森」捜索其の漆
「なんにも見えねえ!!」
「くろい......まっくら....」
「......生きてるだけマシじゃないか?」
黒い炎に包まれた結界の中で、俺達は何とか生きていた。
視界はお互いが何とか見える程度。元々オーガに至っては声が聞こえるだけだが、それ以外は闇に包まれている。
「ギリギリで使った防御魔術がなんとか仕事をした、って寸法か。」
「つい先日習った『白水蛇』のお陰でもある、な。」
俺は今は泡となっている「水神の使者」を見た。
炎鳥が黒い炎を放つ直前に、「赤眼」の変則的な使い方で攻撃の範囲を特定した。こういう使い方は人によって様々な治療で慣れている。
その結果がこれだが。目の前が赤く染まった俺の身にもなって欲しい。その後は自分が持てる水系統の最大の防御術を使い、それを「白鱗」で威力を上げた。確か申し訳程度に認識疎外もかけたが、意味をなさなかったな。
「......フロウには礼を言っておかなきゃなんないな。」
その時は俺も同行する。フロウ様様だからな。
「んで?このあとどうする?この炎はしばらく収まりそうにないんだが......」
オーガの言うとおり、真っ暗になった結界の中は元に戻りそうにない。かといってやみくもに攻撃してもただの無駄だ。
「......水竜が攻撃に使えない今、間違いなく俺は無力だ。オーガも視界不良で攻撃しようものなら、自滅に繋がりかねない。」
「でもなあ......このままだと、結界が持たない......ん?」
シャトーが言葉を切った時、俺の耳にピシピシというとが聞こえた。
「けっかい.......?」
今明らかにマズい音がしなかったか?
「なんか.......マズい音しなかったか?」
流石に今回はそう思ったか。
そんな話をしている間にも、追い打ちをかけるように更にひび割れるような音が聞こえた。
「.......どうにかできないのか?」
「....リリス坊。『後の祭り』って言葉知ってるか?」
今更強化したところで無駄だと。それぐらいこの炎が強力だったんだな。
いや、感心している場合じゃないな。このままいくと一応悠久の時を生きたお城が使った恐らく超強力な魔術ですら抑えられない炎が天然の可燃物に解き放たれることになる。
「オーガ、多分無駄だけど威力減衰を準備してくれ。」
「ん!」
「リリス坊も、対炎系の魔術があったら準備してくれ。」
既に最悪の場合を考えるとは先見の明があるな。いや、ある意味でないというべきだろうか。
「分かった。結界が破れた瞬間に水竜を広げられるだけ広げて防衛する。」
俺とオーガとシャトーが覚悟を決めたその時、それまでより大きなひび割れの後、パリン、という音が耳に届いた。
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「あやつ.......あの時よりも強くなっておるのう。」
ガルーンは鷲の上から、つい先ほど黒々とした炎へと形を変えた因縁の相手を見ていた。
その炎から彷彿されられる、まさに黒い記憶が脳裏によみがえった。
「だが、このガルーンも強くなったぞ?」
その記憶を消し去るかのように頭を軽く振ったガルーンは、その名の通り銀色に輝く槍をしっかりと握りしめると、ゆっくりと構えた。
「高度、距離、共に問題ありません。風もなく、衝撃波も収まりつつありますので、今が適当かと。」
老兵士の言葉に、ガルーンは頷いた。
「そうだな。」
そう言うと、槍を持った手を後ろに引き自身の代名詞でもある魔術を唱えた。
「『銀槍』」
ガルーンの体が煌々と煌めき、全ての力が槍を持つ手へと集約される。
「これで、終いじゃ!」
ガルーンは、その力を全て使い、渾身の力で槍を投げた。
槍は光の矢のように黒い炎へと吸い込まれていった。
「当たったか?」
「は、ただいま確認を.......」
しかし、ガルーンの声に老兵士が答えるより早く、彼の耳に何かが割れるような音が聞こえた。
いざ、開幕