無責任と腹ごしらえ
「本当に........竜、だな」
こんなものを自分が作ったのかと信じられない。よく古めの本で見る、まさしく竜だ。
「これは水でできてるがなあ、本物はとっっっても綺麗なんだぞ!白くてな、キラキラしててな!」
隣でシャトーが興奮気味にまくし立てている。俺もそのような竜を想像していたが、あくまで想像だ。シャトーがこれだけ言うということは、さぞかし綺麗なのだろう。
「りゅう!りゅう!おっきい!」
「龍の子も喜んでいるなあ。」
フロウが柔らかく微笑んだ。
「して人の子よ。炎の鳥を倒すのであったな?」
「はい。」
俺が水を取りに行った時のことを覚えていたのか。
「ふむ。では、炎の鳥の事を教えておかなければならないな。」
あ、それは一応シャトーから説明を受けたのだが........
「炎の鳥はその名の通り炎を吹く。が、それに気を取られ過ぎてはいけない。」
ああ、シャトーが言っていたな。翼を振り回して吹き飛ばすとか......
「あやつは炎の他にも鳴き声にも気を付けなければいけない。」
ちょっと待て。それは聞いていないぞ。俺が聞いたのは炎と翼だけなのだが?そんなことは一言も言っていなかったのだが?
「あやつも鳥だ。そして大きい。それなりの声は出る。」
シャトーをちらりと見ると、そっぽを向いて口笛を吹いていた。この無責任め。
「空で戦うとなれば遮蔽物も無いだろう。十分に心して掛かるといい。」
「........ありがとうございます。」
有益な情報が手に入ったな。もしこれを知らずに突っ込んでいっていたら、もれなく鼓膜が使い物にならなくなるところだった。
「........まあ、それぐらいに気を付けていれば、人の子と龍の子、城守なら何とかなるだろう。」
その城守が大事な情報をくれなかったのだが?間地かでデスボイス(仮)をくらう羽目になりかけたのだが?
「そう、ですか?」
「ああ、この間中創造主の形を保てたのだ。十分に闘える。」
その言葉で俺は、やっと自分が竜の形を無意識に保ち続けていたことに気が付いた。
「........あ。」
「おお!言われてみればそうだったな!」
反省したのかしていないのか分からない無責任保護者が、俺の竜を見上げた。竜は相変わらず空に浮き、シャトーが周りをぐるぐると回っている。
「ふふふ。気が付いていなかったのか。なら、なおさら安心だ。心配するでない、人の子よ。いざというときには我も助太刀致そう。」
それは有難い。
「........ありがとう、ございます。」
「では、我は失礼いたそう。健闘を祈っているぞ。」
フロウはそう言うと、手をヒラヒラとさせながら霧の中に消えていった。
「よし!これで準備は十分だな!後は今日!か、明日!炎鳥を誘き出して倒すだけだ!」
「ん!」
「安心しろ!誘き出す方法は考えてあるからな!」
誘き出す方法"は"考えてあるんだな。
俺の視線に気が付いたのか、シャトーはそそくさと俺から距離を取った。
「じゃあ、城に戻って腹ごしらえだ!オーガにもたくさん動いてもらうからな!」
「ん!オーガ、とぶ!」
まあ、結果として事前に情報が分かったのだからよしとするか。
「ごはん!いっぱいたべる!」
きっと保存しておいた燻製と言う燻製が食べ尽くされるのだと思いながら、俺も二人の後に続いた。
次回はここまでのまとめ回の予定です