安全と運
「ダメじゃないかオーガ........」
「ひ、あそぶ........」
俺の目の前では、ようやく消し炭に気が付いたシャトーのお説教が始まっていた。
火遊びはダメだって、教えておかなかったのか?魔術を教えたらすぐに教える必修事項なんだ......あとは、遊び半分で攻撃系の魔術を使わないこととか......
「火は、遊んじゃ、ダメだ!」
「みず?」
水もダメだ。と言うか、オーガは魔術で遊んじゃだめだ。
「水は......まあ、少しなら........」
よくないよくないよくない
「取り敢えず、火はダメだ!な?」
「ひ、やめる........」
それでいいんだ。
「んじゃ、リリス坊。どうだ?これ、狩りには使えそうじゃないか?」
そうだな。かなり使えそうだが、決定的なダメージはこちらが与えないといけないが、それも安全に行える。
「使えると思うぞ。使い方次第で、今までとは違った獲物を狩ることができるかもしれない。」
「じゃあ、やってみるか!」
さっきやった気がするが、やってみよう。
「来たぞリリスぼー!」
森の少し開けた場所でモンスターをおびき寄せる術「挑発の笛」を使うと、これでもかというほどモンスターが集まって来た。
「あれは.......」
その中には、王宮でも食べられているいわば高級食材となるモンスターも混ざっていた。
「どうしたリリス坊?」
「いや、よく食べれられていたモンスターも混ざっていると思ってな。」
「おいしい?!」
オーガ、俺は食べたことが無いからわからない。
「まー、美味いだろ!よし、じゃあ、手筈通りに頼むぜ!」
よし、任せてくれ。
「『激流』、『乱反射』!」
まずは二つの魔術を使う。ひとつは、距離を取る「激流」。もう一つは、魔術を全方位に飛ばす「乱反射」。これで一方向にしか飛ばせなっかた「激流」が補強できる。
「ちょーっとかかってないのがいるからなー、気を付けろよー!」
やはり、全てに、と言うのは厳しいようだ。なら、もう一つ。
「『障壁』」
これは俺がいつも使っていた防御魔法。効果は、まあ、その名の通りだが、俺は通り抜けることができる、と言うのが利点だな。これで取り敢えず安全は確保した。
「よし!じゃ、次だ!」
シャトーの掛け声に俺は頷き、先程の「髑髏蛇」を使った。
「これで、完了だな。」
後はまあ、オーガに魔力を注いで出もらって窒息するのを待つだけだ。
「昇り龍」で叩きつけるのもよかったが、こちらの方がダメージが少ないな。それに安全だ。
「おわった!」
オーガが、あらかじめ仕組んでおいた「蜘蛛の巣」の魔術を使い、魔力をモンスターに送り込んでいた手を放した。
途端に何十と言うモンスターがバタバタと崩れていった。
「これで、肉には困らないな。肉には.......」
「.......ん。」
オーガとシャトーは複雑そうな顔をしている。そうだよな、今日は魚のつもりだったもんな。
「たまには茹でてみるか?脂が落ちて体にもいいし.......」
俺がそう言いかけると、ゴトン、という音がして、あるモンスターの中から小さな紫色の石が落ちた。
「.......ん?あれは?」
先に気が付いたシャトーが、銛のままふよふよと近付いた。そのまままじまじと眺め、こちら(?)をくるりと振り向いた。
「リリス坊。」
「なんだ?」
「シャトー、なにかあった?」
いつになく真剣なシャトーの声に、オーガも首をかしげた。
シャトーはその石を俺に渡しながら、続けた。
「リリス坊は、まあ、運がいいというか、悪いというか.......」
どうした?いつになく歯切れが悪いぞ?
「まあ、仕方ないというか.......」
シャトーがもごもごと言っていると、遠くの方で地響きが聞こえた。
「これはだな、この森のウルフのボスを呼び寄せてしまう石なんだ。」
明らかに強そうな咆哮が森に木霊した。
「そのウルフはな、『百獣の王』と呼ばれてだな、まあ、強いんだ。」
あと、大きい。と付け足す俺たちの前の木ががさがさと揺れ、その百獣の王が現れた。
「おおきい!」
大きいってレベルじゃないくらい大きい。これほんとに狼か?
「この石を手に入れた人間はほぼ生き残ってないぞー!石を手放しても無駄だからなー!倒すまでついてくるぞー!」
燃やしてみようとした俺の手元が見えたらしく、シャトーはそう忠告して木の上に避難した。
おい、裏切り者。
「まあ。勝てん相手じゃないと思うぞー!オーガもいるしなー!訓練の成果だと思って頑張ってくれー!」
シャトーが言うよりも早く、ウルフのボスが俺たちに狙いを定め、襲い掛かった。