赤眼と実害
「魔導書?........この前作らなかったか?」
「この前作ったのは魔導書"集"、だぜ!今度は一冊だけの魔導"書"、だ。」
つまり魔術も一つだけと。
「そ、前回のはかなり珍しい魔導書集だったから材料もオレが集めたけど、今回はちょっとしかないからリリス坊にも集めてもらうぜ!」
ああ........珍しかったのか。シャトーが「珍しい」と言うんだったら、こちらの世界ではかなり珍しかったのか。
「少ない、というと?」
ただシャトーの「少ない」に関しては価値観の擦り合わせが大切だな。
「えーと、狼の牙と、その石、あとは狼の爪だな。」
じゃあ、現地調達だな。ウルフはどこだ?
「........まあ、問題のウルフがどこかに消え去ったんだがな☆」
「オーガ、とばした!」
........そうだった。俺の「闘技場」は魔術は、というか魔力は障壁から出入りできないが、物理的なもの........つまり、オーガの力で吹っ飛ばされたウルフの体は障壁を飛び出すんだった。
「まあ、つまり........意地でもウルフ本体を探さないと、魔導書は創れない、という事か?」
「そういうことだな!」
そんな軽々しく言わないでくれ。ウルフの見当もつかないのに........
「ヒントもなしにそんなこと........あ。」
確か、オーガは城に向かって術を放ったな。という事は、城に向かって探せば、つまり、城に帰るようにすれば、ウルフも見つかるんじゃないか?
「分かったみたいだな、リリス坊!」
「りりす、わかった?」
俺はうーん、と考える張本人とニヤニヤしていた保護者に言った。
「城に帰る、ということか?」
「ん?.....ああ、まあそう言う事だ!」
ん?何か今返事にラグがなかったか?違うことを考えていたのか?
「なにか、不足でもあったか?」
「いや、なに......せっかく覚えたんだ、てっきり『赤眼』をつかってもいいんじゃないかなーって、思っただけだ。」
その後、まあ、城に向かうってのも間違いじゃないしな、とブツブツ続けた。
「せきがん!」
なるほどな。シャトーとしてはまだ使い慣れていない術の練習をして欲しかったわけか。確かに、探し物なんてない時はないもんな。
「りりす、せきがん!」
「オーガも見たがってるし、な?」
........まあ、そうだな。この機会だし、練習もしておかないといざと言うときに使えないか。
「分かった。」
しかし、どうしてオーガは「赤眼」を見たがるんだ?
「『赤眼』。」
俺が唱えると、体の前に、魔法陣が展開し、目が赤く光った。
「えーと、探したいものを想像して........」
「いっしょ!」
俺がウルフを探そうと(一瞬しか見ていない)ウルフの姿を何とか思い出していると、オーガの声がした。
「一緒?」
何のことかと聞き返すと、尻尾を揺らしたオーガが俺の目を指してニコニコしていた。
「りりす、め、いっしょ!」
そう言う事だったんだな、オーガが「赤眼」を見たがったのは。
一瞬ウルフの事がどうでもよくなったのは黙っておこう。
「そうだな。一緒、だな。」
オーガが、なんだなんだ?と言う顔(?)をしているシャトーに自分の目を見せに行ったタイミングで、目的を思い出した俺は、急いでなけなしの記憶からウルフを思い出した。
「........あ。」
すると、俺の前方、つまり城の方で何かが赤く光った。
あれがウルフか。あそこはどのあたりだ?城の入り口ではないな。庭の方へ逸れたのか?いや、そうではないな。もう少し詳しく........
「どうだリリス坊、ウルフは見つかったかー?」
少し詳しく城の造りを見た俺は、あることに気が付いた。
「ああ、まあ........」
「よし!ウルフはどこにいるんだ?」
城の前にあるにしては遠い。かといって、しろの向こう側まで拭きとんだのには近い。多分、こういうことだ。
「多分........城の中の大広間だ。それも、壁を貫通している。」
次の瞬間、シャトーが普段では考えられないスピードで城の方へすっ飛んでいった。
ついに、あいつに実害が出てしまったな。