聴力と対峙
「.....これで本当にくるのか?」
「ここらで一番の炎の元にやって来る、らしいから....来る!はずだ!」
自信がないことを隠そうともしない返事をありがとう。
「おっきいひ!炎鳥、くる!」
ごうごうと燃える火の玉を前に、オーガが元気よく言った。あいつは暑くないのか?
まあ、今俺の前にある火球は俺の短い人生史上最も大きい物だというのは確かだ。これで来なかったら、オーガに威力増強魔術を掛けてみるしかないが......
「......ん?今、なんか聞こえたぞ?」
本(城?)のくせにやたらと耳がいいシャトーが、ぼそりと呟いた。もちろん、俺には何も聞こえない。
「......方向は?」
「オーガの作った火球の......前からだ。炎鳥の、巣の方角......」
シャトーが言いかけた時、巨大な何かが風を切る音が、俺にもはっきりと聞こえた。
「炎鳥、きた!」
バサバサと言う翼の音がこちらに迫って来た。
「......『赤眼』。」
どうにも見えないので、魔術を使うと、遥か前方に、黒い点が見えた。
「......あれか?」
「そうだ!多分、それだ!大きいぞ!オレ達よりもある!」
俺たちよりも?オーガですら大きいのだが?
「風圧で落とされるなよリリス坊!一応術で固定しておくぜ!」
それは助かる。
そんな話をしていると、小さいように見えた点は、影となり、遂には大きな鳥の姿になった。
「......大きいな。」
既に俺達よりも大きい。多分、もっと近くに来たら3倍か4倍にはなるだろう。
「言っただろ?かなり大きいって。さ、そろそろ結界の準備をしないとな!」
シャトーはそう言うと、いそいそと空へと飛んで行った。
......本って燃えないのか?
どんどんと迫る炎鳥は、俺が想像していたよりも4倍ほど大きい姿を現した。「炎鳥」と言うのには似つかない、赤黒とした体。漆黒の中に所々混ざる赤い羽根。同じく黒い嘴が、俺の前で大きく開かれた。
「......っ『魔狼の咆哮』!」
俺が叫ぶと同時に、炎鳥が張り裂けんばかりの鳴き声を上げた。
「うおー、流石だな。びりびりするぜ。」
あんた、呑気だな。結界は張ったのか?
「結界はもちろん張って来たぜ!ナイス判断だリリス坊!」
そりゃ、どうも。
「......そうか。」
「炎鳥、たおす!りりす、がんばる!」
結界を張ったことをいいことに、炎をさらに強くして牽制したオーガが叫んだ。
「そうだぜリリス坊!さ、練習の成果を見せてやれ!」
「分かった......『水神の使者』。」
俺が術を唱えると、たちまち水の竜が炎鳥と対峙した。