話術と実用
「はあ......やっぱり。」
案の定、昨日よりも早く姿を現した例の大河は、周りの木々を飲み込み、一回りか二回りほど大きくなっていた。
「なあ、今日は危ないと思うぞ。」
これぐらいになれば、あの二人の物差しでも「危ない」という認識になるだろうか。いや、もしかしたら
「んー?なんかちょっと大きくなったか?」
「かわ、おおきい?」
ちょっとどころじゃないぐらい大きい。危ないから今日は帰ろう、まで思考が回ってくれ。
「まあ、気のせいだろ!」
「ん!いっしょ!」
一緒じゃない。全く違う。もしかして目が節穴......いや、一人はいま銛だから目がないとして。
「よーし、じゃあ、始めようぜ!」
始めたくない。せめてこの川から離れたい。
というか、この濁流で魚なんているのか?いたとしても食べれるのか?流木で傷ついているだろうし、素材にも使えなさそうだが......
「なあ、シャトー。今日は大河......じゃなくて、川が濁ってるから、魚の場所もわからないし、流木に押されているかどうかも分からないぞ?」
増水して危ない、と言うのは多分伝わらないから黙っておこう。
「そうなのか?確かに昨日より見づらくなっているが......」
「さかな、いない?」
よし、純粋な方がのっかった。
「ああ。それに、流れが速いし、捕まえれないと思うぞ。」
多分流されることはないと思う。通常でもかなり早い流れの中で素潜りしてたから。
「シャトー、さかな、いない?」
「んーー、まあ、リリス坊が言うんだったら、そうなんだろうな。」
よし、オーガに弱い奴ものっかった。
「いないんだったら......明日にするか。」
「あした!」
そうだ、そうしよう。それが絶対俺にとっていい。
「それがいいと思う。明日なら少しはましになっているだろう。」
「じゃあ、今日は何する?魚がダメなら肉を狩るか?」
いや、今から釣りがてら魔術を教えてくれるんだろう?
「まじゅつ!」
「そうか!魔術の練習をするのもいいな。」
それをするために来たんだろ?
「じゃあ、まあ、魚がいなくても使えるし、リリス坊に5......6つ目の術を教えよう。」
いま5つ目、って言いかけたな。
「これは補助的な役割をする術だ。」
ふむ。「激流」や「赤眼」みたいな感じか。
「えーと、対人向けだから、なにかよさそうなもの........あ、そこにウルフがいるぞ。」
ちらりと後ろを見ると、騒がしくし過ぎたのか、ウルフ........狼とはまた違う、禍々しいモンスターが2,3匹木々の隙間からこちらを窺っていた。
「そのうち出てくるだろうから.....と、オーガ、まだ早いぞ。これはリリス坊の獲物だからな。」
「ん.....」
早速飛び出して遊ぼうとしたらしいオーガが、しょんぼりとした。
「グルルルル........グアォッ!」
そんな話を知ってか知らずか、3対3なら勝てると踏んだのか、ウルフが一斉に木々から飛び出してきた。
「今だリリス坊!6つ目だぞ!よく狙うんだ!」
また狙わないといけないのか。まあ、「砕岩流」よりは安全だろう。
よく狙って........
「ああ。........『髑髏蛇』。」
しっかりと3匹のウルフを狙い、術を唱えると、3つの魔法陣はウルフの下に展開され、白い蛇のような文様が浮かび上がった。
「グ........グ?」
文様が消えた瞬間、ウルフがピクリとも動かなくなった。
これが「髑髏蛇」か。髑髏を巻いて獲物を捕らえる蛇のように、相手を行動不能にするのか。この手の魔術にしては即効性があるな。それに、耐久をありそうだ。
「すごな、これ。」
これを使えば確実に、安全に仕留めることができる。しかも、損傷なしで。素材集めや食料狩りにぴったりだ。
「ただ動きを止めるしかできないんだが........多分『白水蛇』のなかじゃ一番使えないんじゃないか?」
そうか?結構実用的だと思うんだが....
その間にウルフがなす術もなくオーガに炭にされたのは、その後に気が付いた。