岩穴と変化
「フロウ!きた!」
最初に来た時と何ら変わらない美しい泉に向かい、オーガが嬉しそうにフロウを呼んだ。泉の中で遊ぶ気満々らしく、既に狼に変身している。
「突然申し訳ない。少し、用事があって来たのだが........」
オーガが呼んでも返答がなく、聞こえていないのかと思い俺も挨拶をした。
「........ああ、貴公達か。すまない、少し奥にいたものでな.....」
オーガがもう一度呼ぼうとしたとき、岩穴の奥からフロウの声がした。
「フロウ!」
オーガがいそいそと駈け出していくと、オレのよく知るフロウが岩穴から顔を出す
「.....ん?」
はずだった。
「フロウ!げんき?」
「ああ。こちらは変わりないぞ。龍の子よ。」
そう言ってオーガの頭を撫でるフロウは、どう見ても人間の姿をしていた。白く、本来の姿の鱗のようにキラキラと輝く長い髪、オーガとは少し違う色をした赤い目、服は、俺がシャトーに創ってもらったものによく似ていたが、それよりも華やかだった。
「あ、えっと.....フロウ?」
「おお、人の子よ。そなたも変わりないようでなによりだ。」
そちらは変わりまくってるけどな。あんた、いつの間にそんな技を覚えたんだ?
俺が驚いていることに気が付いたフロウが、オーガを撫でながらああ、と説明をした。
「これは、特に特別なものではない。この森に.....いや、人の子と良い関係を築きたい、と願う幻獣は、皆身に付けているものだ。この、龍の子もだ。」
........なるほど?オーガが特別だと思っていたのだが、幻獣だったらほぼ誰でもできるんだな。それもかなり美形に。いや、素材がいいのかもしれないけれど。
「こちらの方が、人の子にも恐れられることも無いだろう?」
それはそうだな。いくら美しい白蛇といえど、突然出てきたら驚くな。まあ、オーガの場合は狼でも特段驚くことは........
「特に龍の子や不死鳥、巨人ともなれば、恐れられることも多いからなあ」
いや、オーガは龍王、だったな。そういえば、俺は一度も龍の姿を見たことが無いのだが........子供だから、そこまで大きくないのだろうな。だから、こんなかわいらしい見た目をしているのだろうな。
「そう言う事でしたか........」
「ああ、すまない。話がそれてしまったな。確か、何か用事があると言っていたが、どのような類だ?」
このままいくと脱線しそうだった話を戻してくれたフロウに、俺もああ、と本題を言った。
「実は........その、とある魔導書を創るためにこの泉の水が必要なんだ。度々で申し訳ないが、分けてもらえないだろうか。」
「みず、まどうしょ、つくる!」
「もちろん構わないぞ。泉は誰かを潤すためにある。私の物ではないのだ。自由に使っても大丈夫だ。」
フロウは当然のことと言わんばかりにゆったりと笑った。
これが、(恐らく)悠久の時を永らえた幻獣の余裕........
どこかのケチな同僚とは全然違う.....
「それは有難い。ご協力、感謝いたします。」
「ふろう、ありがと!」
この間ずっと撫でられていたオーガもしっかりとお礼を言った。
では、お言葉に甘えて使わせてもらおう。