文字と轟音
「それで......この魔導書は....?」
オーガとシャトーからの「かっこいい」「すごい」の集中砲火を浴びた後、俺はふと手元の本を見た。
「水色だな......というか、水みたいだ。」
シャトー(本)が魔導書(本)を覗き見ているのは奇妙な光景だな。
「この色からして、こいつが....リリス坊と一体化した竜が使える術なんじゃないか?ほら、なんか書いてあるし」
シャトーに言われた通り、本には水が浮き上がるようにして文字が書かれていた。
「....『飛魚』、『荒波』、『せせらぎ』......水系統ばかりだな。」
しかも、どの術も俺が習得している物ばかりだ。それに、つい最近習得した「白水蛇」も入っている。つまり、この竜には俺が習得している水系統の魔術のみが使わせることができるのか。
「名は体を表す、っていうし、竜が使えるやつなんじゃないのか?ちょっとやってみようぜ!」
興奮気味だな。やってみないと分からない、という事もあるが...この竜の力がどの位か分からない今、迂闊に強めの術を繰り出してしまえば結界が割れる可能性もある。ここは少し、弱い物で試してみよう。
「......よし」
使う術を決めると、俺は悠々と浮遊し続ける水の竜に向かって、右手を出した。
「『滝つぼ』!」
すると、いつもは俺の目の前に展開される魔法陣が、水竜の頭上に展開された。しかも、かなり大きい。
「......お?」
「りりす、まほうじんじゃない?」
流石のオーガとシャトーも困惑していたが、一番困惑していたのは俺だった。
「魔法陣、大きくないか......?」
てっきり俺と同じくらいの魔法陣だと思っていたのだが?これだと状況が変わってくるぞ?
そんなことを考えているうちに、竜は魔法陣に向かって大きく咆哮した。
え?あれは完全に撃つ流れだよな?「滝つぼ」はいくら弱いと言っても、相手を水圧で叩きつける攻撃系の術なんだが?あの魔法陣の大きさ、俺がいつも使っているやつの5倍はあるぞ?俺が使ってもかなりの威力があるのだが?
「......マズい、かもしれない。」
「オーガ!後ろに下がれ!」
「ん!」
俺の声色から深刻度を感じたシャトーがオーガに指示を出した直後、魔法陣から炎鳥の咆哮に負けないほどの轟音をうならせながら、一年ぐらいは生活できそうな量の水が、ただ一羽状況の呑み込めない炎の鳥へと降り注いだ。