スピードと純粋
「どうだリリス坊?乗り心地もそんなに悪くないだろう?」
「まあ、な。」
俺が想像していたような乗り心地の悪さは無いな。もっとごつごつしているかと思った。
「しかし.....本当に、龍、だったんだな。」
いまだに現実をすべて受け入れられていないが、どうやら、俺は今空を飛んでいるらしい。
いや、「オーガが龍であって空を飛べる」という既成事実に基づいて作戦は立てていたんのだがな。「分かる」と「受け入れる」は違うんだよな......
「当たり前だろ?なんたって、オーガは幻獣族の中の幻獣族、黒龍の子供だぜ?」
ま、オレはしがない魔術師だけどな、とシャトーは言った。嘘つけ、お前だって悠久の時代を生きた(?)城の中の城(?)じゃないか。
「りりす!」
シャトーとどうでもいい会話をしていると、俺のかなり前方からオーガの声がした。
え、龍って、喋れるのか?
「発声魔術だぜ。流石に龍は喋れないからな!」
ナイス先読みだな。今まさにそれを聞こうとしていたんだ。
「......どうした?」
「オーガ、かっこい?」
カッコいいか、という事か?
俺は改めて、見える範囲で自分が乗っている生き物.....黒龍を見た。
鱗は黒くて、全体的に黒くて.....目は.....多分、赤だな。オーガの要素がそのまま龍になった、と言ったような感じだな。時々キラキラしているのも......カッコいい、と言えるだろう。
「そうだな.......カッコいいぞ、オーガ。」
「!.......オーガ、かっこいい!!」
よっぽど嬉しかったのか、突然高度とスピードが上がった。
「おっと.......!」
「オ、オーガ!ちょ、ちょっと、スピードを落とそうな。な?」
シャトーが慌ててたしなめると、オーガははっ、として元のスピードに戻った。
「そろそろいいんじゃないか?お城からの十分離れたしな!」
「.......まあ、いいと思うが。」
「ん!ほのお!」
暫くして、かなり離れた.......と言っても、森の終わりは見えない場所まで到達した。
ここからはオーガの仕事だ。この中で恐らく最高火力を誇るオーガに、炎鳥を引き寄せる程度の炎を出してもらわなければならない。
「いいか、オーガ!絶対に森に引火させるんじゃないぞ!上空で収めるんだ!何なら高度も上げていい!竜巻じゃないぞ!火の玉だ!動かすなよ!結界を張るときに的が絞れなくなるからな!」
「ん!」
俺だったらこれだけ言われた時点でシャトーに向かって火の玉をぶつけたところだが、オーガの純粋さの成せる業だ。何一つ文句も言わず、炎を吹きだす態勢に入った。
「ちょーと、熱いかもしれないから、冷却魔術でもかけておくといいぜ☆」
ちょっとレベルじゃないと思うのは俺だけか?
「『氷の泉』」
「ん!」
俺が体温調整の魔術を掛け終わるのと同時に、オーガが口から炎を吐き出した。
来週はお休みです。すみません