「龍の森」捜索其の伍
森のあちらこちらで炎や弓が空に打ち上げられる様子を見ていたガルーンの元へ、一人の兵士が駆け寄った。
「戦況のほうはどうだ?」
ガルーンが尋ねると、兵士は口籠った。
「はっ、それが......」
「どうした?それ程に深刻なものなのか?」
「......それが、龍に、全く攻撃が届いていないのです。」
兵士の言葉に、ガルーンは目を見開いた。
「攻撃が効かない、ではなく、攻撃が届かない、だと?」
ガルーンの強い言葉に、兵士は少し怯みながらも状況を説明した。
「先程から行われている攻撃ですが......攻撃対象である龍の高度があまりにも高く、全てのハンターの攻撃可能範囲を超えているようです。最大遠距離攻撃能力を誇る『赤い糸』ですら届かないと....」
「そこまでであったか......」
ガルーンも名前が呼ばれたハンターの攻撃可能範囲は認知している。あれで届かないはずがないと踏んできただけに、この報告はガルーンに大きな衝撃をもたらした。
「加えて、上空に上がって攻撃範囲を広げようとすると、不規則に放たれる咆哮によって地面に叩きつけられてしまい、手も足も出ない状況でして......」
タイミングよく、空にいる黒い怪物が咆哮した。その凄まじい威力に兵士は後方に飛ばされ、ガルーンも踏ん張ったものの少し後ずさりせざるを得なかった。
「うむ......想定していたよりも状況が芳しくないないな....」
兵士が去った後ガルーンは一人考えた。当初の作戦では、ハンターにできるだけ龍の体力を削らせ、弱ったところに、精鋭ぞろいの王国治安部隊とガルーン、および全ハンターで袋叩きにする予定だった。
しかし、ハンターの攻撃が全く届かないとなれば、作戦を変更するしかない。
「仕方あるまい....」
ガルーンは小さな声で言うと、そばにいた老兵士に告げた。
「......作戦変更だ。これより、王国治安部隊の総攻撃へと移行する。各ハンターにはそのまま攻撃を続けさせろ。」
「は。して、ガルーン様は?」
老兵士の問いに、ガルーンは静かに答えた。
「決まっているだろう?この『銀槍』ガルーンも、攻撃に参加する。」
老兵士が伝令へと向かう姿を見ながら、ガルーンは静かに、自分の代名詞でもある銀の槍を強く握った。