倉庫と弟
「しかしリリス坊も考えたな!釣りがダメなら罠を張る手があったか!」
倉庫に向かう廊下を歩きながらシャトーが俺に言った。
考えるも何も、これぐらいしか方法が残ってないだろう?運よく籠があったからできたんだが。昔教えてくれた患者に感謝しなくては。
「........まあ、な。人に教わったんだ。漁師をしていて、俺が治療したな。」
「ほ~?リリス坊、お城で医者をしてたんじゃなかったのか?フツーの人も治していたのか?」
そこに食いつくのか。
「俺は最初から王宮にいたんじゃないんだ。王宮に入る前は城下の医院で医者をしていたんだ。」
「なるほどなあ。じゃあ、今その いいん、ってやつ止めちゃったのか?」
「いや。今は、弟がやっているはずだ。」
まあ、城下と言っても貧民街に近いからなあ........多分、あいつも俺が此処に居るのは知らないだろう。
王宮に入ってからはあまり会えていなかったが、元気だろうか。
「じゃあなんでリリス坊は王宮に行ったんだ?オレの勘だと、明らかに人付き合いが下手そうな気がするんだが........」
あー‥‥‥‥‥まあ、間違いではないな。金持ちとか、貴族とかは価値観が違うから付き合いづらいと言えば付き合いづらかったな。
まあ、俺が入ったのは断れない理由があったんだ。
「それはな......道端に倒れていた人を助けたのが......王家の偉い人だったらしいんだ。それで、是非とも来てほしいと言われて......」
「........不可抗力、てやつか。」
名前は忘れたが......見た目からして王家お抱えのハンターか術師だと思う。その人が今王家の専属の医者を探しているから、ぜひ試験を受けてみたらどうだ、と強引に申し込んだんだ。
「じゃあ、仕方がないなあ。」
「........仕方がなかったんだ。」
シャトーなりに慰めてくれたんだと思う。多分。
「えーと、籠は........この辺だな!」
倉庫に入り、今まであった場所に籠を戻した。
これで終りと、俺が戻ろうとすると、シャトーが俺を呼び止めた。
「リリス坊、リリス坊。ちょっと、リリス坊に教えたいことがあってだな。」
あのシャトーが自分から手伝うなんて何かあるとは思ったが.....
「なんだ?」
「ちょっとこっちに来てくれ!」
シャトーが動きやすいように燭台に乗り移ると、棚の隙間を縫って俺がまだ入ったことのない倉庫の奥へと進んでいった。