乙女の努力
「昨日はひどい雨だったわね、リコ。」
朝日が差し込む窓を見ながら、私はリコにそう言った。
昨日は稀に見る大雨だった。一部の地域では落雷もあったそうで、兵士が状況を確認している最中とのことだ。
「そういえば、『千里の海』も潮が満ちて大変だったみたいね。」
国境にある海も、満潮と大雨が重なって高潮になってしまった。被害は甚大になっているそう。
「大規模討伐も間近に控えているのに......」
最近、国の少し向こうにある「龍の森」と言うところで、不可解な現象が起きている。突然竜巻が発生したり、モンスターの変死体が見つかったり、ハンターが次々と行方不明になったり......
今までそんなことはなかったから、緊急会議が開かれて、急遽原因特定と討伐が決定したみたい。で、今ギルド長兼治安部隊隊長のなんとか、と言う人が隊長として、大規模討伐の準備をしているの。準備、といっても、人員を集めて、武器を準備、あとは、食料もかしら。取り敢えずいろいろなものを準備して、大人数で調べるみたい。
それが一週間後に迫っていたのだけれど......この雨では行商人はこれなさそうね。出発が少し伸びるかもしれないわ。
......ん?行商人?
「そうだった!」
忘れてた。行商人の配達品リスト、まだ全部見ていないんだった。昨日の雨で中断したんだ。
「早く、全部確認して、リリス様の無実を......」
私がリストを出そうとしたとき、ドアがコンコンとノックされた。
「エミリア様。お食事の用意ができました。」
あ、朝食がまだだったわ。危ない危ない。
「ええ。今行くわ。」
私はそう返事をしてすぐに大食堂へと向かった。
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「さあ。気を取り直して、全て見てしまいましょう。」
朝食及びその他諸々から解放された私は、部屋の鍵をかけ、オルゴールの小箱からお姉様にもらったリストを取り出した。お姉様がたくさん渡してくれたものだから、全て目を通すのにかなり時間がかかった。でもあと2枚。今までの報告書にはリリス様が薬を頼んだ形跡はなかった。
「この2枚に書いていなければ......」
私は見落としの内容、ゆっくりとリストに目を通し始めた。ない、ない、ない、ない........
そういえば、リリス様はあまり行商人を使わない。このオルゴール小箱ギリギリはいるぐらいのリストにも、数えるほどしか名前がなかった。時々部屋を留守にしていることがあったけど、もしかして、ご自分の足で薬草を取りに行っていたのかしら。
「............ない、わね。」
あと一枚。そう思って、最後の一枚に触れると、窓辺で大あくびをしていたリコがこちらへやって来た。
「リコも見てくれるの?」
リコは肯定するようにニャーと鳴き、私の膝の上に座った。
なんだか、応援してくれているみたい。
「よし、じゃあ、いくわよ。」
意を決して最後のリストに目を通した。ゆっくりと、丁寧に。
「ない、ない、ない、ない............」
半分の時点で名前はない。
「ない、ない、ない....................どこにも、ない!」
リリス様の名前は遂に出てこなかった。
「やったわ!これで、リリス様の無実に一歩近づいた!」
王宮に届けてもらうためには、リストに載っていない、という事はあり得ない。そして、報告書にはリリス様は行商人から受け取っていた、と書かれている。
つまり、矛盾が生じている。
「さ、これで行商人から取り寄せていないことは分かったわ。」
念のため、リストの写しを取っておこう。それくらいなら、私でも魔術で何とかできるわ。見つかったら大変だから、屋根裏にでも隠していこうかしら。あそこならリリス様と私しか知らないから。
「次は.........リリス様が持っていたという薬草を手に入れないといけないわね。」
浮かれている場合じゃないわ。証明しないといけないことはまだまだあるのだから。リリス様が持っていた薬草を手に入れる............
........................
「............かなり、難しいわね............」
............できるのかしら?
総合評価 100 pt 突破しました! 有難い限りです!これからもよろしくお願いします。