闘技場と場所取り
ウルフのボスは、張り裂けんばかりに咆哮しながら迫って来た。
「大きいな......取り敢えず『鈍足』をかけて......」
一周回って冷静になった俺は時間稼ぎにウルフの足をお即死、自分には移動速度上昇をかけて少し距離を取った。
「さて、どうするオーガ?あの銛は役に立たないし......」
俺は隣にいると思っていたオーガに話しかけたが、返事がない。
「......オーガ?」
周りを見ると、オーガはウルフのボスの前に立っていた。
「オーガ、そこは危ないぞ?!」
俺の声が聞こえていないのか、鈍足がかかっているとはいえかなり近くに迫っているウルフのボスに向かって手を出した。
「オーガ!.......魔法陣?」
無口頭だったのか、少し間があった後に大きな魔方陣が展開された。
そうか、オーガも魔法が使えたな。俺よりかなり強力な魔法が。あのサイズの魔法陣となると、何かを発射するのだろか。オーガの事だから、ウルフとは言わずに周りの物も粉砕するんだろうな。
「いいぞオーガ!今回は遠慮しなくていいからなー!」
こうなることを知っていたらしい保護者が木の上から声援を送った。確かに、今回ばかりはオーガに周囲もろともの破壊を頼んだほうがいいのかもしれない。近くにあるものと言えば、河と、ウルフの後ろに城があるぐらいだからな。
不審そうに動きを止めたウルフのボスに向かって魔法陣から光が集まり、恐らく光線と思しきものが発射されようとしていた。
いやちょっと待て。後ろに城?!で、最高火力(?)?!
絶対吹き飛ぶぞ?
吹き飛ぶじゃすまないな。城の周囲も荒野と化すぞ。
........今から間に合うだろうか。
光が溢れ出すまでの数秒のうちに、俺は慌てて叫んだ。
「『闘技場』!」
魔法陣が地面いっぱいに展開され、ドーム状の壁が出来上がるのと、オーガの魔法陣から光が放たれるのはほぼ同時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴ.......ドォーーン.......
ウルフとは反対側、つまりオーガの後ろにいたはずの俺にも、強い風圧が襲い掛かった。
「おっと........」
まさかあの時仕込んでおいた浮遊術が今役に立つなんてな。
そうだ、障壁、俺の障壁は機能したのか?ちらりとウルフがいた場所の後ろの方を見ると、先程展開した障壁はヒビが入っているものの、城は無事そびえたっていた。
城の無事を取り敢えず確認した俺は、シャトーが木の上から下りてくるのを見つけた。
シャトーはくるくると周りを見渡し、障壁と、背後の自分を確認した。そして、よくやったと言わんばかりにこちらを向いた。
「リリス坊ならやってくれるって信じてたぜ!」
嘘つけ声が震えてるぞ。リミッターを外す前に自分の位置をとかを考えてくれ。