時間とおつかい
「や~!やっぱり、自分で獲った魚は美味いな!」
「ん!」
魚を心ゆくまで食べたオーガはご満足のようだ。シャトーは........食べていないのに食べたような感想を言っているが。
「さて、残りは........」
残り、と言っても籠1つと半分ぐらいだ。やはり育ち盛りの龍王の胃袋は凄まじいな。まあ、全部食べられないでよかった。
「残りはどうするんだ?燻製、とか言ってたな。」
「くんせい?」
ああ。燻製にする予定だ。干物でもいいが、残念ながら俺には捌く技能が無い。そのまま干すと腸や内臓が腐るらしい。せっかくの魚が台無しになってしまう。
「そうだ。これを煙でいぶす。時間がかかるから城の屋根のある場所でやりたいんだ。一度城に戻らないか?」
ここでやってもいいが、雨でも降られたら大変だからな。
「わかった!皆で籠を持てばいいんだな!」
言うが早いかシャトーが一つ出来上がった。念のために空の籠にしてもらおう。残りの籠をオーガと俺で持ち、二つはもう一度仕掛けて城に戻った。
「で、これで待てばいいんだな?」
「ああ。しばらくすれば燻製ができるはずだ。そしたら食料庫に持って行けばいい。かなり持つはずだから保存食としても使えるぞ。」
「ずっとおいしい?」
「そうだ。」
俺達は燻されていく魚の周りで林檎園を見ていた。
そういえば、あの白蛇の元に行ったのも、しばらく前だったな。俺が来てずいぶん経つんじゃないか?ここに来てからのカルチャーショックが大きすぎて随分時間が早く感じるが、それ相応なりに経っているのだろうか。
「ところでリリス坊。なんかいい魔術は見つかったか?」
俺が感慨にふけっていると、木の枝が話しかけてきた。そいういえば、一番最初に驚いたのはこいつと言う存在だったな。
「........ああ。だが、存在が不明確なんだ。」
話そうと思っていたことを思い出し、俺は印をつけておいたページを見せた。
「これ、なんだが。」
「ふむ。『炎鳥』か........」
「魔法石を取るときは、大抵瀕死か死亡かのダメージを与えななければならない、と聞いた。それに、同じものが何羽もいるわけではないだろう?もう存在していない可能性の方が高いと思うのでが........」
俺が自分の情報を頼りに説明すると、オーガはあっけらかんとと答えた。
「いいじゃないか!これ。かなり強力な術だぞ!」
俺はその素材がいないかもしれないのでは、と聞いているのだが?
「それを選ぶなんて、さすがリリス坊だ!いや~、それを渡した甲斐があったぜ!」
あの、人の話は聞こえるか?
「........シャトー、この鳥は........」
「もちろん!今でもいるさ!というか、あのウルフだってまだ生きてるぜ!」
よかった。まだ難聴は始まっていないようだな。
ところで今、ウルフも生きている、って言わなかったか?
「あのウルフも生きているのか?」
「そうだ。この森には『魔力の根源』って言うのがあってだな。そいつを持っているやつを倒さない限り、あいつらは何度でも魔法石を復活させて生き返る、って訳よ!」
なるほど。幻獣と言うのは便利だな。
「だからそんな心配しなくていいぜ!で、他の素材はなんだ?」
俺の心配を一瞬で解決したシャトーは、幻獣術伝を眺めた。炎鳥以外は水晶、聖なる水、クスノキの枝だ。
「水晶と枝は探せば何とかなるな。聖なる水は........フロウのところだな!」
聖なる水はあそこから取ってくるしかないんだな。
「じゃあ、燻製ができたらオーガと一緒に行けばいいな!俺は水晶を見てくるぜ!」
シャトーはくるりと向きを変え、オーガを呼んだ。
「オーガ、これが終わったらおつかいだ!リリス坊と一緒にフロウのところに水をもらいに行ってくれ!」
「ん!フロウ!」
オーガも嬉しそうだな。俺もあそこは景色がいいから好きだ。また行けるのは、嬉しいな。