防衛と価値
「『幻獣術伝』?」
本を手にした俺が訝しげに呟くと、シャトーがああ、と説明を加えた。
「その本はな、オーガとオレ、つまり幻獣族が使っている魔術が載ってるんだぜ!」
幻獣族が使う魔術........だから、「幻獣術」か。
「それだけじゃないぜ!こっちのもそうだ。あとこれもだから........3冊あるぞ!」
一冊で俺の術師人生史上一番分厚い魔術集なんだが。これが3冊もあるのか。
「.......かなりたくさん載ってるんだな」
「そうだとも!何たって、幻獣族は長生きなんだ。新しい魔術もどんどん生まれるって訳さ!」
なんか、自分の事みたいだな。城は、幻獣族に入るのか?ある意味幻獣なのか?
「それで........これをどうするんだ?」
俺に渡すという事は何か意味があるんだろう?これを使って何をすればいいんだ?
「そりゃもう、リリス坊に使ってもらうためだ!」
「俺が、使う?」
それは、俺がこの本の魔術を覚えて使えるようにする、という事か?
俺が考えていると、シャトーが深刻そうな声で続けた。
「リリス坊、この前のアレ、覚えているだろう?」
「この前の........ああ。」
城崩壊未遂事件だろう?
「オーガはまだまだ魔術の制御が不十分だ。今後あんなことが起こらないとも限らないだろう?」
そうだな。寧ろ起こる確率の方が高いと言っても過言ではない。
「だから、リリス坊に魔術を使って被害を食い止めてもらいたいんだ。」
なるほど。俺を使って我が身を守って欲しいと。
「べ、別にオレのためだけじゃないぜ!強い魔術を覚えるのは、リリス坊のためにもなる。この森にはあのウルフよりも強い奴なんてたくさんいるんだからな!」
まあ、そうだが。
「確かにそれは有り難いが、これ、そんなにホイホイ渡していい物なのか?」
そっちの世界ではどうか知らないが、俺たち術師の間では強力な術を教えてもらうのであればそれなりの対価が必要だった。お金や貴重な素材、情報とかを持って行かないと教えてもらえなかったんだが。
「いや、まあ、確かに編纂に何十年とかかったらしいが........ここが壊れる方が問題だろ?」
そんな理由でホイホイ渡していいのか........?
「まあ、管理はリリス坊に任せるというか........なんかあったらここの戻ってくるようにしてあるし、失くすことはないと思うけど、自由に使ってくれ!大体の素材はこの森の中かこの中にあるからな!いい魔術を覚えたら見せてくれよ!」
シャトーはそう言うと、日が暮れてきたことに気付き、オーガを呼びに行った。
何かあったら戻ってくるって........これ、かなり貴重なものじゃないのか? こんな理由で渡していいものだとは思えないのだが........
部屋に戻ってからゆっくりと見てみよう。そう決めた俺は、ひとまずオーガの呼ぶ声の方へと、歩いた。