決行と愚か者
シャトーはオーガと俺の前に出ると、いつの間に仕込んだのか、オーガのポケットから小さな小瓶を取り出した。
「いいか、まず、オレがこいつでモンスターを集める。で、リリス坊が『魔狼の咆哮』を試す。で、成功してもしなくても、オーガがモンスターを倒すんだ。いいな?」
「ん!」
分かった。成功してもしなくても俺は退避して「闘技場」と「鉄壁の砦」に集中すればいいんだな。
「オーガ、いくら離れたからって絶対に大丈夫、ってわけじゃないからな。くれぐれも気を付けてくれよ?」
「ん!きおつける!」
「頼んだぞ?」
「ん!」
初めて遠出をする子供を見送る親ぐらい確認してるな。内容は全く微笑ましくないが。
「じゃあ.......いや、もうちょっと離れて.....よし。行くぞ!」
かなり離れたな。其の分俺も障壁を移動させて.......よし、いつでもいいぞ。
「準備はいいか?」
「ん!」
「大丈夫だ。」
「そおっれ、と!」
シャトーは小さな魔方陣を展開し、瓶を遠くに投げた。瓶は地面にぶつかると音を立てて割れ、辺りに嗅ぎ慣れない匂いが広がった。
そういえばあいつ、魔術、使えたんだな。城を治していた時も使っていたような。やっぱり長生きすれば建物でも意志を持ったり術を使ったりする物なんだな。
........そんなわけないか。
「シャトー、これは?」
俺はあたりに充満した匂いの正体をシャトーに聞いた。
「これか?これはな、モンスターが好きな匂いの香水だ。この森に来たハンターがよく持ってるからな。倉庫に結構溜まってるぜ?増やそうと思えばいくらでも増やせるしな!」
狩猟用、と言うか、討伐ようだな。この森に来るハンターと言えば、かなりの腕前の人が多いだろう。それなりに強力に作ってあるんじゃないか?
周りの木々がザワザワと揺れた。
ありえないくらいの獣も気配が一斉にこちらへと向けられるのが俺でもわかった。
「お、そんなことを言ってたら来たみたいだぜ?」
それなりの.......力?今までの、あのウルフの群れですら凌駕する量の気配がするんだが?まさかあれって、調子に乗った狩人が調子に乗った調剤士に頼んだ、後先考えてない超強力なやつじゃないのか?
「やー、流石だな。周りからいっぱい集まったみたいだ。」
「いっぱい!」
いっぱい!、ってレベルじゃないぞ?これだけ力が強いのは........よっぽどの奴じゃないと......いや、そんな奴は王宮に囲われてるから.....
「いいかリリス坊!一回で十分だからな!耳は塞がないくていいぞ!オーガ、ホントに勘弁してくれよ!」
木々の間から一斉に顔を出したモンスターと言うモンスターが、俺たちに向かって襲い掛かった。
取り敢えず出処は後だ。今は俺の命が危ない。集中しなくては。
シャトーの言葉にうなずく間もなく、俺は空に向かって魔法陣を展開したした。
「『魔狼の咆哮』!」
叫ぶが早いか、魔法陣の上に紫色に煌めくウルフが現れ、森一杯に響くほどの声で吠えた。